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雪村展 [美術]

東京藝大美術館
http://sesson2017.jp/index.html

雪村は15世紀末に常陸国で生まれ、東国で生きた戦国時代の画家。実力の割に知名度が低いのは関東にいたからで、当時の中央だった京などにいればもっと高い評価を得ていただろうとのこと。私などは無知で、雪舟の弟子とか子孫とかなのかと思ってたくらい。すみません。
知名度が低いと言ったけど、それは一般の話で、あの尾形光琳なども雪村の絵を模写したり、インスピレーションを得た絵を描いていたり、明治以降でも橋本雅邦や、狩野芳崖なども模写をするなど、後世まで影響を与えている。
若冲、蕭白などいわゆる「奇想の画家」の元祖のようにも言われているらしい。

1a.jpg
呂洞賓図(りょどうひんず)
チラシ、ポスターにもなっているこれなど「奇想」と呼ばれる所以か。波風渦巻く中に龍の頭の上に立つ仙人。異様なポーズ、表情。なんともインパクトの強い絵だ。なぜか手指の毛まで描き込まれてある。雷鳴と龍の鳴き声が聞こえてきそう。足下の波の描写も不思議。

でもこういう「変な」絵ばかりでなく、伝統に則った風景画山水画もある。

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金山寺図屏風
茫洋とした背景と、精緻に描き込まれた寺の建物。よく見るとどういう地形なのかよくわからない。この建物のそこかしこに人物が描き込まれているのが楽しい。
他の山水画でもほとんどに人がいる。荷を負って歩いていたり、釣りをしていたり、人と語らっていたり。そういう人物が絵に生命力を吹き込むように見える。

そう、雪村の絵は、まなざしが温かい。人間にしろ、動物にしろ、雪村の優しさを感じる。

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猿猴図
猿がカニを捕らえようとしている。後ろでは猿の仲間達が声援を送っている。いわば猿蟹合戦。なんともユーモラスで楽しい。

どの絵も確かな技術と、柔軟な心で描かれたのが感じられる。とてもすがすがしく、面白く楽しい。

雪村の絵以外にも、影響を受けた光琳や、明治の画家の模写や作品も展示されて、脈々と受け継がれた雪村スピリットのようなものが見えて、それも楽しい。

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夢幻恋双紙~赤目の転生~ [舞台]

4月17日(月) 赤坂ACTシアター

1704赤坂歌舞伎.jpg

勘三郎が始めた赤坂歌舞伎。息子達が受け継いで、今回初めての新作。

蓬莱竜太 作・演出
新作歌舞伎
夢幻恋双紙(ゆめまぼろしかこいぞうし)
赤目の転生(あかめのてんせい)

太郎   勘九郎
歌   七之助
剛太   猿 弥
静   鶴 松
末吉   いてう
源乃助 亀 鶴
善次郎 亀 蔵

太郎は歌に惚れて一緒になるが、甲斐性なしで、歌の兄源之助に殺される。だが生まれ変わって、違う人格になって、また歌と一緒になるが、、、。

勘九郎が、歌が好き、と言う以外は全く違う男を演じ分ける。ろくに働かず甲斐性無の情けない太郎、金と力を手にし暴力的で傲慢な太郎、人が良くて友達思いで、歌を好きなのに友達に譲ってしまってでもそれを引きずる太郎、さらに。。。

そのどれもが、自分では歌を幸せにしたいと思っているのに、本当の歌の気持ちを理解しない、できないでくの坊。とにかく「イタイ」男。勘九郎はそれぞれの太郎の特徴をよく捉えて、情けなかったり、嫌われ者のワンマンだったり、を的確に捉えて見せている。早替わりではなく、あくまでどれも太郎という同じ人物というのも面白い。見てる方は、どうしてそう極端になっちゃうんだよ、とハラハラする。男の強さと弱さ。優しさと裏返しの暴力性。上手いな、勘九郎。そうだよ、上手いんだよこの人。
もっともっとこの人が実力を発揮できる芝居が見たい。無理に父親の二番煎じじゃなく、勘九郎の個性に合った役が見たい。今回の役は、新作だから当然だけど、勘三郎の影が見えず、勘九郎のオリジナリティが発揮できていてそれがうれしかった。

