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松竹座壽初春大歌舞伎 夜の部 [舞台]

1月3日(火) 松竹座

夜の部は二日目。

一、鶴亀(つるかめ)
女帝   藤十郎
鶴    国生改め橋之助
亀    宗生改め福之助
従者    宜生改め歌之助

いかにもご祝儀舞踊という感じで、ゆったり厳か。ついつい眠気に襲われて撃沈しました。でもお正月から神々しい藤十郎さんを拝見できて、めでたいめでたい。三兄弟はひたすら行儀良く。

二、口上
仕切りは今月も山城屋さん。我當さんも並ぶのが嬉しい。進之介もいるのは松竹座ならでは。内容はそれほど目新しい話はなかったように思う。
ただ、去年幹部昇進して梅花を襲名した芝喜松さんが列座、芝翫さんから紹介があったのが嬉しかった。歌舞伎座ではなかったからね。

三、歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
武蔵坊弁慶   橋之助改め芝翫
源義経     魁春
亀井六郎    国生改め橋之助
片岡八郎    宗生改め福之助
駿河次郎    宜生改め歌之助
常陸坊海尊   橘三郎
富樫左衛門   仁左衛門

橋之助時代にも弁慶はやっているが、今回は襲名と言うこともあってか、かなり力が入っていた。気持ちはわかるがちょっと一人で空回りしてるように見えるところもあり、まあ落ち着いて、と思ってしまった。でも、それが弁慶の必死さに繋がる部分もある。力の入ってない弁慶なんて、見られるか!とも思うので、そのへんの加減が難しい。台詞は明瞭で悪くない。山伏問答などもきっちりしている。むしろ、関所を通った後の、義経への侘びなどの場面がやり過ぎ感があったように感じた。月末にかけて落ち着いてくればいいな。祝幕を背にしての幕外の六方は否が応でも盛り上がる。

仁左衛門の富樫。悪かろうはずがない。台詞の明瞭さ、佇まいの凛とした美しさ。官僚としての智と武士としての情とを兼ね備えた高潔な人物像が浮かび上がる。冷徹さと内なる血の熱さと。ああ、久しぶりに正統な富樫見たなあ。これが見たくて今月松竹座を観に行ったと言っても過言ではない。この日は2階左袖の席だったので、普段は横顔の富樫をほぼ正面から見ることが出来て、幸せでした(笑)。

義経は魁春だが、この人はやはり真女形で、義経とは言え立ち役は向いてないんだな~。いくら能では子方が勤めるとは言え、歌舞伎の義経はやはり御大将の凛々しさや大きさがほしい。ただ小さく家来の影に隠れているような義経では困る。また、この日は笠の紐を結ぶのに手間取ったりしてハラハラするところも。

四天王には三兄弟が並ぶ。いずれは自分も弁慶、と思いながら父のを見てるんだろうなあ。

四、雁のたより(かりのたより)
髪結三二五郎七  鴈治郎 
花車お玉      孝太郎
若殿前野左司馬   亀鶴
愛妾司     児太郎
乳母お光    芝喜松改め梅花
医者玄伯    寿治郎
家老高木治郎太夫    彌十郎
若旦那万屋金之助    橋之助改め芝翫

東京ではまずかからない演目なので、久しぶりに見た。上方の、新喜劇風の笑いが肝の演目なので、そういう役者の腕がもろにでる。
鴈治郎は初演ではないらしいが、まだまだこういうおかしみは身についていないみたい。まだ相手がいて掛け合いになるところは良いが、一人漫才みたいなところがまだこなれていない感じ。歌舞伎役者の中で喜劇の上手い鴈治郎にして苦戦している。いや~、難しいなあれは。お稽古して出来るようになるような部分じゃないし、といってドタバタギャグでもないし。回数を重ねるしかないんだろうな。
まあ、話そのものはいい加減で、ラストもそんなうまい話あるかい!ってなもんだから、ストーリーで楽しませる演目とは言えないところが、上方らしくて難しいのだ。

孝太郎が花車らしい華やぎと柔らかさを見せるのがこの一座ではさすがに光る。
児太郎の司が傾城から身請けされて殿様の側女になっている女らしいツンとした美しさ。巧まずして笑いを取ってるのが良い感じ。やり過ぎないのがお父さんと違うところかも。
亀鶴が司にめろめろの馬鹿っぽいお殿様。
彌十郎が、この芝居で唯一のまともな人(苦笑)。誠実で暖かい。この頃こういう役がしみじみと似合うようになった。

