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オーケストラ・アンサンブル金沢東京定期 [音楽]

3月22日(火) サントリーホール


曲目
武満徹 : ノスタルジア -アンドレイ・タルコフスキーの追憶に-(1987)
シューマン : チェロ協奏曲 イ短調 op.129
ベートーヴェン : 交響曲第3番 変ホ長調 op.55 「英雄」

指揮 井上道義
チェロ :マリオ・ブルネロ

アンサンブル金沢の演奏を聴くのは実は初めて。もちろん名前はよく知っていたけれど、機会がなかった。今回は、ブルネロがソロを勤めるというので、これは聴かなくちゃ、と言うことで足を運んだ。

武満の曲は、ヴァイオリンのソロ(コンマスのアビゲイル・ヤング)が透明感のある音で美しく、オケも小編成の良さが生きてアンサンブルの緻密さが光る。

注目のシューマンは、なんと言ってもブルネロのソロが素晴らしい。いつもながら豊潤で暖かい音色が美しく、内省的なシューマンの音楽でも重くなりすぎず、しかし心の深いところに染み入る。しみじみと良い音楽。ああ、やっぱりブルネロ好きだわ。OEKも室内楽的なところもあるこの曲をブルネロの歌うソロにあわせて好演。

アンコールを3曲も。
J.S.バッハ(シューマン編): 無伴奏チェロ組曲第5番 ハ短調 BWV1011から サラバンド
J.ウィア: Unlockedから 第1番
J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調 BWV1009から プレリュード

1曲目のは、バッハの無伴奏組曲にシューマンが伴奏をつけた珍しいもの。こんなのあったんだ。初めて聞いたわ。指揮なしで弦楽合奏だけ。不思議な感じだった。


「英雄」は、この規模のオケで聞くのは初めて。コントラバスが管楽器の後ろに配置される珍しい並び。やや早目のテンポで軽快で風通しの良い演奏。少人数オケゆえに各パートの音が粒立って聞こえる。なにしろ人数が少ないので、管楽器のセカンドまでちゃんと聞こえてきそうな、ある意味恐ろしい編成だが、団員のレベルは高くしっかりとした、そして溌剌としたベートーヴェン。もちろんそれをまとめた井上道義の指揮も明快で、聴いて良かった!

ミッチー、病後でちょっと心配したがお元気そうでなにより。でも痩せたな~。ひょろっとしてなんだか魔法使いみたいだった。

宮川香山展 [美術]

サントリー美術館
http://www.suntory.co.jp/sma/exhibit/2016_1/index.html

春章も記念年だが、香山も没後100年とあって先日の高島屋とほぼ同時開催。高島屋では真葛香山展になっていたが。

高島屋の展示でもいっぱい見たけど、こちらでもやはり高浮彫は圧巻。どれもこれも、これほんとに焼き物?って思う精緻さ。

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高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒蓋付水指
チラシでアップになってる猫、口の中までリアルに表現。ちょっと怖いくらい。

会場内では写真を撮って良いコーナーもあり。

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作品名、メモするの忘れてしまったけど、鳥の描写が生き生き。

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こちらは壺の表面のくぼみの中にいる蛙。大きさ、数センチ?でこの細かさ。

でも正直言ってこういうのずーっと見てると疲れてくる。
後半になると、高浮き彫りから釉下彩の作品に移る。こっちの方が個人的には好み。

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釉下彩盛絵杜若図花瓶
釉下彩で思った通りの色を出すのはとても難しいんだとか。こんな繊細な色合いを出した香山の高度な技は素晴らしい。

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色嵌釉紫陽花図花瓶
これもとても上品で、素敵。

高浮彫りにしても釉下彩などにしても、とにかくデザインが凝っていて独創的。伝統を守るのでなく新しいことをどんどん取りこもうという明治の芸術家の進取の気性の強さが感じられる人。そしてそれを具体化できる技術力を併せ持った希有な人だったんだなあ。とにかく脱帽。

勝川春章展 [美術]

太田記念美術館
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/exhibition/2015_katsukawashunsho
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先日見た出光美術館のは、肉筆画に絞った展示だったが、こちらは版画。両方観ることで、春章の全貌がわかる。
春章は前半生では役者絵や相撲の力士絵で名を挙げた。