七之助の歌も、太郎の転生につれて違う顔を見せる。でもどの歌も無意識に男を引きつけ、男に頼って生きている。でも最後の最後に明かされる歌の思い、それがすべての事の起こりになっていたとわかるラストは衝撃。七はこういう儚げさややるせなさを見せるのが上手い。

猿弥の剛太が気のいい男で、良い友達。まっすぐで、唯一まっとうな登場人物かも。おいしいとこを持って行った。
亀鶴の源乃助が薄気味の悪い兄かと思えば、暴君太郎に逆らえない男になったり。亀鶴さんはニヒルな役がお似合い。無気味で影のある様子がぴったり。
鶴松の静、ごく普通の娘かと思いきや、太郎の妾、と言うより情婦といった方がぴったりくる女になったり。末恐ろしい子だわ、鶴松君。妙な色気があるんだよね。それも健康的なじゃなくて、背徳的な暗い感じが。
いてうが抜擢で末吉を好演。気が弱くてお調子者。

亀蔵がせっかく出てるのに見せ場が少なくてもったいない気も。でもしっかり見せるところは見せるのがさすが。

作者の蓬莱竜太と言う人の名は、私は初めて知った。小劇場で活躍している人らしい。もちろん歌舞伎は初めて。妙に歌舞伎に挑まずに、まあ普通の時代劇的なアプローチなのがシンプルかつストレートで好感は持てる。
転生というふしぎな題材で、男と女の業を描いた面白さ。あえて言えば、男の太郎はよく書けているが、女の歌の方をもう少し掘り下げてあれば、と言う気がした。

舞台セットもシンプルだが、切り絵を使ったモダンさがあり、新しさも感じるが歌舞伎の舞台として違和感がない。ただ、小屋などの装置を動かすのが串田風に思えて、あれがはやりなのかなあ、と思ったり。
下座音楽は使わず、ポイントになる場面でピアノの演奏が入るが、不思議とマッチしていて面白かった。

「歌舞伎」かと言われれば、普通の俳優でもできそうな気もするので、そうは言い切れないが、芝居として面白かった。特に勘九郎には財産になりそうで、再演されると良いな。
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エルミタージュ美術館展 [美術]

森アーツセンターギャラリー
http://hermitage2017.jp/
大エルミタージュ美術館展 オールドマスター 西洋絵画の巨匠たち

エルミタージュ美術館の膨大なコレクションから、「オールドマスター」と言うことでルネサンスからバロック絵画を中心にした展覧会。特にエルミタージュの創設者といえるエカテリーナ女帝の生存中に購入された絵画にポイントを置いている。エカテリーナ自身の趣味も反映されているだろう。

展示は国・地域別。

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ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《羽飾りのある帽子をかぶった若い女性の肖像》
イタリアからはティツィアーノ。残念ながらラファエロやボッティチェルリなどフィレンツェ絵画はなし。
よく考えると不思議なファッション。男装という説も。モデルもティツィアーノの愛人だったという説もある。ごく私的な絵だったのかも。

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レンブラント《運命を悟るハマン》
オランダ。エルミタージュにはレンブラントの充実したコレクションがあって、1枚じゃ物足りない。もっと見せて~、と思ってしまう。これもレンブラントらしい人物の心理描写が絶妙。派手な色使いはないが心に残る。

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ピーテル・ブリューゲル(2世)(?)《スケートをする人たちと鳥罠のある冬景色》
フランドルもバロック美術の宝庫。庶民の生活を描いたブリューゲルの逸品。寒々とした景色の中でスケートをしたりする人々が生き生きと描かれる。フランドル絵画はこういう風俗画がいい絵が多い。