どの人もやり過ぎない、ほどほどに品の良い舞台だった。それがこの演目に良いのか悪いのか、わからない。ドタバタとは違うから爆笑すれば良いというのでもないし。まだ二日目だったし、こなれてくれば深化するだろうか。

タグ:歌舞伎
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松竹座壽初春大歌舞伎昼の部 [舞台]

1月2日(月) 松竹座

前の記事でやっと去年の記録が終わりまして、これからやっと今年の分です。改めまして、本年もよろしくお願いいたします。

松竹座の年明けは芝翫とその息子さんたちの襲名披露。正月気分と相俟っていっそうめでたい気分。

一、吉例寿曽我(きちれいことぶきそが)
鴫立澤対面の場
工藤奥方梛の葉  秀太郎
曽我箱王   宗生改め福之助
曽我一万   宜生改め歌之助
小林朝比奈   国生改め橋之助
腰元久須美   芝喜松改め梅花
腰元宇佐美   新悟
近江小藤太   亀鶴
八幡三郎    松江

75年ぶりとか何とかの珍しい狂言。よくやる対面の、工藤の代わりに奥方がでて、並び大名でなく腰元たち、と女方がずらりと並ぶのでなんとはなしに華やいだ雰囲気。場面が雪の中というのも珍しい。曽我兄弟も対面の十郎五郎より幼く見えるのは、元々そういう設定なのか、今回の二人に合わせて書き換えたのかはわからない。

初日故、福之助、歌之助の兄弟は力が入って一生懸命。まだまだ勉強しないといけないことはいっぱいだけど、懸命さが清々しい。がんばって。
お兄ちゃん橋之助の朝比奈も同様だが、さすがに一日の長はあり、荒事らしい力強さを見せる。

秀太郎の奥方は最後の方でやっと姿を見せるだけだが、さすがの貫禄。若手の多い舞台をしっかりと締める。

当然初めて見る演目だったが、予想以上に楽しかった。月末に掛けてきっともっと盛り上がるようになるだろう。
     
二、梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)
鶴ヶ岡八幡社頭の場
梶原平三   橋之助改め芝翫
大庭三郎   鴈治郎
奴菊平   進之介
梢    児太郎
俣野五郎   国生改め橋之助
川島八平   松之助
山口十郎   橘三郎
剣菱呑助   彌十郎
六郎太夫   東蔵

昼の部の芝翫襲名披露縁目。
芝翫梶原は羽左右衛門型。刀に下げ緒を巻かないし、最後は手水鉢の向こう側から正面向いて斬る。播磨屋型より派手な印象だが、芝翫には似合う。
その芝翫の梶原だが、全体に爽やかで気の良い様子。もうちょっと大庭兄弟を食ったような感じもあって良いと思うが、まず手堅くまとめてはいる。でもこの芝居、きちんとやられても面白くないわけで、他愛のない、言ってしまえば馬鹿馬鹿しくもある内容を面白く見せるのは役者の腕次第。台詞回しの調子の良さで聞かせるにはまだまだなんだなあ。播磨屋と比べるのは気の毒だが、どうしてもあの名調子を思い浮かべてしまうと、物足りなく感じてしまう。芝翫にはさらに上を目指してほしい。

児太郎の梢が可憐。こういういじらしい娘がよく似合うようになった。
東蔵の六郎太夫は手に入った様子。娘思いの情の深い父親。
鴈治郎の大庭、ガラでなさそうだが、きっちり。「大庭は大名」は「だいみょう」と発音。「でえみょう」と言う人もいるが、あれは江戸風と言うことだろうか。前からちょっと不思議に思っている。
橋之助の俣野、さっきの朝比奈よりもさらにやんちゃでちょっとお馬鹿な様子をがんばって出していた。
呑助は彌十郎、やや真面目な呑助。

