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通し狂言 仮名手本忠臣蔵 第三部 [舞台]

12月25日(日) 国立劇場大劇場

3ヶ月続きの忠臣蔵もいよいよ大詰め。

八段目   道行旅路の嫁入
本蔵妻戸無瀬  中 村 魁  春
娘小浪       中 村 児太郎

一週間前京都で藤十郎と雀右衛門で見たばかり。あちらは常磐津だったがこちらは竹本。またこちらは奴を出さないなど、少し違うところも。
児太郎が可憐で初々しい。また、魁春が母親の貫禄と言うよりは、若々しくてノリの良い継母という役どころに良くあって素敵。

九段目   山科閑居の場
加古川本蔵    松 本 幸四郎
妻戸無瀬      中 村 魁  春
娘小浪       中 村 児太郎
一力女房お品   中 村 歌女之丞
由良之助妻お石 市 川 笑  也
大星力弥      中 村 錦之助
大星由良之助   中 村 梅  玉

歌舞伎では珍しい雪転がしからの上演。
前半はお石と戸無瀬の女の対決が見物だが、如何せん笑也のお石が全く義太夫の台詞回しになっておらず興醒め。魁春と児太郎は八段目に続いて良い出来だったので、なんとも惜しい。他にお石をやれる役者を出せなかったものか。
幸四郎の本蔵は既に何度も勤めて手に入っていて、父の愛情の深さと、判官や由良之助らへの申し訳に身を捨てる切なさがあるが、これも台詞の微妙なビブラートが耳障り。
梅玉の由良之助は、自然体というか、梅玉らしいゆったりとした構えが印象的。悪くはないけど、梅玉さんはやっぱりお殿様役者で、御家老じゃないんだなあ、と改めて感じたのも事実。
錦之助の力弥が若々しく似合いの役。

十段目   天川屋義平内の場
天川屋義平    中 村 歌  六
女房お園     市 川 高麗蔵
大鷲文吾     中 村 松  江
竹森喜多八    坂 東 亀  寿
千崎弥五郎    中 村 種之助
矢間重太郎    中 村 隼  人
丁稚伊吾     澤 村 宗之助
医者太田了竹  松 本 錦  吾
大星由良之助  中 村 梅  玉

これも歌舞伎では上演の少ない段。
歌六の義平が男気があって、申し分なく格好いい!「男の中の男一匹、天川屋義平は男でござる!」の台詞に胸がすく。
とは言え、見所はそこだけで、話も適当すぎて、全段までと同じ作者とは思えない。いきなりおかみさんの髪を切るとかありえないだろう!文楽でも思ったが、由良之助の態度も煮え切らないし、滅多に上演されないのも無理ないなあ、と思った。

十一段目  高家表門討入りの場
        同  広間の場
        同  奥庭泉水の場
        同  柴部屋本懐焼香の場
        花水橋引揚げの場

大星由良之助  中 村 梅  玉
大星力弥     中 村 米  吉
寺岡平右衛門  中 村 錦之助
大鷲文吾     中 村 松  江
竹森喜多八    坂 東 亀  寿
千崎弥五郎    中 村 種之助
矢間重太郎    中 村 隼  人
赤垣源蔵     市 川 男  寅
茶道春斎     中 村 玉太郎
矢間喜兵衛    中 村 寿治郎
織部弥次兵衛  嵐    橘三郎
織部安兵衛    澤 村 宗之助
高師泰       市 川 男女蔵
和久半太夫    片 岡 亀  蔵
原郷右衛門    市 川 團  蔵
小林平八郎    尾 上 松  緑
桃井若狭之助  市 川 左團次

ここでも滅多にやらない広間の場がつく。少年なのに浪士に立ち向かう小坊主の玉太郎が健気。
泉水の場の見物は、松緑の平八郎と亀寿の喜多八の立ち回り。キレッキレの松緑が、先月の定九郎に続いて死に様の美を追究してみせる。
普段の十一段目で平右衛門が目立つことはまず無いが、今回は錦之助が律義でちょっとがさつな奴の雰囲気を見せてなかなか。錦之助さん、この忠臣蔵通しで何役やったんだろう。若狭之助も良かったし、いずれは判官が見たいな。