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勝川春章「三代目瀬川菊之丞の草花うりお菊実は大和国小女郎狐 初代坂東三津五郎の忠信」
春章の役者絵は、それまでのと違い、リアルに役者の風貌を写したところが新しかったという。
そしてそれはその後の写楽らに受け継がれていく。

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勝川春章 「西方 江戸 柏戸勘太夫 大坂 稲川政右エ門」
驚きなのは、春章が画家として活躍し始めたのは40代と言う遅いスタートでまずは役者絵で評判をとり、しかしそこに安住せず、相撲絵に取り組んだのは50代になってから。当時としては老年だろうが飽くなき挑戦を続け、さらに晩年に肉筆画の傑作をものにしたわけである。

春章には多くの門人がいて、勝川派は江戸の浮世絵界で大きな派閥となった。北斎も若い頃は春章の弟子だった時期があり、春朗の名をもらっていた。

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勝川春朗(北斎)「初代中村仲蔵」
でも、北斎は春章の死後は勝川派を飛び出し(兄弟子と不仲だったとか言う説があるらしい)、その後もいろいろ名前を変えていく。でもあの北斎のルーツが勝川派なのか、と思うといろいろ面白い。

と言う風に、この展覧会では、春章から写楽へ、あるいは北斎へ、と言う江戸後期の浮世絵の流れの源流を春章に見出して春章の業績を再評価しようという内容。春章がいたから写楽が生まれ、北斎も生きた。肉筆画の見事さと共に確かにもっと認められて良いと実感。
出光と両方観られてほんとに良かった。

ムーティ指揮 日伊国交樹立150周年記念オーケストラ [音楽]

3月17日(木) 東京芸術劇場

指揮:リッカルド・ムーティ
管弦楽:日伊国交樹立150周年記念オーケストラ
    ~東京春祭特別オーケストラ&ルイージ・ケルビーニ・ジョヴァニーレ管弦楽団
バス:イルダール・アブドラザコフ
合唱:東京オペラシンガーズ
児童合唱:東京少年少女合唱隊

ヴェルディ:
 歌劇 《ナブッコ》 序曲
 歌劇 《ナブッコ》 第1幕 より 「祭りの晴着がもみくちゃに」
 歌劇 《アッティラ》 第1幕 より アッティラのアリアとカバレッタ
  「ローマの前で私の魂が...あの境界の向こうで」
 歌劇 《マクベス》 第3幕 より 舞曲
 歌劇 《運命の力》 序曲
 歌劇 《第1回十字軍のロンバルディア人》 第3幕 より
  「エルサレムへ、エルサレムへ」

ボイト:歌劇 《メフィストフェレ》 プロローグ

ムーティは何度かこの東京春祭に登場しているが、これまでは日本人の春祭オケを指揮していた。今回は、手兵のルイージ・ケルビーニ・ジョヴァニーレ管弦楽団と春祭オケの合同演奏。どちらも若手の特別編成。

前半はムーティ十八番のヴェルディ。情熱的で時にデモーニッシュ。「運命の力」序曲以外はあまりよく知らない曲だったが、緩急を自在に操り、旋律は歌わせる。さすがオペラ指揮者と唸らされる演奏。ヴェルディの激しく、熱く、時に血の臭いがするような情念が渦巻く舞台が目に浮かぶよう。まさにムーティ節といった演奏。

でも、ヴェルディより印象に残ったのは、初めて聞いたボイト。児童合唱も加わっての、いわば演奏会形式の序幕上演。バスの歌うメフィストフェレと合唱の掛け合いが面白く、児童合唱団の天使の声がまさに天使で清らかで美しい。へえ、こんな良い曲、知らなかったなあ。めっけもん!な気分。合唱団の後ろには金管のバンダが並んで壮観。(でも合唱団の人は耳が痛くないのかしら?)