恋飛脚大和往来
三、新口村(にのくちむら)
亀屋忠兵衛/父親孫右衛門  仁左衛門
万歳   松江
才造   亀鶴
忠三郎女房   竹三郎
傾城梅川    孝太郎

忠兵衛と孫右衛門二役をやるのは仁左衛門以外では見たことがない。あまり好きなやり方ではない。というのは孫右衛門をやっている間は忠兵衛は吹き替えになるので、ちゃんと顔を見せられず演技も半端。あそこの、家の中からでるに出られず苦悩する忠兵衛の無言の演技も大事だと思うのである。
まあそれはともかく、忠兵衛は文句なしの二枚目色男。幕開き、むしろを開いた様子の美しさに息を飲む。まさに金も力もない優男だが、梅川を愛し、父親への義理も情もある。情けなくも愛おしい男。
孫右衛門としては、養い親への義理を持ちながら、実の親としての情があふれ出る。梅川を恨めしいと思いながらも優しさに感謝もし、なにより忠兵衛の無事を祈る。ほんの刹那抱き合って、突き放すように早く逃げろと急き立て、そっちだそっちだと見送る。見えなくなっても声が届かなくなっても祈りながら見送る。その悲しさ、切なさ。胸が締め付けられる。
仕草などには、若干普段老け役をやり慣れていないぎこちなさも感じないではなかったが、そういうことを凌駕する、丞のこもった、いやあふれ出る孫右衛門だった。

孝太郎の梅川、しっとりとして情が濃くて優しい女。こういう情の細やかな役が自然で上手い。自分故に忠兵衛が罪人になったという負い目と、嫁と名乗れずに孫右衛門に尽くす切なさが胸を打つ。拵えも黒の着物がよく似合う。傾城などの絢爛な衣装よりこっちが引き立つように思う。

竹三郎が忠三郎女房で達者なところを見せたのも嬉しい。おかしみと軽妙さがあってさすがに上手い。

1701shoutikuza.jpg
今月の祝幕。これも佐藤可士和さんのデザイン。ポップで楽しい。
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小田野直武と秋田蘭画展 [美術]

サントリー美術館
http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2016_5/display.html

江戸時代中期の18世紀後半に秋田藩で起こった西洋画(蘭画)風の絵画のことを秋田蘭画と呼ぶらしい。らしいというのも、小田野直武という人も秋田蘭画というのもほとんど知らなかった。では何故秋田で、というと、かの平賀源内が秋田へ来て、それをきっかけに小田野直武が江戸へ上り、「解体新書」の挿絵を担当して、蘭画を学んだのだそうだ。しかし、直武はそのたった7年後に早世。同時代の藩主佐竹曙山らも蘭画をものしたが、後に続くものがなく途絶えてしまったという、不思議な一派。なにしろ実質10年にも満たない期間で廃れてしまったのだから知られていないのも無理はない。

で実際どんな絵かというと、日本画の手法で西洋画の遠近感や陰影を真似たちょっと、いやかなり不思議な感覚の絵。もっと幕末になると、国芳などの浮世絵師もこんな感じの絵に挑戦しているが、これが江戸中期に、しかも秋田で、というのが興味深い。

a.JPG
小田野直武 不忍池
花の細部の描き方などは普通の日本画っぽいが、背景や影の付け方などが西洋画風。見ていると奇妙な感覚に襲われる。

b.JPG
佐竹曙山 松に唐鳥図
お殿様の手慰みと言うには立派な絵。

直武にしろ曙山ら他の絵師にしろ、作風はとても真面目で、一生懸命西洋画を勉強したんだろうなあと思う。でも正直言うと、興味深いとは思うけど、楽しい絵じゃないなあ、という感じ。まあ、期間が短すぎて、道半ばで亡くなってしまったというのもあると思うけど。
それにしても直武の死の謎とか、かなりミステリーも多くて、そういう点でも面白い。今後解明されていくだろうか。

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十二月大歌舞伎 第三部 [舞台]

1612歌舞伎座3.JPG

一、二人椀久(ににんわんきゅう)
松山太夫   玉三郎
椀屋久兵衛  勘九郎

玉様の二人椀久と言えば相手は仁左様と決まっていた。それが相手に若手の勘九郎を抜擢しての舞台。
椀久は恋しい松山太夫を思って物狂いになった男。しかし勘九郎は、あまり熱狂的ではなく、静かな表情で踊っていたのが印象的。でも眼差しは強く、松山を見つめる目には力がこもる。もう少し正気と狂気のあわいの切なさがでると良いのだけど。もちろん踊りは上手い。端正で、きっちりとした楷書の踊り。本当はこういうのでなく、もっと古典の踊りが見たいけれど。