最後は花水橋で、左團次が浪士たちを見送る。(いや、10月に師直やってたのあなたでしょ、発端作ったの誰よ、と思わないでもなかった)。ここで浪士が一人ずつ名を名乗るのだが、そこまでやらなくても、と言う気がした。

ともあれ、3ヶ月連続での通し上演はやはり意義があって、見る方も一緒に討ち入りした気分。国立劇場にはこれからもこういう通しをどんどんやってほしい。
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當る酉歳 吉例顔見世興行 第一部 [舞台]

12月20日(火)

一泊して、翌日第一部だけ拝見。

源平布引滝
第一、実盛物語(さねもりものがたり)
九郎助住家の場
斎藤別当実盛   愛之助
瀬尾十郎兼氏   亀鶴
百姓九郎助    松之助
葵御前      吉弥
小万      友右衛門

愛之助の実盛は初役だったろうか。仁左衛門に習ったのだろう、爽やかな口跡で物語もよく聞かせ、誠実な人物像がよく出てなかなか。後は義太夫味のコクがもっと出てくれば。再演に期待。舞台機構の関係で実盛の花道の引っ込みがないのが残念。
    
亀鶴の瀬尾も、若いのに気の毒と思ったが堂々として前半は憎々しげで後半は娘と孫への情愛を示してなかなか。平馬返りで客席を沸かす。
吉弥の葵御前が、引き窓のお幸と打って変わって、美しい御台所の役で似合い。位取りの確かさもあってさすがに上手い。
松之助の九郎助も良い味でほっこり。
配役をよく見ていなかったら、小万が友右衛門だったのでちょっとびっくりした。まあ女方もやる人だけど、ここで出てくるとは思わなかったわ。

仮名手本忠臣蔵
第二、道行旅路の嫁入(みちゆきたびじのよめいり)
  劇中にて襲名口上申し上げ候
戸無瀬   藤十郎
奴可内   鴈治郎
小浪    芝雀改め雀右衛門

第一部の襲名披露狂言。
藤十郎の戸無瀬、もうあまり体は動かさないのだが、ゆったりとした中に母の情や思いが溢れる。
雀右衛門の小浪が可憐で初々しく、10代の娘として違和感がない。
二人の雰囲気がとても睦まじく、小屋が小さいこともあってとても親密な空気の舞台だった。
鴈治郎の奴も愛嬌たっぷりで御馳走。
劇中口上があり、普段の口上でも何度も仕切りを勤めた藤十郎が挨拶を述べるのが、さすがに堂々たる貫禄で、あたりをはらう大きさがある。付き合っていただいて京屋さんもありがたいことだろうと感じた。

先斗町歌舞練場での顔見世、おそらく来年はないだろうから、珍しい体験はできた。舞台と客席が近い独特の味わいはあるが、あまり見やすいとは言い難かった。早く南座の改修が終わりますように。
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當る酉歳 吉例顔見世興行 第三部 [舞台]

12月19日(月) 先斗町歌舞練場

今年の顔見世は三部制。座席数が少ないため、多くの人が見られるように、だそうだがどうなんだろう。
各部も短くて、三部の終了も8時半前、と顔見世とは信じられない短さ。こんなの、今年だけにしてもらいたい。

双蝶々曲輪日記
第一、引窓(ひきまど)
  八幡里十次兵衛住居の場
南与兵衛後に南方十次兵衛   仁左衛門
女房お早    孝太郎
母お幸     吉弥
三原伝造    亀鶴
平岡丹平    市蔵
濡髪長五郎    彌十郎

仁左衛門の与兵衛は6月に博多座でも見たばかり。与兵衛という人物の心根のまっとうさ、母への複雑な気持ちを的確に、しかし自然に見せて、心の動きを余すところなく見せていく。その中で、無邪気な可愛さがあったり、孝行心と役目との葛藤に揺れる気持ちがあったり、でも最後は母への優しさが迷いを凌駕していく人情味の豊かさがあたたかい。

孝太郎のお早も手に入った様子で、気立ての良い嫁が姑の気持ちを察して取る行動の一つ一つに誠実さと優しさが見え、また元は遊女であった色気も滲む。
吉弥のお幸は、老け役で気の毒な感じもしたが、実の息子と義理の息子の板挟みになる老母の悲しさ切なさを見せる。
彌十郎の長五郎も誠実で義理堅い様子が良い。