特筆すべきは、東京オペラシンガーズと東京少年少女合唱隊の素晴らしさ。オペラシンガーズは東京春祭ではたびたび聴いていて、そのたびに感心しているが、今回もヴェルディ、ボイト共に緻密な合唱。そして少年少女合唱団と来たらもう、当たり前だが原語での歌唱、いや、すごいすごい。上手いなあ。すっごく練習したんだろうなあ、とおばちゃんうるうるしてしまった。

オケの方は若手と言うことで、やや粗さもあったが、その分熱気があり、ムーティについていこうとするガッツが感じられて良い演奏。コンマスや管楽器のトップは途中で日本人とあちらの人が交替で勤めていた。

今年は1月に続いてムーティ様を二度も聞けてほんとに幸せ。この日のような演奏を聴くと、やっぱりムーティのオペラを聴きたいな~、と思ってしまうが、財政的に無理なのが残念。。。。

勝川春章と肉筆美人画展 [美術]

出光美術館
http://www.idemitsu.co.jp/museum/honkan/exhibition/present/index.html
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今年は春章の生誕290年だそうで、記念の展覧会がいくつか。これはその一つ。
役者絵や相撲の力士絵などで浮世絵の世界で確固たる地位を得ていた春章が肉筆画に積極的に取り組んだのは後半生になってからだそう。今回はその肉筆画に焦点を当て、春章の先行者や同時代の画家たちの絵も見せる。

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宮川長春 立姿美人図
春章は宮川派の系列に繋がるのだそう。宮川派はもっぱら肉筆画を主にした流派で、この長春の美人図も無地の背景にすっきりした線で描かれた姿が美しい。こういう、ちょっと体をひねって振り返ったポーズもこの時期の美人画の典型的なもの。

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勝川春章 吾妻風流図
上の長春から50年くらい後?姿勢などよく似てるようでいて、線描が繊細になり、顔の表情なども柔らかく細やかに。

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勝川春章 桜下三美人図
春章の美人画は、後に続く歌麿や写楽のような大首絵ではなく、また女性の表情も色気よりも楚々とした上品さがあって美しい。特に肉筆画は木版画のような大量生産でなく、おそらく上客からの注文によるものだったろうから、時間もかけ絵の具も良いものを使っているだろう。大衆向けではない、高級品のよう。

それは春章に限ったことではなく、他に展示されている湖龍斎や抱一などの肉筆画にも言えることで、版画とはひと味違う肉筆画の良さが堪能できる。
春章から、下の世代の鳥文斎栄之、歌麿、北斎らへと繋がっていくのが実感できる。

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春章 美人鑑賞図
これは会場最初に展示されていた大判の絵で、最近の調査でこれが鳥文斎栄之の絵に着想を得て描かれたらしいとわかったそう。その栄之の絵も写真が展示してあったが、まさにそっくり。これって今で言えばパクリじゃないの!?いいのか!?って思ってしまった。(笑)

春章は確かに時代の間でちょっと損してる、写楽みたいなインパクトないし、北斎や国芳みたいな楽しさもないかもで、私も今までそんなによく知らなかったけど、とても素敵な絵がいっぱいで、見て良かった。春章以外の画家のも充実してるし、とても良い展覧会。

 

初期浮世絵展 −版の力・筆の力− [美術]

千葉市美術館
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もうだいぶ前に終わってしまったのだけど、記事にするのを忘れていたので今さらながら。
江戸時代初期の浮世絵の誕生から、鈴木春信による錦絵の誕生まであたりを俯瞰する展覧会で、肉筆画の優美さ、木版画がだんだん多色刷りになっていく様子などがわかる。

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初代鳥居清倍 「金太郎と熊」
かわいい!まだ色数は少ない。でも線の力強さ、人や熊の表情の面白さ、筋肉のもりもりした様子などが魅力的。

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杉村治兵衞 「遊歩美人図」
こちらは墨摺に彩色をしたもの。着物の柄など細かくて綺麗。
私の場合、浮世絵を観る楽しみのかなりの部分が着物の柄を見ることなので、素敵な着物を見るとうっとり。

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懐月堂安度 「立美人図」
肉筆。懐月堂安度の絵は、線が太めではっきりしていて、安定感があり、肉筆ならではの色使いが美しい。今回安度やその周辺の画家の肉筆画がかなり見られて楽しかった。

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石川豊信 「佐野川市松と瀬川菊之丞の相合傘」
紅摺絵。まだ多色刷りの錦絵まではいかない、あと一歩。でもこれでも十分綺麗。

歌麿や写楽、北斎などに比べるとまだ素朴な感じもするけど、初期の浮世絵も十分楽しい。浮世絵の発達の様子も知ることができて良い展覧会だった。

カラバッジョ展 [美術]

国立西洋美術館
http://caravaggio.jp/

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イタリア・バロックの巨匠、カラバッジョ(1571-1610 年)の展覧会。