玉様は始終口もとに優しい笑みを浮かべていた。椀久を包み込むような、励ますような。まるで、「大丈夫、姿が見えなくなってもずっとお側にいますよ」と言っているような。観音様か菩薩様のような慈悲深い美しさ。神々しくて涙が出る。こんな女の人を愛してしまったら、そして引き裂かれてしまったら、椀久でなくても狂ってしまうだろう。

二、京鹿子娘五人道成寺(きょうかのこむすめごにんどうじょうじ)
道行より鐘入りまで
白拍子花子   玉三郎
白拍子花子   勘九郎
白拍子花子   七之助
白拍子花子   梅枝
白拍子花子   児太郎
所化       亀三郎
同         萬太郎
同         橘太郎
同         吉之丞

娘道成寺版玉様ブートキャンプ。もう一人では踊らないと公言されている道成寺を、こういう形でも玉様が見せてくれたことがまずありがたい。
長い道成寺をいくつかのパートに分けて、あるところは二人で、あるところは一人で、順々に踊らせ、もちろん玉様も。次々に現れては交替していくので、目が追いつかない!本当にまるで夢を見ているような美しさと楽しさ。
踊りに詳しいわけではないので、誰がどうだった、とかは言えないけど、次代を担う若手が玉様の期待にこたえようと懸命に踊っている姿に胸が熱くなる。

勘九郎のを見ていると勘三郎のを思い出し、児太郎には福助が重なる。感慨深くてじーんとなる。

優劣ではなく、いちばん好きだったのは梅枝君。「ただ頼め」の部分を一人で踊った。たおやかでしっとり。ふっくらとしてきれいだった。お芝居だとなんだか薄幸なお役が多い梅枝君、こんな風に嬉しそうな顔で踊るの初めて見たような、、、これも玉様のおかげかしら?

最後は五人揃って鈴太鼓。その勢揃いしたところの華やかなこと。そしてなんだかガールズトークしてるような楽しげな様子にうきうき。5人が順に連なって鐘に登っての幕切れも眼福。

この4人のうち、誰が最初に一人で娘道成寺を踊ることができるだろう。実力だけではなくて、いろんなしがらみや運も絡んでくるだろうけど、いつか全員が歌舞伎座の本公演で踊れる日を楽しみに待ちたい。
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十二月大歌舞伎 第二部 [舞台]

宇野信夫 作
坂東玉三郎 演出
石川耕士 演出
一、吹雪峠(ふぶきとうげ)
直吉   中車
助蔵   松也
おえん  七之助

なんかねえ、こんな演目歌舞伎でやらなくても良いんじゃない?っていつも思うんだけど。ただの時代劇みたいで。まあ、このおえんを女優でやったら生々しくて見てられない、かもしれないとは思うけどねえ。

そのおえんは七之助。女の性に正直で、多分男なしでは生きていけない女。直吉を捨てて、助蔵と出奔したのも、自分を可愛がってくれる直吉にどこか物足りなさを感じていたのかもしれない。今は甲斐甲斐しく助蔵の世話をやくものも、いつまで続くことか、というどこか薄情さを感じさせる。我が儘というのではなく、自分の感情に正直なだけ。という、側にいたら迷惑な女を、あまり嫌味なく演じていて、面白かった。もっと嫌悪感を感じさせるやり方もあるだろうがそうはしなかったのか出来なかったのか。

松也がふとした過ちで兄貴分の女と間男した助蔵を好演。おそらく誘ったのはおえんの方だったろう。初な心に火がついてそのままずるずると落ちて、今は病も得て、自分でも気づかずに後悔していたかもしれない。そこに直吉が現れて、命惜しさに女なんかどうでも良いと思う身勝手さを見せる。こういうクズ男が松也ってなんだかぴったりなのよね。

中車が寝取られ男の直吉。渡世人の暗さと、二人に見せる恨みというより突き放した軽蔑の深さ。三人の中でいちばん共感できるのはこの直吉で、二人がお互いに責任をなすりつけ合うのを見てやりきれなさとバカバカしさにいたたまれず吹雪も顧みず外に飛び出していく。中車はさすがに細かい演技が上手い。直吉の心の変化を刻々と見せる。