小さい小屋でやるのにぴったりな演目で、アンサンブルも良く、この顔見世いちばんの充実した舞台だった。

第二、京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)
  鐘供養より押戻しまで
白拍子花子   芝雀改め雀右衛門
強力不動坊   廣太郎
強力普文坊   廣松
大館左馬五郎   海老蔵

女形の大名跡の襲名とあれば、一度はやらないと、な娘道成寺。とは言っても、芝雀時代からそれほど踊りがお得意というわけでもない京屋さんなので、見る前からちょっと不安。。。
実際のところ、とても丁寧に丁寧に踊ってらして、好感は持てた。いつもながら可愛らしいしお綺麗だし。けど、その丁寧さが堅さも生んでいて、まるで踊りのおさらい会を見てるような気がして見てる方も正直力が入ってしまう。要するに余裕がないってことかなあ。

あと、雀右衛門さんは男に騙されても「アタシが悪いの、騙されてもあの人のこと好き好き」感があふれてるので、恨みで焼き殺しそうな気がしない。そういう意味でも、最後押し戻しがついて鬼女の拵えになるのがお似合いとは言い難く。

海老の押し戻しは申し分なくでっかくて、荒事はこれだ~!って満足感いっぱい。でも、あれが出ることで最後全部持ってっちゃう感じもあって、襲名披露にはどうだ?な気もしないではない。それに雀右衛門さんも拵えがあれになるし。押し戻しなしで綺麗な顔で鐘に登って幕の方が良かったなあ。

今回は所化を出さずに強力二人という珍しい型。これも役者の数が少ないからか。


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當る酉歳 吉例顔見世興行 第二部 [舞台]

12月19日(月) 先斗町歌舞練場

恒例の京の顔見世。いつもの南座が改修工事中のため、今年は先斗町歌舞練場という珍しいところで。30年くらい前、やはり南座の建て替えの時は、祇園甲部歌舞練場だった。先斗町の方は入るのも初めて。2階までしかなく、座席数も500ちょっとで南座の半分くらいでずいぶん小さい。一応鉄筋だけど、雰囲気は小屋という感じ。小さいから舞台と客席が近いのは良いが、音響が全く響かず、残響ゼロという感じなのは鳴り物には辛い。不思議なもので、音がチープだと、芝居全体もなにやらチープな感じがしてしまって、今ひとつ盛り上がらなかった気がする。

菅原伝授手習鑑
第一、車引(くるまびき)
梅王丸   鴈治郎
松王丸   愛之助
杉王丸   廣太郎
藤原時平   市蔵
桜丸    孝太郎

鴈治郎、愛之助、孝太郎という上方勢ばかりでの車引きというレアな舞台。書き割りも、始めの梅桜の出会いの場が田園風景だったり見慣れたものと違う。桜丸が隈を取らないとか、松王の衣装が水色とか、江戸前のとはいろいろ違って面白かった。あと、梅王丸が二度目の出でも三本刀を差していなかったように見えたけど、違うかな?

鴈治郎の梅王が力強く、隈取りの顔と良い体つきと良い、人形のようだった。
孝太郎の桜丸はもう少しはんなりした柔らかさがほしい。
愛之助の松王が凛々しくなかなか。
    
第二、夕霧 伊左衛門 廓文章(くるわぶんしょう)
  吉田屋
  劇中にて襲名口上申し上げ候
藤屋伊左衛門    仁左衛門
扇屋夕霧       芝雀改め雀右衛門
吉田屋喜左衛門   彌十郎
太鼓持豊作     廣太郎
阿波の大尽     松之助
番頭清七     友右衛門
女房おきさ    秀太郎

二部の襲名披露狂言。京屋さんの襲名が決まった時から、どこかでこの夕霧をやらないかなと期待していたので、嬉しい。
その新雀右衛門の夕霧は、儚げでおっとりとした美しさ。病み上がりのか細さと、伊左衛門に逢えた嬉しさに今にも泣き出しそうな風情。こういう、守ってあげたい女がほんとによくお似合い。
仁左衛門の伊左衛門は、もう何も言うことはない。ぼんぼんの可愛らしさ炸裂。なんなんですかね、あれは。仁左様の伊左衛門という特別な生き物じゃないですか。ある意味、誰も嫌いになれないパンダかコアラみたいな(暴言失礼)。
    