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スルバラン《聖母マリアの少女時代》
スペイン。残念ながら、ベラスケスやエル・グレコなどはなし。
聖母マリアの幼い頃と言うことで、神聖さよりも少女の愛らしさが強く感じられる。スペイン絵画は、スルバランの同時代のムリリョなども、聖母子や天使が愛らしくて好き。

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ヴァトー《困った申し出》
フランスからはロココの創始者ヴァトー。フェート・ギャラント(優雅な宴)と言う、上流階級の男女の優雅な姿を描いたジャンルで名を馳せた。

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ゲインズバラ《青い服を着た婦人の肖像》
最後はドイツとイギリスをまとめて。クラナハもあったが、このゲインズバラも素敵。
現物を間近でよく見ると、衣装の白いところなど早い筆致でささっと描いてあって、後の印象派の先駆けのよう。100年早い。ヘアスタイルもインパクト大。

さすがエルミタージュ、名品をいっぱい持ってるなあ、と感心しながら拝見。(いや、ほんとはもっとすごいのいっぱいあるはず、とも思いながら。)前にも見たことがある作品もあったけど、やはり巨匠の作品は見応えあり。
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渡辺省亭展 [美術]

加島美術

渡辺省亭(1852~1918)は明治時代に活躍した日本画家。来年2018年が100回忌に当たるのを記念して初の回顧展だそう。
フランスに渡ってドガら印象派の画家達とも交流があったり、フェノロサや天心にも認められていたが、画壇に属さず弟子も取らず、孤高の画家だったためか今はそれほど知名度が高くない。

私も、山種などの展覧会で見たことはある気がするが、それほど気にとめていなかったが、今回初めてまとめてちゃんと見て、とても素敵だと思った。

ほとんどが花鳥画。
どれも水彩画のような淡い色彩のグラデーションが美しい。

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牡丹に蝶図(部分)
この牡丹の花の表現が素晴らしい。たらしこみのような微妙なぼかしが繊細でため息がでる。

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桜のつばめ(部分)
丁寧に写実的に描き込まれた部分と、早い筆致でささっと描かれた部分の対比も目を引く。

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秋鶏冬鷺図(部分)
これなど、一見とてもあっさり描かれているようで、でもちゃんと鷺の姿が写し取られていて、寒々とした背景から冷気が伝わってくる。

美術館ではなく、ギャラリーでの展示会なので出品数は30点ほどだがどれも本当に素晴らしい。

抱一などの琳派の系統に連なるようで、もっと新しい。印象派と交流があったというのも影響があるのか、どこかしら洋風な印象も受ける。特に花の絵がそれはそれは美しくてうっとり。また、鳥の絵も多いがその目がどれも愛らしい。フクロウや鷹などでさえきょろりとした目つきで可愛い。きっと省亭は鳥好きだったんだろうな。

肉筆画の他に、七宝工芸家の濤川惣助とともに無線七宝を編み出し、迎賓館赤坂離宮「花鳥の間」には現在でもその七宝作品が飾られているとか。これも見たい。

生前はかなり活躍して賞も受けたりしたのに、現在省亭の作品があまり見られないのは、海外で人気が高く多くが外国にあるというのも一つの理由だそう。

この展覧会と平行して、都内各所の美術館や博物館でも所蔵する省亭の作品を展示する連動企画が行われているそう。機会があればそちらも見たい。
詳しくはHPで。http://www.watanabeseitei.org/

加島美術での展示は4月9日(日)まで。お急ぎ下さい。http://www.kashima-arts.co.jp/

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茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術 [美術]

東京国立近代美術館
http://raku2016-17.jp/index.html

桃山時代、千利休のために茶碗を焼いた初代長治郎に始まる楽家の15代にわたる歴史をたどる展覧会。
中でも利休も使ったかもしれない初代の茶碗が7つも出品されるのが目玉。

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長治郎 黒樂茶碗 銘 大黒
黒楽の代名詞ともいえそうな、どっしりとした重みと黒々とした色の茶碗。

