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芸術祭十月大歌舞伎夜の部 [舞台]

10月24日(月) 歌舞伎座

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一、歌舞伎十八番の内 外郎売(ういろううり)
外郎売実は曽我五郎  松緑
大磯の虎     七之助
曽我十郎     亀三郎
小林妹舞鶴    尾上右近
化粧坂少将    児太郎
近江小藤太    宗生改め福之助
八幡三郎     宜生改め歌之助
茶道珍斎     吉之丞
小林朝比奈    亀寿
梶原景時     男女蔵
工藤祐経     歌六

松緑はこの役を10代から再演を重ねてきて、すっかり自分のものにしている。早口言葉も流暢。だがなにより、後半五郎と顕してからがやんちゃな凛々しさ力強さがあって十分。今や五郎役者と言っても良いくらい。しかもなんだか顔も格好良くて、前回と化粧変えたのかなあ、と思って写真比べて見たけど特に変わってなくて、なんだろうなあ、内面の充実が顔に出てるのかなと思ったり。とにかく素敵な外郎売りだった。

歌六の工藤は敵役と言うより、慈悲深い捌き役の風情。
亀三郎が珍しい(と言ってはなんだが)二枚目の十郎で、すっきりとした様子が良い。この人も今月昼夜とても充実。
弟の亀寿が朝比奈で豪毅なところを見せる。
右近の舞鶴もきりっとした美しさで花がある。
傾城が七之助に児太郎、梅丸と若手を揃えて美しい。
吉之丞の珍斎はやることは間違ってないが、元来真面目な方で、こういうお調子者の役はやりづらそう。

昼の女暫くと舞台の印象が似通っているが、こちらも世代交代を感じる顔ぶれだった。

二・口上
仕切りはこの頃すっかり口上専科のような藤十郎。口上だけに出演の我當、国立劇場から駆けつけた梅玉を始め、近頃ではかなりの大人数。先代芝翫さんの思い出を語る人も多く和やか。中で新芝翫の甥の児太郎が、病中の父福助もこの襲名を喜んでいっそうリハビリに励んでおります、との挨拶にあたたかい拍手が起きていた。ほんとに、福助芝翫兄弟の一日も早い共演が待ち望まれる。

一谷嫩軍記
三、熊谷陣屋(くまがいじんや)
熊谷直実  橋之助改め芝翫
相模   魁春
藤の方   菊之助
亀井六郎   歌昇
片岡八郎   尾上右近
伊勢三郎   宗生改め福之助
駿河次郎   宜生改め歌之助
梶原平次景高   吉之丞
堤軍次    国生改め橋之助
白毫弥陀六   歌六
源義経    吉右衛門

芝翫の熊谷は、「芝翫型」という独特のもの。現在一般的な團十郎型より、文楽の本行に近い、古い型。まず衣装が違うし、物語などの体の動き、制札の見得の時の制札の上下、さらに團十郎型だと有名な「十六年は一昔~」の台詞を花道に出てから言って、幕外の引っ込みが付くが、これを舞台の屋台上で言うため幕外はない。
全体的に古風で、また荒々しさも残る型のように感じ、芝翫には良く合っていると思う。物語の前で飛び上がったり、制札で相模や藤の方を制する時の動きが大きく全体に派手。一方で、小次郞の首を相模に渡す時は相模の肩を抱くようにしてもう一方の手で相模の手を握り、情の濃さを見せる。言い換えれば、播磨屋や松嶋屋がやるような、感情をハラにしまい込んで耐えるというより、表に出している。それが型なのか、芝翫個性なのかがはっきりしないので何とも言えないが、情を色濃く出せばそれだけ見るものに深く伝わるかというとそうとも言えないのが芝居の難しさでもある。
これからも再演を重ねるであろうから、いっそうの研究をして芝翫型を完成させてほしいと思う。