この舞台、普通は猛烈な紙吹雪だが、今回は今流行りのプロジェクションマッピングというのか、映像で雪を見せるだけ。実に興醒めだった。これでは風の強さも雪の冷たさも感じられない。アナログな手法こそが歌舞伎の良さだと思うのだが。演出は玉三郎だそうだが、これもその指示なのだろうか。だとしたらがっかりである。

二、菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)
寺子屋
寺入りよりいろは送りまで
松王丸   勘九郎
武部源蔵   松也
戸浪   梅枝
園生の前   新悟
涎くり与太郎   弘太郎
下男三助   寿猿
春藤玄蕃   猿弥
千代    七之助

勘九郎の時代物と言うことでかなり期待して観たのだが、う~ん、ちょっと期待はずれだったか。
松也の源蔵もだが、時代物の台詞の息の詰め方や間の取り方が出来ていない。子を犠牲にする父親の情というのは見えるけれど、こんな名作、台本読んでも泣ける位なんだから、泣かせてくれた、では足りない。時代物は怖い。二人とももっと大幹部の下で研鑽を積んでほしい。
主役四人の中では梅枝が頭三つくらい抜けている。既に何度かやっているとは言え、貫禄すら感じさせる。
七之助の千代は寺入りからの丁寧な上演で、悲しみをこらえる姿が涙を誘う。
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十二月大歌舞伎 第一部 [舞台]

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

と、新年のご挨拶をしておいてなんですが、最初の記事は去年書ききれなかったものから。(当分続きますので悪しからず)

kabukiza201612_a.jpg

12月の歌舞伎座公演は三部制。
第一部は新作「あらしのよるに」

きむらゆういち 原作(講談社刊)
今井豊茂 脚本
藤間勘十郎 演出・振付
新作歌舞伎
あらしのよるに

がぶ  獅童
めい  松也
みい姫   梅枝
たぷ   萬太郎
はく   竹松
山羊のおじじ  橘太郎
ばりい   猿弥
がい    権十郎
狼のおばば   萬次郎
ぎろ   中車

原作は絵本。あらしの夜、お互いの姿を見ずに友達になった狼のがぶとやぎのめい。この二人(二頭?)の友情と葛藤を中心に、狼の勢力争い、狼対山羊の争いなどを上手く歌舞伎に仕立ててある。衣装もオオカミ、ヤギそれぞれにそれらしく、顔は狼は隈を取り、山羊は白塗り、と一目でわかる。
もちろん古典歌舞伎とは違うが、竹本も上手く使ってあって台詞もわかりやすくて、争いの場面などもスピーディで面白い。歌舞伎初心者にも取っつきやすいだろう。実際、子供も多く見に来ていたが喜んでいた。こういう新作もあって良いよね。

獅童はこの作品の事実上の生みの親。ほとんど出ずっぱりの活躍で、独特の台詞「~でやんす」といった言い回しも面白い。狼としては気の弱い、仲間はずれにされているがぶが、やぎのめいと友情をはぐくむ中でも、「(友達なのに)おいしそう」「食いてえなあ」と言う葛藤も見せるのが楽しい。
獅童は、正直言って、古典歌舞伎をやらせると浮いてしまうのだが、超歌舞伎とかこういう新作では魅力を発揮する。こう言ってはなんだが、初心者を歌舞伎に招き入れるポジションでがんばってくれたらいいかな、と思っている。

めいの松也も臆病で心優しい様子がぴったり。がぶが狼とわかって、怯えたり、本当は自分を食べたいんじゃないかと疑ったり、それでも友達を信じる様子があたたかい。

権十郎が狼の中でいわば正義派。言っちゃなんだが、これまで見た権十郎でいちばん格好良かった。
中車があくどい狼のボスで、さすがにドスがきいている。
猿弥がその手下だがコミカルな味がうまい。
梅枝のみい姫が、一人古典のお姫様がそのままいるみたい。清らかで楚々とした様子がぴったり。
その他、若手や脇役を上手く配して、新作としてはハイレベルな出来。獅童の財産として、これからも再演されるといいと思う。
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通し狂言 仮名手本忠臣蔵 第三部 [舞台]