楽焼は常々難しいと思っていて、禅に通じる精神性のようなものが作品に映されている気がして構えてしまう。素人には名作と駄作の区別がつかない。ただ、ホウホウ、こういうのがあるのかと観るばかり。

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三代 道入 赤樂茶碗 僧正 
赤楽。白泥で色紙のような文様を描き、透明釉が掛けられている。初代の茶碗に比べると装飾的。

ただ初代から450年の歴史を見ていくと、あくまで道具であった茶碗が、今では良くも悪くも芸術作品になったと感じた。当代の作品がいちばんたくさんあったのだが、その芸術的価値はさておき、これで茶を点てようと思うかな、と思ってしまった。

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十五代 吉左衛門 焼貫黒樂茶碗 女媧

少なくとも江戸時代までの茶碗は抹茶を入れたらさぞ美しいだろうと思うが、当代のははなから鑑賞用に見えて、あれで茶を点てる気にはなれないし、おいしそうに見えないと思うんだ。全くの素人考えだけど。

発見は、赤、黒の他に白楽というのもあったこと。へえ、白い楽焼!とちょっとびっくり。あと、茶碗以外に香炉とか獅子像などもあって意外だった。いや自分が知らなかっただけだけど。

それにしても楽家、光琳乾山の尾形家と縁戚とか、光悦とも交流があるとか、(乾山と光悦の作品も展示あり)、うわ~京都やわ~、せまいんやな~、とか思いましたわ。

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古唐津展 [美術]

出光美術館

(すでに終了)
すぐ近くの有田焼や鍋島の華やかさと違って、唐津焼は色味も少なく地味な印象。ほとんどが「枇杷色」と表現される薄い茶色に濃い茶色であっさりとした絵付け。う~ん、渋い。

でもこうしてまとめて見ていくと、その滋味あふれる器が、人に寄り添い、暮らしをさりげなく彩るもののような気がして愛おしいと思う。

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絵唐津草紋壺 重要文化財
唐津と言えばこういうの。と言う代表的な色柄。ぼってりとした形、あっさりと描かれた草模様。なんだかほっこりする。

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奥高麗茶碗 銘秋夜
何の変哲もない、と言ったら怒られそうだが、ほんとに「作為」が全く感じられない。でもほんのり漂う品が美しい。

唐津焼のルーツは朝鮮で、同時代の志野や織部の影響も柔軟に受けて発達したのだそう。そう言われてみれば、志野と色合いが似たものや、片身代わりの織部風のものなどもあった。

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朝鮮唐津耳付水指
これなどは、古唐津のイメージを破るもの。白や黒の釉薬をたたきつけるように回しかけた様はまるでモダンアートのような激しさで上の草紋壺などとはえらい違い。

観る前は地味で面白くないかも、と思っていたが、案外に面白かった。焼き物って奥が深いわ。
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伊賀越道中双六 [舞台]

国立劇場大劇場

昨年来の国立劇場開場50周年記念公演の掉尾を飾る公演。
平成26年12月の公演が歌舞伎として初めて読売演劇大賞を受賞したことも受けての早々の再演はありがたい。

序  幕 相州鎌倉 和田行家屋敷の場
二幕目 相州鎌倉 円覚寺方丈の場
      同          門外の場
三幕目 三州藤川 新関の場
      同         裏手竹藪の場
四幕目 三州岡崎 山田幸兵衛住家の場
大  詰 伊賀上野 敵討の場

(主な配役)
唐木政右衛門            中 村 吉右衛門
山田幸兵衛              中 村 歌  六
佐々木丹右衛門・奴助平     中 村 又 五 郎
和田志津馬              尾 上 菊 之 助
近藤野守之助            中 村 歌  昇
捕手頭稲垣半七郎・石留武助  中 村 種 之 助
幸兵衛娘お袖            中 村 米  吉
池添孫八               中 村 隼  人
沢井城五郎・夜回り時六      中 村 吉 之 丞
和田行家               嵐   橘 三 郎
沢井股五郎              中 村 錦 之 助
政右衛門女房お谷         中 村 雀右衛門
幸兵衛女房おつや         中 村 東  蔵