魁春の相模はさすがに本役で、細やかな情愛のある、控えめな妻であり、優しい母なのが伝わる。小次郞の首を抱いての嘆きに悲しみが溢れる。
菊之助の藤の方は、歌舞伎座こけら落とし公演でやった時とは段違いの成長を見せて、元は院の寵愛を受けた上﨟らしい品と美しさに、母の悲しみが混じる。

歌六の弥陀六もすっかり手に入って、老武士の気骨、背負ってきたものの深さ、義経への反発と熊谷への同情、全てがないまぜになった複雑な老人、しかし底にある誠実さがきっちり見える。

当代随一の熊谷役者の吉右衛門が、義経で付き合う。これがすごかった。襖の奥からの第一声で劇場の空気がびりびりと震えて一瞬にして舞台の色が変わる。首実検までは無表情で非情の人。それが弥陀六の登場で変わる。呼び止めの「いやさ弥平兵衛宗清、待てい!」の裂帛の鋭さが武人の大将。「堅固であったか、満足満足」の朗らかさ。そして幕切れの熊谷に小次郞の首を見せながらの悼む情に溢れた沈痛な表情の深い人間味。まあとにかく大きくて、大将中の御大将。考えれば、ここでの義経は絶頂期で、千本桜の時のような落ちていく悲しみはない。まだ影のない、前だけを見ている義経なのである。こんな義経観たことない。もうちょっと芝翫に花持たせたら、と言う声もあるが、これは播磨屋なりの芝翫さんへのエールだと思う。俺の前で熊谷をやるなら、俺を越えて行け、とでも言うような。まあでも確かに、最後全部播磨屋が持って行ってしまった感のある舞台だった。

四、藤娘(ふじむすめ)
藤の精     玉三郎
    
もう一人で踊ることはないのかと思われていた玉三郎の藤娘は、先代芝翫へのオマージュ。
チョンパで明かりのついた舞台に立って振り返った玉三郎のなんと可憐なこと。美しいというより愛らしい、まさに娘むすめした可愛さに圧倒される。踊りそのものはもちろん素敵だが、ちょっとした仕草に心をくすぐられる。舞台上手下手それぞれに行って挨拶をし、戻っていく時にたもとで顔を隠しながらちらっと恥ずかしそうに客席を見る表情の艶めかしさ。おぼこくて、でも恋の味を知っていて、でもまだ大人ではない少女の短いひとときを体現し、でもそれがいつの間にか昇華して人間ではなく藤の精になって消えていく。今見たのは幻ではなかったのか、と思うような夢のごとく儚い舞台。まるで空気が浄化されたようで、拍手するより手を合わせて拝みたいような気持ちになった。玉様、ありがとうございました。
    

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芸術祭十月大歌舞伎昼の部 [舞台]

歌舞伎座

1610歌舞伎座.jpg
八代目芝翫とその息子たち3人の同時襲名披露公演。四人同時襲名は記録にないとか。

一、初帆上成駒宝船(ほあげていおうたからぶね)
橋彦  国生改め橋之助
福彦  宗生改め福之助
歌彦  宜生改め歌之助

幕開きは三人揃っての踊り。とにもかくにもお行儀よく、きっちりと。3人とも大きくなったわね、と親戚のおばちゃん気分で見守る。歌詞にも襲名にちなんだ言葉がちりばめられている。背景の絵は山口晃。古典っぽくてかつモダンで素敵だった。

二、女暫(おんなしばらく)
巴御前   七之助
舞台番松吉  松緑
轟坊震斎   松也
手塚太郎   歌昇
紅梅姫    尾上右近
女鯰若菜    児太郎
局唐糸    芝喜松改め梅花
東条八郎  吉之丞
江田源三   亀寿
猪俣平六   亀三郎
成田五郎   男女蔵
清水冠者義高  権十郎
蒲冠者範頼   又五郎
      