12月25日(日) 国立劇場大劇場

3ヶ月続きの忠臣蔵もいよいよ大詰め。

八段目   道行旅路の嫁入
本蔵妻戸無瀬  中 村 魁  春
娘小浪       中 村 児太郎

一週間前京都で藤十郎と雀右衛門で見たばかり。あちらは常磐津だったがこちらは竹本。またこちらは奴を出さないなど、少し違うところも。
児太郎が可憐で初々しい。また、魁春が母親の貫禄と言うよりは、若々しくてノリの良い継母という役どころに良くあって素敵。

九段目   山科閑居の場
加古川本蔵    松 本 幸四郎
妻戸無瀬      中 村 魁  春
娘小浪       中 村 児太郎
一力女房お品   中 村 歌女之丞
由良之助妻お石 市 川 笑  也
大星力弥      中 村 錦之助
大星由良之助   中 村 梅  玉

歌舞伎では珍しい雪転がしからの上演。
前半はお石と戸無瀬の女の対決が見物だが、如何せん笑也のお石が全く義太夫の台詞回しになっておらず興醒め。魁春と児太郎は八段目に続いて良い出来だったので、なんとも惜しい。他にお石をやれる役者を出せなかったものか。
幸四郎の本蔵は既に何度も勤めて手に入っていて、父の愛情の深さと、判官や由良之助らへの申し訳に身を捨てる切なさがあるが、これも台詞の微妙なビブラートが耳障り。
梅玉の由良之助は、自然体というか、梅玉らしいゆったりとした構えが印象的。悪くはないけど、梅玉さんはやっぱりお殿様役者で、御家老じゃないんだなあ、と改めて感じたのも事実。
錦之助の力弥が若々しく似合いの役。

十段目   天川屋義平内の場
天川屋義平    中 村 歌  六
女房お園     市 川 高麗蔵
大鷲文吾     中 村 松  江
竹森喜多八    坂 東 亀  寿
千崎弥五郎    中 村 種之助
矢間重太郎    中 村 隼  人
丁稚伊吾     澤 村 宗之助
医者太田了竹  松 本 錦  吾
大星由良之助  中 村 梅  玉

これも歌舞伎では上演の少ない段。
歌六の義平が男気があって、申し分なく格好いい!「男の中の男一匹、天川屋義平は男でござる!」の台詞に胸がすく。
とは言え、見所はそこだけで、話も適当すぎて、全段までと同じ作者とは思えない。いきなりおかみさんの髪を切るとかありえないだろう!文楽でも思ったが、由良之助の態度も煮え切らないし、滅多に上演されないのも無理ないなあ、と思った。

十一段目  高家表門討入りの場
        同  広間の場
        同  奥庭泉水の場
        同  柴部屋本懐焼香の場
        花水橋引揚げの場

大星由良之助  中 村 梅  玉
大星力弥     中 村 米  吉
寺岡平右衛門  中 村 錦之助
大鷲文吾     中 村 松  江
竹森喜多八    坂 東 亀  寿
千崎弥五郎    中 村 種之助
矢間重太郎    中 村 隼  人
赤垣源蔵     市 川 男  寅
茶道春斎     中 村 玉太郎
矢間喜兵衛    中 村 寿治郎
織部弥次兵衛  嵐    橘三郎
織部安兵衛    澤 村 宗之助
高師泰       市 川 男女蔵
和久半太夫    片 岡 亀  蔵
原郷右衛門    市 川 團  蔵
小林平八郎    尾 上 松  緑
桃井若狭之助  市 川 左團次

ここでも滅多にやらない広間の場がつく。少年なのに浪士に立ち向かう小坊主の玉太郎が健気。
泉水の場の見物は、松緑の平八郎と亀寿の喜多八の立ち回り。キレッキレの松緑が、先月の定九郎に続いて死に様の美を追究してみせる。
普段の十一段目で平右衛門が目立つことはまず無いが、今回は錦之助が律義でちょっとがさつな奴の雰囲気を見せてなかなか。錦之助さん、この忠臣蔵通しで何役やったんだろう。若狭之助も良かったし、いずれは判官が見たいな。

最後は花水橋で、左團次が浪士たちを見送る。(いや、10月に師直やってたのあなたでしょ、発端作ったの誰よ、と思わないでもなかった)。ここで浪士が一人ずつ名を名乗るのだが、そこまでやらなくても、と言う気がした。

ともあれ、3ヶ月連続での通し上演はやはり意義があって、見る方も一緒に討ち入りした気分。国立劇場にはこれからもこういう通しをどんどんやってほしい。
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當る酉歳 吉例顔見世興行 第一部 [舞台]