カラバッジョの名前を初めて知ったのは3,40年前、何かの雑誌に載ってたこの絵。
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「バッカス」
モデルは画家自身らしい。その雑誌の解説に「このあほ面がカラバッジョで。。。」とか書いてあったその衝撃(笑)が忘れられず、その後どの絵を見ても「あのあほ面のカラバッジョが描いたのか」と思ってしまうのである。
チラシの絵も多分同じ。。。

カラバッジョは破天荒な男で、酒を飲んで喧嘩沙汰になることしばしばで、留置所に入れられたり、あげくに人を殺してローマを逃げ出し、ナポリ、マルタ、シチリアなどに流れながらも絵は描き続け、再びローマに戻る途上で病死した。38歳。きっと絵の才能がなかったら、誰にも相手にされないような奴だったんだろうなあ。でもそんな性格悪い奴がこんな素晴らしい絵を描く。神様のすることはわからないの一例か。。。

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「ナルキッソス」(1599年頃)
水に映った自分の顔に恋して口づけしようとする若者。こういうドラマチックな絵はルネッサンスにはなかった。
暗い背景に対象だけが浮かび上がる、ルネッサンス絵画にはない手法。光と闇の画家カラバッジョがその後の絵画に与えた影響は大きい。

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「洗礼者ヨハネ」(1602年頃)
生々しい肉体がエロティックでさえある、若者ヨハネ。こんな"宗教画"がカラバッジョ以前にあっただろうか。

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「メドゥーサ」(1597~8年頃)
怖い。こんな生々しいメドゥーサ、滅多にお目にかかれない。
この展覧会、「風俗」「静物」「肖像」「光」「聖母と聖人」などに章立てされているのだが、その一つに「斬首」という章があってこれはその中の1枚。他はカラバッジョ以外の画家のゴリアテやユディトなどだが、そんな章が設けられるのも珍しい。


カラバッジョの他には、「カラバジェスキ」と呼ばれる彼の画法の継承者たち。グエルチーノやド・ラトゥールらの絵も並ぶ。
ここには出てこなかったが、レンブラントなどもそうなのだろう。

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「エマオの晩餐」(1606年)
最晩年の作品。
これなんか、きっとレンブラントに影響を与えただろうなあ、と思える。レンブラント光線なんて言うけど、カラバッジョが既に始めていたんだな。

それにしても、カラバッジョ、ボッティチェリ(1444/45-1510)から活動時期としては100年くらい後。しかしこの変化はどうだろう。バロック絵画ではルネッサンス絵画で多用された明るい青は影を潜め、どの絵も茶褐色主体になる。時代背景と何か関係があるのかしら、と思うけど素人にはわからない。ドイツやフランドルなど北方の絵だけなら地域性かとも思うがカラバッジョは同じイタリアだもの。ボッティチェリ展と続けて観たせいもあって、よけいに不思議に感じてしまった。

ボッティチェリ展 [美術]

東京都美術館
http://botticelli.jp/

意外にも「日本で初めての本格的な回顧展」なんだそう。え、そうなの?去年もBunkamuraで見たよね。と思うけど、"本格的"をどうとらえるかの問題だろう。今回だって、ボッティチェリの作品ばかりではなく、リッピ親子のも数多くあったし。
ともかく、ボッティチェリがたくさん見られて嬉しい。

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聖母子(書物の聖母)
ボッティチェリと言えばなんたって聖母子像。これは今回の出品作の中でもとびきり美しい1枚。マリアの衣装の青が特に目を引く。そして聖母子の頭の繊細な金環が綺麗。

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ラーマ家の東方三博士の礼拝
これは有名な絵。メディチ家の人々の顔と、右端にボッティチェリ自身が描き込まれている。30代になったばかりのボッティチェリの自信に溢れた顔。

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ホロフェルネスの頭部を持つユディト
がらっと雰囲気の違う晩年の絵。サボナローラの影響を受けて表現が変わった。メディチ家の庇護もなくなり晩年は経済的にも困窮したという。