七之助の巴はただただチャーミング。ツンとして可愛く、ぷいっと顔を背ける様子にキュンキュン。口跡も凛と張りがあって、聞きやすく素敵。最後の幕外では、叔父たちの襲名にも触れてミニ口上。

又五郎さんの範頼、悪役だけどどっしりとした存在感。これからこういう役増えてくるかも。いいぞいいぞ。
児太郎の若菜、キュッとしたお茶目さと若いのに不思議に大人っぽい色気。見るたびに階段を登ってる。
松也の震斎はやや固さがあり、ニンじゃないのかな。
松緑の舞台番はさっぱりとした愛嬌があり、最後をしっかり盛り上げる。ほんとの「暫」(といっても「御贔屓勧進帳」のだが)を勤めている松緑が、六方の指南をすると言うのもなんだか楽しい。

まわりが皆一回り若い世代になってるのが印象的。成田五郎と言えば左團次さんだったのに男女蔵になってるし。亀亀兄弟とかやたら声の良い人が揃う。 右近の紅梅姫が可憐。
   
     
三、お染 久松 浮塒鷗(うきねのともどり)
女猿曳   菊之助
お染    児太郎
久松    松也 

児太郎のお染が、最初の紫頭巾がよく似合って綺麗。いかにもお嬢様というおっとりした風情があって良い。
松也の久松もダメ男の二枚目で物腰の柔らかさがあるが、踊りはもうちょっとがんばろう。
菊之助の猿曳きがこの二人に比べるとさすがに貫禄で、二人に意見する年嵩の姉さんの雰囲気があり、しかも愛嬌もあって綺麗。

四、極付 幡随長兵衛(きわめつきばんずいちょうべえ)
「公平法問諍」
幡随院長兵衛   橋之助改め芝翫
女房お時     雀右衛門
唐犬権兵衛    又五郎
伊予守源頼義   七之助
坂田公平     亀三郎
御台柏の前   児太郎
極楽十三   国生改め橋之助
雷重五郎   宗生改め福之助
神田弥吉   宜生改め歌之助
下女およし   芝喜松改め梅花
舞台番新吉   吉之丞
坂田金左衛門   男女蔵
渡辺綱九郎   権十郎
出尻清兵衛    松緑
近藤登之助    東蔵
水野十郎左衛門   菊五郎

昼の部の新芝翫お披露目狂言。
芝翫は、最初の村山座の場での台詞がえらく大仰で、変な言い方だが芝居がかりすぎているように感じてしまった。たっぷり、自分に酔っているようで。そこ以外は、貫禄もあり、男気のある親分で、次の場での妻子との別れの情もあり、水野邸での最後も大きさもあって立派なんだけど。

菊五郎の水野は何度もやってる役で敵役ながら旗本の貫目も見せてさすがに華を添える。

雀右衛門のお時が、しっとりとした情を見せる。芝翫とは何度か組んでおり、相性も良い。
又五郎の唐犬はニンではなさそうだが、きっちり。
松緑の出尻は軽妙さがあって良い。が、ニンとしては唐犬の方か。

劇中劇の「公平法問諍」が、もったいないくらい面白かった。
特に亀三郎の公平が荒事らしい稚気があり、また中断されての役者としてもおかしみがあり上々。
七之助、児太郎と揃って、この一幕ちゃんと見たいと思ったくらい。
しかし、児太郎と言えば昔この頼義が伝説になるくらい大根だったことを思うと、人間は成長するもんだなあと感慨深い。

しかし、本人が好きだからこそのこの演目なんだろうけど、襲名に最後に殺される役ってのもどうかねえ、とは思ってしまった。

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国芳ヒーローズ展 [美術]

太田記念美術館
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/exhibition/kuniyoshi-heroes
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国芳ヒーローズ~水滸伝豪傑勢揃。