配役もほとんどが前回と同じ。
場割は前回の誉田家大広間の場をなくして円覚寺を上演。
ただし円覚寺では本行の股之助の母を出さなかったため、争いの種の刀の扱いについても変更になっているが、文楽を見ていない人には気にならないかも。

全体に、やや手探り感もあった前回よりさらに練れて深みが増した。
序幕では橘三郎が厳格だが子供の心配もする老武士を手堅く見せた。
錦之助が憎々しい敵役で役の幅が広がった。普段優男や屑男なのに。。。(笑)

円覚寺では又五郎が非業の死を遂げる丹右衛門。律儀で物堅い武士の様子があって儲け役。
その同じ又五郎が次の関所の場では奴の助平で、三枚目ぶりで笑わせる。まさに180度転換。いや~、上手いな又さん。

菊之助の志津馬は「家中きっての男前」と言われるだけの二枚目ぶり。それを自覚して、自分に一目惚れしたお袖を利用する非情さも匂わせる。ここが前回より強く感じられたのが進歩。
お袖は米吉で、黄八丈の着物がよく似合いかわいらしい娘ぶり。志津馬に見とれる様子がいじらしい。

眼目の岡崎。
歌六の幸兵衛が素晴らしい。前回にまして古武士の腹の据わった様子が大きく、また口跡の良さが素晴らしく舞台を締める。

吉右衛門は、関所で登場したときの身のこなしがいかにも剣豪の隙のなさ。
岡崎では偶然であった昔の師匠幸兵衛から敵の手がかりを得ようと緊迫感がみなぎる。女房のお谷が苦しむのも見殺しにして、我が子が人質にされそうになると無残にも子を自ら殺して、そうまでしても股五郎の行方を探ろうとする。その非情さが今まで文楽で観てもいまいち納得がいかなかった。前回の吉右衛門の舞台ですら。だが今回のを観たら、そこまで政右衛門が追い詰められて、極限状態にあったのだと言うことがわかった。今このチャンスを逃したら、今度いつ手がかりが得られるかわからない。今までの苦労も水の泡になるかもしれない。そういう緊張と恐れに夫婦親子の情も捨てざるを得なかった、と言うよりとっさに我が子を手にかけてしまった武士の悲しさつらさが胸をえぐる。

雀右衛門のお谷、岡崎では巡礼となって夫の後を追い、苦難にあえぎながらなんとか夫に子供を見せたい一心の切なさを口説きに聞かせる様子が哀れさにあふれる。その苦労がかえって徒となって夫に我が子を殺され、でもそれも仇討ちのためとあれば文句も言えない。武家社会の女のつらさをひしひしと感じさせる。

米吉のお袖も最後は尼となる。女二人と赤ん坊の犠牲の上に仇討ちは成就する。
最後の鍵屋の辻では隼人と種之助も奴で立ち回りで元気はつらつ。
今回は敵側の歌昇は憎らしげな様子が意外に似合って、最後は吉右衛門叔父様に切られて本望か。
とにもかくにも最後は敵を討ってめでたしめでたしで幕。

前回、40何年ぶりとかで復活された岡崎、またこれっきりになるのはなんとももったいない。ぜひ他の座組でも取り上げてほしいし、歌舞伎座でもやってほしいと思う。

この公演で、去年から続いた国立劇場50周年記念も終わり。千穐楽には終演後理事長のご挨拶と吉右衛門の音頭で手締めも行われた。




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三月大歌舞伎 夜の部 [舞台]

歌舞伎座

双蝶々曲輪日記
一、引窓(ひきまど)

南与兵衛後に南方十次兵衛 = 松本幸四郎(9代目)
濡髪長五郎 = 坂東彌十郎(初代)
平岡丹平 = 松本錦吾(3代目)
三原伝造 = 大谷廣太郎(3代目)
母お幸 = 市川右之助(3代目)
女房お早 = 中村魁春(2代目)

