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秀山祭三月大歌舞伎・夜の部 [舞台]

3月19日(月)20日(火)

引き続き夜の部も鑑賞。あ、ちなみに今回は、昼夜各2回、それぞれ一階と三階で。

  平家女護島
一、俊寛(しゅんかん)
俊寛僧都       吉右衛門                 
海女千鳥       芝 雀               
丹波少将成経  種太郎改め歌 昇                
平判官康頼       吉之助              
丹左衛門尉基康       錦之助               
瀬尾太郎兼康       歌 六

熊谷同様、俊寬も吉右衛門の当たり役。もう何度目だろう。だが観るたびに深みを増している。
吉右衛門の俊寬は、少なくともはじめは決して徳の高い高潔な人物ではない。気位が高くて人恋しいくせに自分からは仲間を訪ねていかない、赦免船が来れば人を押し退けて前へ出る。そんな、ちょっと付き合いにくい奴が妻の死を知って島に残る、仲間を守る覚悟を決める、その劇的変化の重さが胸を打つのだ。

芝居の幕が開いてから降りるまで1時間半くらいだろうか。その間、まるでジェットコースターのように俊寬の感情は激しく動く。喜びから悲嘆へ、そして歓喜したかと思ったらまたまた絶望へ。その感情の揺れ動く様を吉右衛門は一瞬たりともおろそかにせずに、恐ろしいまでに丹念に見せていく。その起伏の激しさにこちらも眩暈をおぼえるよう。

千鳥を船に乗せると決心したとき、すでに俊寬は死ぬ覚悟をしたに違いない。瀬尾を倒した後「とどめは刺すな」と丹左衛門に言われたにもかかわらず、あえて罪を重ねることで退路を断つその決心の重さ。にもかかわらず、船が出ていけばやはり追いかけずにはいられない悲しさ。まるで断末魔の叫びにもにたあの「おおい、おおい」の声の悲痛さに匹敵する台詞があるだろうか。
岩の上から遠ざかる船を呆然と見送る目からだんだんと光が消えていき、魂も抜けてしまった、まさに抜け殻のような俊寬を見つめていると、きりきりと胸が痛んで、息ができないほど苦しくて、悲しいとか感動したとか、そんな生易しい言葉じゃ言い表せない気持ちだった。ただただ圧倒されたとしか言いようがない。

歌昇の少将。同じ流人でも、青年らしい初々しさが華を添える。千鳥との馴れ初めを語る様子に恥じらいがあり、一緒に船に乗れないと言われて、それなら自分も残る、という姿に若者らしい一途な純愛が見えて良い出来。
千鳥は芝雀で、純朴で愛らしい様子がぴったり。一人残されてのクドキもやり過ぎず行儀悪くならないのがこの人の持ち味。
丹左衛門は錦之助で、知的で爽やかな捌き役の風情があり上々だが、瀬尾と対等な役人の貫禄がもう少しほしい。
吉之助の康頼も行儀良い。

瀬尾は歌六でこの人がこういう赤っ面の悪役は珍しい。堂々たる敵役ぶりだが、なんとなく(実は良い人なんじゃないの)と思ってしまうのは日頃のお役からのこちらの思い込みのせい。

二・口上
仕切りの吉右衛門を筆頭に、口上順で行くと翫雀、愛之助、錦之助、芝雀、歌六、種之助、歌昇、又五郎。
中村座や先月演舞場に比べても行儀良い、あまり笑いを取るような話はなかったか。播磨屋さんらしいと言えばらしい口上でした。
中で錦之助さんが、「私も昔は播磨屋でした」とか、「(又五郎さん歌昇さんと一緒に)これからも吉右衛門の兄さんの元で勉強(精進、だったかな)していきたい」とかおっしゃってて、なんだかご自分も播磨屋に戻りたそうな口ぶりだったなあ。。。まあ時蔵さんと違って、音羽屋より播磨屋とご一緒されることが多いしねえ。気分はほとんど吉右衛門劇団の一員なんだろうなあ。