国芳の出世作水滸伝の全74点のうち73点を揃えて前後期に分けて展示。全期は残念ながら行けなかったが後期だけ拝見。

江戸時代、日本でも大人気だったという水滸伝の登場人物を錦絵に描いたシリーズは、大ヒットして一躍国芳を人気作家に押し上げたという。
国芳と言えば妖怪とか幽霊とか猫とか思い浮かべるけど、こちらが原点だったのね。

どの絵も過剰と思えるほどの色彩が溢れ、人物には細かい刺青が施される。衣装と共に刺青の柄も見物の一つ。でも面白いのは、キャプションによると原作では刺青には触れていないとのことで、刺青自体国芳の創造と言うこと。そして江戸っ子たちがこれを喜んだというのは、どれだけ江戸で刺青が人気があったのかと思う。

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「通俗水滸伝豪傑百八人一個 旱地忽律朱貴」
背中全体に彫られた入れ墨がやはり目を引く。着物の柄かと思うくらいびっしり。

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「通俗水滸伝豪傑百八人之一個 智多星呉用」
えーと、人物が多すぎて覚えられないが、星を見ることが出来る人だったかな。背景の空に星があるのはそのため。地球儀(天球儀か?)などの小物もリアル。

水滸伝のストーリーをよく知らないので、キャプション読んでも長大な話で頭に入ってこないのが難点。まあ、物語がわからなくても全然困りはしないけど。

中国のオリジナルの「水滸伝」を元にした絵ばかりでなく、日本の英雄を水滸伝に見立てた「本朝水滸伝」なるシリーズもあり、「水滸伝」がいかに人気があったかもわかる。国芳のアイデアマンぶりもうかがえて楽しい展覧会。
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速水御舟展 [美術]

山種美術館
http://www.yamatane-museum.jp/exh/2016/gyoshu.html

山種は御舟の名品を持っていて、力を入れているようだ。何年か前にも展覧会があったが、今回は他の美術館所蔵のものも含めた回顧展。えてして師や同時期の友人らの絵も展示されることが多いが、今回はほんとに御舟だけ。

明治末から昭和の初期に活躍した日本画家・速水御舟(1894-1935)は、この展覧会のサブタイトルが「日本画の破壊と創造」とあるように、日本画の革新を目指し、常に一つところにとどまらずに新しいスタイルを追求し続けた。
とは言え、伝統をしっかり踏まえたのその作品は素人目には破壊とは思えないのは日本画というジャンルの特異さだろうか。

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洛北修学院村(1918)
御舟は一時期藍色に凝っていたという。そういう時期の作品。遠くから見たら魁夷かと一瞬思ったけど全然違う。でもよく似た色ばかり使って描き分ける力がすごい。

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鍋島の皿に柘榴(1921)
鍋島の時期の透明感まで写し取った描写力。題材としては一見なんてことないが、すごい絵だと思う。

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名樹散椿(1929)
重要文化財。代表作の一つ。琳派のように金粉をまいた背景に華麗な椿。花の写実な描き方に比べ大胆にデザイン化された幹。構図は全く新しい。

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牡丹花(墨牡丹)(1934)
でも、「名樹散椿」やチラシの「炎舞」のように細部まで徹底して作り込まれた絵より、この牡丹のような力の抜けた絵の方が私は好きだな。

御舟は30代半ばで渡欧し、帰国後さらに新しい世界に進もうとした矢先40歳の若さで世を去った。もし友人の大観のように長生きしていたら、どんな絵を描いただろう。その早世は日本美術界にとっても大損失だったに違いない。
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「通し狂言 仮名手本忠臣蔵」第一部 [舞台]

10月10日(月) 国立劇場

国立劇場開場50周年記念公演。
10年前の40周年は「元禄忠臣蔵」を3ヶ月連続で、今年の50周年は「仮名手本」。節目節目に上演されるのは、忠臣蔵が歌舞伎を代表する大作だからだろう。
今月は大序から四段目まで。