幸四郎の与兵衛はちょっと立派すぎるかな。侍に取り立てられたばかりという初々しさが薄い。義理堅い様子はよく出ていたけど。それと、母が絵姿を売ってくれと言うのを受けて他の人と違い「私“も”あなたの子でございます」って言っていた。それもかなり”も”を強調していたような。「私は」だと、息子に隠し事をするのか、という感じなのが、「私も」だと私も息子なのに、実の息子をかばうんですね、と恨みがましい感じ。なので個人的には「私は」の方が好き。

魁春のお早は元は花街にいた艶やかさの名残と、人の良さがあっていい。
右之助のお幸も、実子と継子の間で揺れる母の切なさを見せる。この人のお幸で良かったのは、夫が生きていた頃は武士の女房でしかも代官の妻とあればそれなりの気位もあるであろうというところが垣間見えたところ。であればこそ、はじめは実子を助けたいと思うが、後にはそれでは義理が立たぬと思い直すだけの理性を持つ。ただの百姓女ではない。

彌十郎の長五郎も誠実で義理に厚い様子が似合い。

二、けいせい浜真砂(けいせいはまのまさご)
女五右衛門
南禅寺山門の場

石川屋真砂路 = 坂田藤十郎(4代目)
真柴久吉 = 片岡仁左衛門(15代目)

「楼門五三桐」の五右衛門を女に置き換えたもの。ストーリーなんてあってないようなもので、ただ二人の役者ぶりを愛でる演目。
藤十郎は台詞が聞き取りづらかったが、あのたいそうな衣装で舞台に立たれるだけでもう頭が下がる。
そして仁左衛門の久吉の颯爽として美しいこと。
ただただこの場面が見られただけで眼福。


河東節開曲三百年記念
歌舞伎十八番の内
三、助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)
河東節十寸見会御連中

花川戸助六 = 市川海老蔵(11代目)
三浦屋揚巻 = 中村雀右衛門(5代目)
くわんぺら門兵衛 = 中村歌六(5代目)
朝顔仙平 = 市川男女蔵(6代目)
通人里暁 = 坂東亀三郎(5代目)
三浦屋白玉 = 中村梅枝(4代目)
福山かつぎ = 坂東巳之助(2代目)
傾城八重衣 = 坂東新悟(初代)
傾城浮橋 = 尾上右近(2代目)
傾城胡蝶 = 大谷廣松(2代目)
傾城愛染 = 中村児太郎(6代目)
男伊達山谷弥吉 = 澤村宗之助(3代目)
男伊達田甫富松 = 市川男寅(7代目)
文使い番新白菊 = 中村歌女之丞(3代目)
奴奈良平 = 市川九團次(4代目)
国侍利金太 = 片岡市蔵(6代目)
遣手お辰 = 市村家橘(17代目)
三浦屋女房お京 = 大谷友右衛門(8代目)
曽我満江 = 片岡秀太郎(2代目)
髭の意休 = 市川左團次(4代目)
白酒売新兵衛 = 尾上菊五郎(7代目)
口上 = 市川右團次(3代目)
後見 = 市川右之助(3代目)

今年は河東節ができて300年になるそうでそれを記念しての上演。

なんだかんだいっても、助六は海老蔵だな。他に男前な役者はいっぱいいるけど、助六となると話は別で、やはり成田屋でなくちゃ。と、とりあえず思わせてくれたので満足。

雀右衛門初役の揚巻。観る前は地味じゃないかと心配したが、なかなかどうして。それは玉様のような女王様ではないけど、華もあり堂々として美しい。悪態の初音も明瞭で気持ちいい。だが何よりも、助六への思い、その母満江への気配りがしっとりと感じられるのがこの人らしい。再演を重ねて当たり役にしてほしい。

菊五郎の白酒売が、力の抜け加減といい、柔らかみといい、この人ならではの傑作。さらさらと何も構えるところないようでいて、きっちりツボを押さえてくる最上の巧さに舌を巻く。