12月20日(火)

一泊して、翌日第一部だけ拝見。

源平布引滝
第一、実盛物語(さねもりものがたり)
九郎助住家の場
斎藤別当実盛   愛之助
瀬尾十郎兼氏   亀鶴
百姓九郎助    松之助
葵御前      吉弥
小万      友右衛門

愛之助の実盛は初役だったろうか。仁左衛門に習ったのだろう、爽やかな口跡で物語もよく聞かせ、誠実な人物像がよく出てなかなか。後は義太夫味のコクがもっと出てくれば。再演に期待。舞台機構の関係で実盛の花道の引っ込みがないのが残念。
    
亀鶴の瀬尾も、若いのに気の毒と思ったが堂々として前半は憎々しげで後半は娘と孫への情愛を示してなかなか。平馬返りで客席を沸かす。
吉弥の葵御前が、引き窓のお幸と打って変わって、美しい御台所の役で似合い。位取りの確かさもあってさすがに上手い。
松之助の九郎助も良い味でほっこり。
配役をよく見ていなかったら、小万が友右衛門だったのでちょっとびっくりした。まあ女方もやる人だけど、ここで出てくるとは思わなかったわ。

仮名手本忠臣蔵
第二、道行旅路の嫁入(みちゆきたびじのよめいり)
  劇中にて襲名口上申し上げ候
戸無瀬   藤十郎
奴可内   鴈治郎
小浪    芝雀改め雀右衛門

第一部の襲名披露狂言。
藤十郎の戸無瀬、もうあまり体は動かさないのだが、ゆったりとした中に母の情や思いが溢れる。
雀右衛門の小浪が可憐で初々しく、10代の娘として違和感がない。
二人の雰囲気がとても睦まじく、小屋が小さいこともあってとても親密な空気の舞台だった。
鴈治郎の奴も愛嬌たっぷりで御馳走。
劇中口上があり、普段の口上でも何度も仕切りを勤めた藤十郎が挨拶を述べるのが、さすがに堂々たる貫禄で、あたりをはらう大きさがある。付き合っていただいて京屋さんもありがたいことだろうと感じた。

先斗町歌舞練場での顔見世、おそらく来年はないだろうから、珍しい体験はできた。舞台と客席が近い独特の味わいはあるが、あまり見やすいとは言い難かった。早く南座の改修が終わりますように。
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當る酉歳 吉例顔見世興行 第三部 [舞台]

12月19日(月) 先斗町歌舞練場

今年の顔見世は三部制。座席数が少ないため、多くの人が見られるように、だそうだがどうなんだろう。
各部も短くて、三部の終了も8時半前、と顔見世とは信じられない短さ。こんなの、今年だけにしてもらいたい。

双蝶々曲輪日記
第一、引窓(ひきまど)
  八幡里十次兵衛住居の場
南与兵衛後に南方十次兵衛   仁左衛門
女房お早    孝太郎
母お幸     吉弥
三原伝造    亀鶴
平岡丹平    市蔵
濡髪長五郎    彌十郎

仁左衛門の与兵衛は6月に博多座でも見たばかり。与兵衛という人物の心根のまっとうさ、母への複雑な気持ちを的確に、しかし自然に見せて、心の動きを余すところなく見せていく。その中で、無邪気な可愛さがあったり、孝行心と役目との葛藤に揺れる気持ちがあったり、でも最後は母への優しさが迷いを凌駕していく人情味の豊かさがあたたかい。

孝太郎のお早も手に入った様子で、気立ての良い嫁が姑の気持ちを察して取る行動の一つ一つに誠実さと優しさが見え、また元は遊女であった色気も滲む。
吉弥のお幸は、老け役で気の毒な感じもしたが、実の息子と義理の息子の板挟みになる老母の悲しさ切なさを見せる。
彌十郎の長五郎も誠実で義理堅い様子が良い。

小さい小屋でやるのにぴったりな演目で、アンサンブルも良く、この顔見世いちばんの充実した舞台だった。

第二、京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)
  鐘供養より押戻しまで
白拍子花子   芝雀改め雀右衛門
強力不動坊   廣太郎
強力普文坊   廣松
大館左馬五郎   海老蔵