大  序 鶴ヶ岡社頭兜改めの場
二段目 桃井館力弥使者の場
      同   松切りの場
三段目 足利館門前の場
      同   松の間刃傷の場
      同   裏門の場
四段目 扇ヶ谷塩冶館花献上の場
      同   判官切腹の場
      同   表門城明渡しの場

【大 序】
塩冶判官    中 村 梅  玉
顔世御前    片 岡 秀太郎
足利直義    中 村 松  江
桃井若狭之助 中 村 錦之助
高師直     市 川 左團次

【二段目】
桃井若狭之助 中 村 錦之助
本蔵妻戸無瀬 市 村 萬次郎
大星力弥    中 村 隼  人
本蔵娘小浪   中 村 米  吉 
加古川本蔵   市 川 團  蔵

【三段目】
塩冶判官    中 村 梅  玉
早野勘平    中 村 扇  雀
桃井若狭之助 中 村 錦之助
鷺坂伴内    市 村 橘太郎
腰元おかる   市 川 高麗蔵
加古川本蔵   市 川 團  蔵
高師直     市 川 左團次

【四段目】
大星由良之助    松 本 幸 四 郎
石堂右馬之丞    市 川 左 團 次
薬師寺次郎左衛門 坂 東 彦 三 郎
大鷲文吾      坂 東 秀  調
赤垣源蔵      大 谷 桂  三
織部安兵衛     澤 村 宗 之 助
千崎弥五郎     市 村 竹  松
大星力弥      中 村 隼  人
佐藤与茂七     市 川 男  寅
矢間重太郎     嵐    橘 三 郎
斧九太夫      松 本 錦   吾
竹森喜多八     澤 村 由 次 郎
原郷右衛門     大 谷 友右衛門
顔世御前      片 岡 秀 太 郎
塩冶判官      中 村 梅   玉

今月は幸四郎の由良之助に梅玉の判官が中心。
二段目やおかる文使いに裏門など、普段滅多に掛からない場面もつくのが嬉しい。

大序の前に口上人形がついたり、独特の幕開き、東西声など、様式性の高い始まりには背筋が伸びる思い。

梅玉の判官ははまり役。大序でのおっとりとした様子。刃傷の場での、だんだんと怒りが募ってくる様子から、殿中だぞとたしなめられていったんは我慢するも、やはり堪えきれない激情を、品格を保ちながら見せた。
出色は四段目の切腹の場で、覚悟を決めた落ち着きの中にも、無念さを滲ませ、やっと対面した由良之助に後を託して息絶える姿が悲痛。

左團次の師直も手に入っていて、大序での権柄尽く、顔世に迫るゲスッぷり、刃傷での若狭之助への追従から判官への八つ当たりないじめの嫌味ッぷりと、まさしく大敵。

錦之助の若狭之助が良い。短気な熱血漢といった様子があって、若々しく上等。
珍しい二段目、本蔵夫婦は團蔵と萬次郎。團蔵に老獪な家老の渋さがあり、萬次郎はさばけた母親。
米吉の小浪が可憐で、隼人の力弥と似合い。
隼人は四段目でも、行儀の良いきちんとした様子で、有能なお小姓といった様子があり、予想以上の出来。

勘平は扇雀で、二枚目のすっきりとした様子に、女が惚れる色男ぶりがある。おかる文使いでの柔らかみが裏門での動揺狼狽につながり、来る六段目の悲劇を予感させる。この人はやっぱり立ち役の方が良い。いつか六段目も見てみたい。
高麗蔵のおかるは腰元らしい行儀の良さはあるが、もう少し勘平好き好きの軽はずみなところもほしいか。
橘太郎の判内が軽妙、滑稽さを出しながらも下品にならず、楽しい。