三、新歌舞伎十八番の内 船弁慶(ふなべんけい)
静御前/平知盛の霊  歌 昇改め又五郎                  
源義経       愛之助                 
舟子岩作  種太郎改め歌 昇                
 同浪蔵       壱太郎                 
亀井六郎       桂 三                 
片岡八郎       種之助                 
伊勢三郎       米 吉                 
駿河次郎       隼 人                
武蔵坊弁慶       翫 雀               
舟長三保太夫       吉右衛門

今まで「船弁慶」ってあまり面白いと思ったことがなかった。というか、前シテではほとんど寝落ちてしまう苦手な演目。能から来た踊りって退屈なんだもん。なので今回もあまり期待していなかった。言っちゃなんだが、又五郎の静というのも普段女形しない人だからピンと来なかったし。
ところがこれがまあ、大いに予想を外れて、素晴らしい舞台だったのです。
特に前シテ、又五郎の静は、さすがに芝居の播磨屋の人らしく、情があって哀しくて切ない。もちろん踊りも品があり素敵。もっと綺麗な静は幾らでもいるかもしれないが、こんなに思い入れが深い静は初めて観た。又さんほんとに泣いてたし。能写しのせいか、他の人の静はもっと無表情に見える。その方が正しいのかもしれない。でもあくまで歌舞伎舞踊としてみた場合、この又五郎の静はとても感情豊かで、長唄の歌詞がすんなり心に入ってくる。それでいてしっとりと品も良くたおやかで、お世辞にも美貌の静ではないのに、とても綺麗に見えた。ああ、この静ってこんな踊りだったんだ、と初めてわかったような気がした。(今まで寝てたからですね、はい、すいません)

そして後シテの知盛も勇壮で力強く、大きさもあってとても立派。いや~、ほんとに又五郎さん格好良かった。また一段役者ぶりが上がったなあ。

愛之助の義経が気品ある様子で美しい。
翫雀の弁慶が骨太で貫禄を見せた。

間狂言で舟長に吉右衛門が出てご馳走で付き合う。踊り、というほどのものでもないが、大真面目にやってるのがほのぼの。
舟子は歌昇と壱太郎の若手コンビ。特に歌昇君が、吉右衛門と一緒に踊れるのが嬉しくて仕方ない、という様子で楽しそうだったのが微笑ましい。

かぶりつきで観ていると、知盛が長刀を振り回すとほんとに目の前まで突き出される感じがして、それは迫力だった。ああ、面白かった。
こんなに充実した船弁慶は初めて観た。ほんとに、良いものを見せていただいたという感じ。播磨屋一門、ますますのご発展、嬉しい限り。
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nori

 いつもmamiさんの深い洞察に「そういう見方もあったのか?」と感心させられます。私がブログに瀬尾はそう悪い人ではないのではと書いたのは、歌六さんにだまされたということがよくわかりました。今後も記事を楽しみにしています。
by nori (2012-03-25 17:52) 

mami

noriさん、こんばんは。
いえいえ、私はかなり思い込み激しいので、他の人と見方が違うだけかもしれません。あまり参考になさらない方が(^^;)
でも今月の秀山祭はほんとに良かったです。5月は松竹座で團菊祭がありますし、関西で歌舞伎公演が増えるのは嬉しいですね。
by mami (2012-03-25 23:56) 

とみた

まみさん、こんにちは。
今月は吉右衛門さんが良い役やりすぎて又五郎さんがかすんでしまったのではないかと心配です。
私は歌昇くんが大きい役やるので、前半に追っかけ。
堤軍次やるのがすごいなと思ったんですが、俊寛の少将の方にやられました。あれで、やっと俊寛に目覚めました。若い人の役は若い役者にやってもらわないと、私みたいな想像力貧困には話が理解できませんよ。
by とみた (2012-03-26 12:26) 

mami

とみたさん、こんばんは。
いえいえ、又五郎さんも船弁慶で素晴らしかったです!
歌昇君も猩々、少将と良い出来でしたよねえ。襲名で花が開いたようで嬉しいです。今後が楽しみですね。
by mami (2012-03-26 22:51) 

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