左團次の意休も今はこの人しかいない安定感。
白玉は梅枝。雀右衛門揚巻の妹分として十分の貫禄。毎度ながらこの安定感は何なんだ。

かつぎは巳之助で、頑張ってるけどちょっと力みが目立った。今月はこれ以外の役も含めて大車輪だが、どれもややもすると顔芸に走りがち。抜けといっても難しいだろうけど、もうちょっと力抜けると良いな。
通人里暁は亀三郎。代々のこの役の人に比べるとあっさり目で行儀良く。きっとお金の払いもきれいで、太鼓持ちや花魁にも人気がありそう。立ち去り際には5月の襲名もしっかりアピール。

並び傾城がまた若返った。みんな可愛い。この中から次の白玉や揚巻は出るだろうか。

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三月大歌舞伎 昼の部 [舞台]

歌舞伎座

一、明君行状記(めいくんぎょうじょうき)
池田光政 = 中村梅玉(4代目)
青地善左衛門 = 坂東亀三郎(5代目)
妻ぬい = 市川高麗蔵(11代目)
弟大五郎 = 中村萬太郎(初代)
若党林助 = 市村橘太郎
木崎某 = 中村寿治郎(初代)
吉江某 = 片岡松之助(4代目)
筒井三之允 = 中村松江(6代目)
磯村甚太夫 = 河原崎権十郎(4代目)
山内権左衛門 = 市川團蔵(9代目)

禁猟の御用地で過って鳥を撃ち殺した善左衛門。明君と名高い主君の光政は善左衛門の命を助けようと考えを巡らすが、一方善左衛門の方は主君の本心を知りたいと直々の裁断を願う。
青果らしい台詞劇。
なんと言っても光政を演じる梅玉の口跡が素晴らしい。日頃かわいがっている家臣の善左を助けてやろうとしているのに、小生意気に向かってくる善左を掌で転がすように理屈でへこませる様子が傑作。権威を笠に着るのではなく、善左衛門と正面から向き合いながら、青二才のおまえなぞに本心など探られてたまるものか、という自負心がみなぎる。同じ殿様でも綱豊卿とは違う、ざっくばらんな物言いもおかしみがあり、人を食ったような理屈にも最後は善左ともども煙に巻かれたような気分だがなんとなく言いくるめられた気になってしまう。梅玉さん、すごいわ。

対する善左は亀三郎。こんなに台詞の多い役初めてではないだろうか。日頃から声のいい人なので、あの美声で台詞がたくさん聞けて幸せ。もちろん感情表現もよく練られて、こんなに芝居のうまい人だったかと改めて感心。一本気で、かなりめんどくさい性格の善左を好演。

團蔵の権左衛門が殿様の側近で狸親父のようなとぼけた味を見せる。
松江が善左のいとこで、善左を案じる様子に心情がこもる。

二、義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
渡海屋
大物浦

渡海屋銀平実は新中納言知盛 = 片岡仁左衛門(15代目)
女房お柳実は典侍の局 = 中村時蔵(5代目)
相模五郎 = 坂東巳之助(2代目)
銀平娘お安実は安徳帝 = 市川右近(2代目)
入江丹蔵 = 市川猿弥(2代目)
武蔵坊弁慶 = 坂東彌十郎(初代)
源義経 = 中村梅玉(4代目)

仁左衛門は銀平の出から颯爽として文句なしにかっこいい。衣装を改めての知盛は神々しいばかりの高貴さ。手負いとなっての再度の出では深手を負った凄惨な姿で、義経一行へのすさまじいまでの恨みと、ひたすら帝大事の一念を見せる。帝に諭され、局も自害し、心も折れての述懐が悲痛で、最後の「昨日の敵は今日の味方」の後の笑いが、これですべてが終わるのだという諦念と、戦い疲れた自分の一生を振り返る寂しさにあふれて胸を刺す。美しくて気高い知盛。

時蔵はお柳ではさっぱりとした世話女房の風情。局と改まってからは高貴な様子と帝への敬愛を見せて、凜として美しい。
義経の梅玉も御大将の凜々しさと気高さを見せる。やはり梅玉さんの義経は当代一。