秀太郎の顔世は大名の奥方らしい品があり、判官切腹後の髪を下ろした姿の高貴さがさすがに貫禄。

四段目でやっと登場の幸四郎は、花道で腹帯を締め直すところのぐっと溜を効かす様子などに、お待たせしました!感が溢れていて微苦笑。息絶える前の判官とのやりとりにハラを見せる。評議での指導力に貫禄があり、最後の城外での思い入れがたっぷり。

御料簡が若い、若い、と言われる組頭が秀調、由次郎、桂三、橘三郎ら。。。ww こんな平均年齢高そうな組頭の面々も珍しいかも(^o^)

休憩を入れて約5時間半。これで3分の1だから恐れ入る。来月も楽しみ。


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松竹大歌舞伎(巡業) [舞台]

10月1日(土) 入間市市民会館

獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)
京三條大橋より江戸日本橋まで
浄瑠璃 お半長吉「写書東驛路」(うつしがきあずまのうまやじ)
市川猿之助・坂東巳之助 宙乗りならびに十三役早替り相勤め申し候

おさん実は猫の怪  市川 猿之助(Aプロ)坂東 巳之助(Bプロ)
由留木調之助

丹波与八郎
丁稚長吉
信濃屋娘お半
芸者雪野         市川 猿之助(Bプロ)坂東 巳之助(Aプロ)
長吉許嫁お関
弁天小僧菊之助
土手の道哲
長右衛門女房お絹
鳶頭三吉

船頭浪七
江戸兵衛
女房お六

重の井姫    市川 笑也
半次郎女房お袖    市川 笑三郎
丹波与惚兵衛/赤星十三郎    市川 寿猿
やらずのお萩     市川 春猿
赤堀水右衛門     市川 猿弥
石井半次郎     市川 門之助

猿之助と巳之助がダブルキャストで主演という、はっきり言って猿さんによるみっくんブートキャンプなこの巡業。唯一首都圏の初日にはるばる入間まで。せっかくなので、両プロ観劇。

まず昼の部は巳之助が化け猫、猿さんが早替わり舞踊。
巳之助の化け猫は、初めてで段取りに追われる感はあるが、切れのいい動きもあって健闘。顔が怖かった(苦笑)。

しかし圧巻は猿之助の十三変化舞踊。早替わりの鮮やかさはもちろんのこと、可憐な娘も鯔背な男も、さらには雷までそれぞれの役の雰囲気がぴたりとあり、踊りながらちゃんと物語が構築されている。舌を巻くとはこのことか。

ストーリーはかなり端折ってあって、長い長い物語のエッセンスといった風に上手くまとめてある。
笑也の姫が可憐。春猿があだっぽく色気たっぷり。
猿弥がふてぶてしく、門之助は凛々しい。笑三郎の若妻がしっとり。
寿猿がとぼけた味を出す。
と澤瀉屋の主なメンバーが揃って期待通り。

夜の部は猿之助の化け猫。こちらは動きのキレッキレはさることながら、相手をいたぶって楽しんでる様子がものすごくて、その分ずっと怖いし不気味で迫力満点。
黒塚といい化け猫といい、猿さん老婆の凶悪感は最強。

一方、みっくんの踊りは早変わりも含め、追い立てられてる感じはあったし、猿さんと比べられるのは気の毒でもあり、だけどおばちゃんは胸熱。この巡業一月でどれだけ成長して帰ってくるのかな。がんばれ、みっくん。
道哲なんか見ると、どうしてもお父さんのうかれ坊主とか思い出しちゃう。ううう。

しかし、夜の部も最後はちょこっと出てきた猿さんがどや顔で持っていくのであった。

初日ゆえに、アクシデントもあったりしたが、ともあれ無事にスタート。残念ながら再見はできないが、みっくんが大きくなるのを期待してる。
 

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秀山祭九月大歌舞伎・夜の部 [舞台]

9月25日(日) 歌舞伎座

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妹背山婦女庭訓
一、吉野川(よしのがわ)
大判事清澄   吉右衛門
久我之助    染五郎
腰元桔梗    梅枝
腰元小菊    萬太郎
雛鳥    菊之助
太宰後室定高   玉三郎