今回は、ボッティチェリの師であるフィリッポ・リッピと、その息子で反対にボッティチェリの弟子となったフィリッピーノの作品も多くあったのは嬉しかった。

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フィリッポ・リッピ《聖母子》
父リッピの絵はやけに人間臭い。本人も修道士だったのに修道女と駆け落ちしたというエピソードの持ち主なのだが。このマリアさま聖女という感じではない。イエスがなんでこんなミイラみたいにぐるぐる巻きにされているかというと、こうしておくと子供が姿勢良く育つとされたからだそうだ。変だけど可愛い絵。

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フィリッピーノ・リッピ《幼児キリストを礼拝する聖母》
若い頃の師ボッティチェリを彷彿とさせる絵。端正で品が良くて美しい。

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フィリッピーノ・リッピ《聖母子、洗礼者ヨハネと天使たち》
これが今回いちばん気に入った絵。天使の表情など本当にボッティチェリによく似ている。フィリッピーノの人気は晩年のボッティチェリを超えるものだったと言うが、残念なことに50にならずに早世。

ラファエロやミケランジェロなど他の作家は潔く切り捨て、ボッティチェリとリッピ親子に的を絞った展覧会。ボッティチェリだけでも十分見応えあったけど、リッピ親子のがこれだけまとまった見られるのは初めてだと思う。必見。

あと、図録が充実していて、今回出品されてない絵もサイズは小さいがかなり載っている。お得感ありなのでおすすめ。


二月大歌舞伎・夜の部 [舞台]

2月23日(火) 歌舞伎座

一、ひらかな盛衰記(ひらかなせいすいき)
源太勘當
梶原源太景季  梅玉
腰元千鳥     孝太郎
横須賀軍内    市蔵
茶道珍斎     橘太郎
梶原平次景高  錦之助
母延寿      秀太郎

梅玉の源太はまさしく二枚目の優男。ピンクの着物に紫の裃、頭には花飾りの冠という、全く武士とは思えないいでたちが見事にはまる。お育ちの良い、お坊ちゃん。佐々木高綱との先陣争いの様子を物語る時の颯爽とした姿、勝ちを譲った理由を母に打ち明ける甘えた仕草、弟を叱りつけ軍内を成敗する際の凛々しさ、絵に描いたような二枚目。面白いのは、恋人の千鳥に淡泊というか、むしろほとんど情愛が感じられないくらいなこと。まあ、この後の段では千鳥に廓勤めさせて平気な源太だからね。

秀太郎の延寿は、愛情深い母。もう少し厳しさが見えても、と思わないでもないが、夫の言いつけに背き、勘当することで源太の命を救い、鎧や金を与える優しいお母さん。

千鳥は孝太郎で、一途に源太を慕う様子が可憐。
錦之助が弟の平次というのは意外だが、我が儘でお馬鹿な弟キャラをしっかり演じていた。ちなみにこの日は休演で又五郎が代演、こちらもきっちりでさすがに上手かった。歌舞伎役者の底力すごい。
橘太郎と市蔵も安定の三枚目敵の巧みさ。


三世河竹新七 作
二、籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)
序 幕  吉原仲之町見染の場
二幕目  立花屋見世先の場
      大音寺前浪宅の場
三幕目  兵庫屋二階遣手部屋の場
  同  廻し部屋の場
  同  八ツ橋部屋縁切りの場
大 詰 立花屋二階の場
 
佐野次郎左衛門  吉右衛門
兵庫屋八ツ橋    菊之助
下男治六      又五郎
兵庫屋九重     梅枝
同  七越      新悟
同  初菊      米吉
遣手お辰      歌女之丞
絹商人丹兵衛    橘三郎
釣鐘権八      彌十郎
立花屋長兵衛   歌六
立花屋女房おきつ   魁春
繁山栄之丞     菊五郎

菊之助二度目の八ツ橋。待望の吉右衛門次郎左衛門との共演が実現した。吉右衛門に導かれてか、予想を上回る緊張感溢れる舞台になった。
菊之助はもちろん美しく、見染めの場での貫禄、次郎左衛門を腑抜けにするだけの説得力があり、笑みも妖艶さが溢れる。ここでの佐野次郎が笑えるくらいぼーっとなってて、でも後の展開を知って見ると、運命のいたずらとも思えて既に胸が痛い。