三、神楽諷雲井曲毬(かぐらうたくもいのきょくまり)
荷持どんつく = 坂東巳之助(2代目)
親方鶴太夫 = 尾上松緑(4代目)
若旦那 = 市川海老蔵(11代目)
太鼓打 = 坂東亀寿(初代)
町娘 = 坂東新悟(初代)
子守 = 尾上右近(2代目)
太鼓持 = 坂東秀調(5代目)
太鼓持 = 坂東彌十郎(初代)
田舎侍 = 市川團蔵(9代目)
芸者 = 中村時蔵(5代目)
白酒売 = 中村魁春(2代目)
門礼者 = 坂東彦三郎(8代目)
大工 = 尾上菊五郎(7代目)

三津五郎さんの三回忌追善。もう二年か。。。
巳之助のどんつくは、まだ堅さもあるが、丁寧に一生懸命なのが良い。これから何度も踊るだろう。見続けていきたい。
松緑の親方がひょうひょうとした様子で、こちらはさすがに踊りも軽やか。曲芸の方はいささか危なっかしいがご愛敬。
亀寿も交えた三人での踊りが息も合って楽しげ。
周りも追善らしく顔ぶれがそろい、中でも大工の菊五郎がおおらかな味を出して場を和ませ、時蔵の芸者とも色めいた様子を見せて粋。
全員でのどんつくの踊りも楽しい。
三津五郎さん、見てるかなあ。みっくん頑張ってますよ。みんなが応援してますよ。と、楽しいのにホロリとなった。
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暁斎展 [美術]

Bunkamuraザ・ミュージアム
http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/17_kyosai/

「ゴールドマン・コレクション これぞ暁斎!」

イギリス人のゴールドマン氏の世界でも有数の暁斎コレクションの展覧会。
河鍋暁斎(1831~1889)は江戸末期から明治にかけて活躍した。浮世絵を国芳に、また狩野派にも師事したという経歴からか、ジャンルにこだわらない多岐にわたる絵を描いた。
ゴールドマン氏の最初の暁斎との出会いは動物の絵だったそう。そのせいか、コレクションにも動物の絵が多い。

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「象とたぬき」明治3年
ゴールドマン・コレクションのはじめの一枚。早い筆致で描かれたにもかかわらず象とたぬきの特徴が捉えられて、なんともユーモラス。

明治14年の第2回内国勧業博覧会に出品した鴉の絵が賞を受け、一躍名をあげた暁斎に、似た作品の注文が大量に来たそう。。

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「枯れ木に夜鴉」
これもその一枚で、賞を受けた作品に構図がよく似ているそう。

暁斎の魅力は、本格な絵からパロディのような漫画みたいな絵まで、本当に様々な絵を描いていることだと思う。

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「動物の曲芸」
鳥獣戯画の明治版かというような、猫やネズミやコウモリまでが様々な曲芸を披露する。ほんとに楽しい。

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「地獄太夫と一休」
こちらはガラッと変わって、本格的な肉筆浮世絵画。太夫の衣装も丹念に描き込まれ、踊る骸骨も精緻な描写。

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「龍頭観音」
これも狩野派で学んだ技量を発揮した、端正な絵。もしこういう絵だけを描き続けて極めていたら、また違う名声もあったかも、と考えてしまうが、この振れ幅の広さこそが暁斎の面白さなのだとも思う。

もちろん、暁斎と言えば、な妖怪変化の絵もあり、春画もあり、幽霊画もあり、と盛りだくさん。これが外国人のコレクションというのがうれしいような悔しいような。

画鬼暁斎とも言われた人生は、北斎にも似通った感じもある。残念ながら北斎ほど長生きはしなかったが。幕末から明治という、変化の激しい時代の波にもまれながらも新しいことを貪欲に取り込んで絵を描き続けた暁斎。必見の展覧会。
まあとにかく楽しいです。
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