両花道を使うため、なかなか上演されない義太夫狂言の名作。8年ぶりの上演、しかも吉右衛門、玉三郎という大顔合わせが実現して、観る前から否が応でも期待が高まる。が、期待を遙かに上回る素晴らしい舞台だった。
舞台中央を流れる川を挟んで建つ二つの屋敷で話は進行する。ある時は片方ずつ、そして両家が対話をする。改めて凄い舞台装置を考えたものだと感心する。

前半はまず若い二人の恋人が、川に隔たれ、また親の確執に阻まれ、逢えない嘆きを見せる。
だが物語が動き出すのは、親たちがやってきてから。

花道を歩む播磨屋大判事のそうろうとした姿に胸が潰れそう。定高に声を掛けられ我に返って心を隠して強さを装う。「(息子の首を討つまでのこと)しれたこと」という言葉に滲む虚しさ。 定高は定高で「大事なのは娘だけ」と言い放つ胸の内の暗さ。 お互いに「相手の子だけは」と思いつつ。

定高の言葉に苦渋の表情を浮かべながらも、うわべは強い言葉を返す大判事。しかし目は虚ろで、定高ももっと近くであの顔を見れば、大判事の真意を察しただろう。そしてそれは逆も同じ。隔てる川のなんと深く広いことか。

妹山では母と娘、背山では父と息子が対峙する。
玉三郎は感情を押し殺し、娘に入内せよと告げるが、ひな人形の首が落ちてからは激情を露わにする。持っていき方がややもすると現代風になりがちなのがこの人の特徴で、特に義太夫狂言の大時代で行く播磨屋と齟齬も生じるのだが、二人が力技で持っていった感がある。

定高が雛鳥の首を雛飾りの駕籠に乗せる前に愛おしげに抱きしめる。そして播磨屋大判事が雛鳥の頭をなでる。久我之助の横に置いた後、そして水杯をさせた後。愛おしそうに、大事そうに。確かに嫁を受け取ったと。千穐万歳と声張り上げての祝言。泣けて泣けて。

他の義太夫狂言の父が忠義のための身替わりや正義のために子を手に掛けるのに比べ、大判事はもちろん入鹿に反抗するのではあるけれど、むしろ生かしておいても拷問にあって殺されるのだからここで切腹させる方が息子の為、と言うのが他と大きく違う。

大判事は鎌足の忠臣でもないし、入鹿に面と向かって抵抗するほどの大人物でもない。どころか鎌足と繋がっている息子に狼狽している。息子は息子で父の真意を測りかねている。この段はそういう父子がやっとわかり合う、手を取り合い、息子の死を持って父が覚悟を極める。そういう話なのかもしれない。

そう思うのは、播磨屋の大判事がいつになく弱さをさらけ出しながら、父としての愛情に溢れて見えるから。忠義というものにすがれない中で、守るために殺すという極限状態の父の慟哭が、台詞回しから視線一つ、無骨な手の動きにまで見えるから。

久我之助の背に回した手の暖かさ、雛鳥の首をなでる手の優しさ、そのぬくもりがこちらにも伝わるようで、ただただ泣けてしまう。 偉大とか立派とかでない、親の情愛の深さ、政情に翻弄される運命の非情さに子の死をもってしか立ち向かえない慟哭。 そういう辛さを隠さない、今月の播磨屋の大判事。

最後の息子への「倅清舟承れ」からのまさしく絶唱ともいえる台詞に溢れる愛情と悲痛、二人の首を抱えた表情に見える怒りと悲しみ、ただ言葉を失って涙涙。

菊之助の雛鳥は、月初は思い入れが薄く見えて、この頃立ち役も多いせいかもうこういうお姫様は似合わないなあと思ったが、後半には久我之助へ恋い焦がれる様子、自分は死んでもといういじらしさを掘り下げて見せた。
染五郎はすっきりと美しく、まだ前髪ながらも諸事わきまえたできる若者。後半は腹切った後ずっと伏した姿勢で大変だが、よく耐えた。