一転、縁切りでは、菊之助は申し訳なさを押し殺し、自らの心に蓋をして冷たい仮面を被ったようなこわばった表情が、見ている方まで苦しくなる。まわりになだめられたり諫められたりすればするほど、八ツ橋の孤独は深まって心の闇が深くなり、その反対にスポットライトが当たるように八ツ橋だけが舞台に浮かび上がってくるようだった。そして心のブラックホールはどんどん大きくなって、佐野次郎だけでなくまわりも、いや八ツ橋自身もそこに飲み込まれて為す術もない。見ているこちらも辛くて、息を飲んでただ見守るばかり。客席も静まりかえり、固唾を飲んで成り行きを見守るしかない。どうかそんな言い方しないで、断るにしても他の言い方ないの?と祈るような気持ちで見てしまう。

佐野次郎の「身請けは諦めた」という言葉に崩れ落ちそうになるのを必死に堪えて座を立ち、九重に「つくづく嫌になりんした」と初めて心をもらす姿に、どんなに華やかに着飾っても、自由にならない遊女の身の切なさが充ち満ちていた。

吉右衛門の佐野次郎、はじめは田舎者丸出して八ツ橋に魂抜かれ、分不相応に花魁に惚れて通い詰め、いっぱしの通気取りになっている様子が微苦笑を誘う。縁切りで、幸せの絶頂から奈落の底へ堕とされた悲痛さ。うろたえ、呆然とし、怒りさえも忘れる姿のあわれさ悲しさ。あの時八ツ橋に出会わなければ。。。可哀想なんて言う生易しい言葉では言い表せない。

殺しの場では、それまで上機嫌を装っていたのが、盃を持つ八つ橋の手を取って「この世の別れだ、飲んで下せえ」と言う声の地獄の底から響くような恐ろしさにゾッとした。
初めて感情を露わにし、怒りを叩きつけて妖刀籠釣瓶を振るって、八ツ橋がゆっくりゆっくり、スローモーションのように倒れていく(この時の菊之助の体の美しさよ)のを何かに取り憑かれた顔でじっと見守る佐野次郎。ここ、以前は籠釣瓶の妖力のせいだと思ってたけど、今回のはなんだか刀が普通のなまくらでも、佐野さんは同じようにしたかもしれないと思った。それくらい、縁切りでの落胆ぶりが大きかった。


菊五郎の栄之丞は、やや江戸前でこざっぱりしている印象はあるが、二枚目でジゴロな生活に慣れきった男の少し崩れた嫌らしさがある。でも菊五郎さんだと、去る者は追わずと言うか、「そんならさっぱり別れてやらあ」と言いそうな気がして(笑)。

彌十郎の権八がねちねちといやらしくてほんとにいけ好かない野郎だった。今回は上演されなかったが、大詰めの後で佐野次郎に殺される場面までやってくれたらすっきりするのに、と思ったくらい。(褒めてます)

まわりも揃った。
歌六と魁春が吉原の茶屋の主人夫婦という粋筋でしっかり者の風情。
梅枝の九重が控えめで心優しい様子。縁切りの後佐野さんをいたわる姿が情があって、泣けてしまった。
同輩の花魁に新悟と米吉。べっぴ~ん。新悟ちゃんは声に色気がある。米吉は初々しい初見世の風情なのに何とも言えない色気が。これから売れっ子になるよねえ。
又五郎の治六は朴訥として主思いで真っ直ぐな気性が良く出て上手い。
その他遣り手の歌女之丞、女中の京蔵らに太鼓持ちや芸者など隅々までしっかり吉原の風情を醸し出して、隙のない大舞台。

三、小ふじ此兵衛 浜松風恋歌(はままつかぜこいのよみびと)
海女小ふじ   時蔵
船頭此兵衛   松緑
在原行平の恋人松風の霊が乗り移った海女小ふじと、小ふじを我がものにしようとする船頭此兵衛。
時蔵はすっきりと美しく、海女の態で汐汲みをしたり、行平を思い出してのどこか心ここにあらずの様子が儚げな中に凛とした風情。
松緑は荒くれ者の船頭の様子で力強くキッパリ。しかし頭の月代の部分が妙にメタリックに青く光っていて不思議な鬘だった。。。あと、松緑の所作事での手指の美しいのが好きなのに、手袋していてよく見えなかったのは残念。
襲いかかる此兵衛を小ふじがかわしていく立ち回りも楽しい。
前半は竹本で、後半長唄に替わっての10分足らずに里長が出る贅沢さ。
籠釣瓶で重苦しくなった空気を払って良い打ち出し。


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