女形の大名跡の襲名とあれば、一度はやらないと、な娘道成寺。とは言っても、芝雀時代からそれほど踊りがお得意というわけでもない京屋さんなので、見る前からちょっと不安。。。
実際のところ、とても丁寧に丁寧に踊ってらして、好感は持てた。いつもながら可愛らしいしお綺麗だし。けど、その丁寧さが堅さも生んでいて、まるで踊りのおさらい会を見てるような気がして見てる方も正直力が入ってしまう。要するに余裕がないってことかなあ。

あと、雀右衛門さんは男に騙されても「アタシが悪いの、騙されてもあの人のこと好き好き」感があふれてるので、恨みで焼き殺しそうな気がしない。そういう意味でも、最後押し戻しがついて鬼女の拵えになるのがお似合いとは言い難く。

海老の押し戻しは申し分なくでっかくて、荒事はこれだ~!って満足感いっぱい。でも、あれが出ることで最後全部持ってっちゃう感じもあって、襲名披露にはどうだ?な気もしないではない。それに雀右衛門さんも拵えがあれになるし。押し戻しなしで綺麗な顔で鐘に登って幕の方が良かったなあ。

今回は所化を出さずに強力二人という珍しい型。これも役者の数が少ないからか。


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當る酉歳 吉例顔見世興行 第二部 [舞台]

12月19日(月) 先斗町歌舞練場

恒例の京の顔見世。いつもの南座が改修工事中のため、今年は先斗町歌舞練場という珍しいところで。30年くらい前、やはり南座の建て替えの時は、祇園甲部歌舞練場だった。先斗町の方は入るのも初めて。2階までしかなく、座席数も500ちょっとで南座の半分くらいでずいぶん小さい。一応鉄筋だけど、雰囲気は小屋という感じ。小さいから舞台と客席が近いのは良いが、音響が全く響かず、残響ゼロという感じなのは鳴り物には辛い。不思議なもので、音がチープだと、芝居全体もなにやらチープな感じがしてしまって、今ひとつ盛り上がらなかった気がする。

菅原伝授手習鑑
第一、車引(くるまびき)
梅王丸   鴈治郎
松王丸   愛之助
杉王丸   廣太郎
藤原時平   市蔵
桜丸    孝太郎

鴈治郎、愛之助、孝太郎という上方勢ばかりでの車引きというレアな舞台。書き割りも、始めの梅桜の出会いの場が田園風景だったり見慣れたものと違う。桜丸が隈を取らないとか、松王の衣装が水色とか、江戸前のとはいろいろ違って面白かった。あと、梅王丸が二度目の出でも三本刀を差していなかったように見えたけど、違うかな?

鴈治郎の梅王が力強く、隈取りの顔と良い体つきと良い、人形のようだった。
孝太郎の桜丸はもう少しはんなりした柔らかさがほしい。
愛之助の松王が凛々しくなかなか。
    
第二、夕霧 伊左衛門 廓文章(くるわぶんしょう)
  吉田屋
  劇中にて襲名口上申し上げ候
藤屋伊左衛門    仁左衛門
扇屋夕霧       芝雀改め雀右衛門
吉田屋喜左衛門   彌十郎
太鼓持豊作     廣太郎
阿波の大尽     松之助
番頭清七     友右衛門
女房おきさ    秀太郎

二部の襲名披露狂言。京屋さんの襲名が決まった時から、どこかでこの夕霧をやらないかなと期待していたので、嬉しい。
その新雀右衛門の夕霧は、儚げでおっとりとした美しさ。病み上がりのか細さと、伊左衛門に逢えた嬉しさに今にも泣き出しそうな風情。こういう、守ってあげたい女がほんとによくお似合い。
仁左衛門の伊左衛門は、もう何も言うことはない。ぼんぼんの可愛らしさ炸裂。なんなんですかね、あれは。仁左様の伊左衛門という特別な生き物じゃないですか。ある意味、誰も嫌いになれないパンダかコアラみたいな(暴言失礼)。
    
秀太郎のおきさは鉄板。
彌十郎の喜左衛門は秀太郎と並ぶと真面目というか、元は武士か?みたいなお茶屋の主なのが微笑ましくもあり。
廣太郎がんばれ。

終盤、伊左衛門の勘当がとけた知らせが来たところで、劇中口上あり。珍しく仁左衛門の口切りで、こじんまりとアットホームな口上。
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