梅枝と萬太郎の腰元もよかった。特に萬ちゃんが重い舞台の息抜きみたいになってて、でも行儀は良くやりすぎずにできてたのがえらい。 最後に雛鳥の首を流し終えて、二人が堪えきれずに逃げるように駆け去っていく姿に姫への思いが見えるようで切なかった。

竹本も素晴らしかった。背山が葵、慎治、妹山が愛、淳一郎。文楽の本行も両山の風の違いがあるがそれを踏まえた熱演で義太夫狂言の素晴らしさを堪能。

ただただこの舞台を見られたことに感謝、見せてくださった役者はもとより竹本の皆さんにも感謝申し上げたい。


眠駱駝物語
二、らくだ
紙屑買久六  染五郎
手斧目半次  松緑
駱駝の馬吉  亀寿
半次妹おやす  米吉
家主佐兵衛   歌六
家主女房おいく  東蔵

前半は一方的にしゃべりまくる松緑半次と受けの染五郎久六。それが酒が入ると久六の人が変わって攻守逆転、と言うのが見所の芝居だが、松緑は江戸っ子の遊び人らしい活きの良い様子でまくし立てるが、もうちょっと間の取り方に工夫がほしい気が。なんというか、一本調子で、だんだん聞いていて疲れてくる。
染五郎の方も、吉野川で疲れてるのか、あまり調子が乗ってこず、松緑といまいちかみ合わない。いやそれが狙いなのかもしれないが。最後の酒を飲んでからも、なんだかやけっぱちみたいで。
もう少し、工夫がほしかったし、もっと面白くできたはずなのになあ、とは思いながらもそこそこ笑ったけど。

亀寿のらくだの死体が、ちゃんと死体なのにめっぽう可笑しい。松緑にずいぶん手荒な扱いを受けながら(!)、死体の振りしながら踊ってるし。幕切れでは、完全に一人で立って踊ってて爆笑。

三、元禄花見踊(げんろくはなみおどり)
元禄の女   玉三郎
元禄の男   亀三郎
         亀寿
         歌昇
         萬太郎
         隼人
         吉之助改め吉之丞  
元禄の女   梅枝
         種之助
         米吉
         児太郎
         芝のぶ
         玉朗

玉様を中心にした、ザ・レビュー、と言った雰囲気の踊り。踊りそのものはどうでも、とにかく玉様の美しさ、たおやかさにひたすらうっとり。幕開き、くらい中で長唄が始まり、徐々に明るくなる中、玉様が後ろ向きにせり上がってくる。そしてゆっくりと振り向いた時の圧倒的な華。魂抜かれましたわ。

回りは若手を従え、女王様にかしずくかのよう。順番に一人、二人と絡んでいく様子はお気に入りの小姓と戯れる気まぐれな女王様。なんとも隠微な雰囲気が漂う。ぞくぞく。
伸び盛りの若手が中心。玉様とこうして一緒に舞台に出るだけでも嬉しそう。
こういう踊りでは大抵みんなお揃いの衣装鬘だが、今回はそれぞれ色柄が違い、髪型も数パターンあって、目にも楽しい。ついつい、どの子が可愛い、とか探しちゃう。(はい、私の一押しは種ちゃんです。可愛かったわ~)

玉様は二度もお色直し。最後は出てきてすぐに幕。ふんわりと扇をかざして決まる、その1分足らずのためにだけ着替えてこられた黒いお衣装の素晴らしさ。ただただ見とれてため息。ええもん見せてもらいましたわ。

吉野川で泣いて、らくだで笑って、最後はうっとり。歌舞伎っていいなあ、と改めて思った秀山祭。
     
  
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