秀太郎のおきさは鉄板。
彌十郎の喜左衛門は秀太郎と並ぶと真面目というか、元は武士か?みたいなお茶屋の主なのが微笑ましくもあり。
廣太郎がんばれ。

終盤、伊左衛門の勘当がとけた知らせが来たところで、劇中口上あり。珍しく仁左衛門の口切りで、こじんまりとアットホームな口上。
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パリ管弦楽団 [音楽]

11月24日(木) 東京芸術劇場

指揮:ダニエル・ハーディング
ヴァイオリン:ジョシュア・ベル
管弦楽:パリ管弦楽団

ブリテン/ オペラ《ピーター・グライムズ》から 4つの海の間奏曲
ブラームス/ ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.77
ベルリオーズ/ 劇的交響曲「ロメオとジュリエット」 op.17 から(抜粋)
     ロメオひとり  キャピュレット家の大宴会        
     愛の情景
     マブ女王のスケルツォ
     キャピュレット家の墓地にたたずむロメオ

今年9月にパリ管の音楽監督に就任したばかりのハーディングとのコンビのいわばお披露目。

パリ管というとつい管セクの素晴らしさに耳が行くが今回は弦の良さに瞠目。ブリテンの最初の音で、おや、と思った。透明感のある美しい音色に聞き惚れた。もちろん管は言うまでもなく華麗で豊潤。ああ耳の保養した。

ブリテンでは不穏な響きの中に心を刺激する美しさと激しさが感じられた。
ジョシュア・ベルとのブラームスはベルの疾走感ある演奏と相俟って、聞き慣れた重厚なものとはひと味違う爽快な響きがとても新鮮だった。もっとも、私の好みのブラームスではなかったけれど。とても若々しい、颯爽としたブラームス。スポーツカーですっ飛ばしてるような。ほほ~、こういうのもありか。

初めて聞いたベルリオーズのロメジュリも機知に富んだ音楽がおもしろく、パリ管の芸を堪能。特に管セクはやっぱり凄い。ハーディングは理知的でさっそうとしていて、聞かせどころをきっちり。良いコンビになりそうな予感。デビューとしては上々。

何だろうな、華麗なサウンド、というのはちょっと違う。もちろんいぶし銀でもない。とても上質で品があって美しい音だった。前聴いたときとは何か変わったように思う。また聴きたい。

アンコールなしで、終演が9時20分くらいという長いプログラムだったが、飽きることなく楽しんだ。他のプログラムも聞きたかったな。
        
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円山応挙展 [美術]

根津美術館
http://www.nezu-muse.or.jp/jp/exhibition/index.html

tirasi.JPG
今年はなんだかあちこちで、開館何十周年記念というのを聞くが、根津も今年開館75周年なんだそう。この展覧会もその記念特別展。

素人の考えだが、日本の画家でいちばん「巧い」のは応挙だと思っている。

根津の応挙と言えば、これ。
1a.JPG
藤花図屏風(1776)
金箔地の豪華な屏風だが、琳派とは全く違う。薄墨で早書きのような枝と、繊細な花の房。背景の余白の方が圧倒的に面積を占める。だが寂しさはない。枝の墨の濃淡が、早い筆の動きのようで考え抜かれていて、花の一つ一つが写実的でありながら装飾的でもあり、しかしあくまで品良く美しく清々しい。

2a.JPG
国宝 雪松図屏風(1786)
三井記念美術館所蔵の、意外なことに応挙では唯一の国宝。前期展示のみだったが、上の藤花図と並べて観られて至福のひととき。
藤花図より10年後、さらに色数は少ない。だがダイナミックな枝ぶり、金に映える雪の白さ、と一見地味だが実は豪奢な絵だと思う。

今回の展覧会の副題は”「写生」を越えて”。
応挙の写実の腕前は素晴らしいが、ただ写生ではなくそこから先、が凄いと言うことだろう。

3a.JPG
牡丹孔雀図(1776)
とは言えこの孔雀の羽の描写の見事さと言ったら、空前絶後の写実力無くしてはありえない。この素晴らしい技術あってこそ、孔雀の生き生きとした姿が眼前に現れる。

4a.JPG
重要文化財 写生図巻より
動物だけでなく、あらゆる草花、木の葉などの写生がびっしり描き込まれた図巻。どれも舌を巻く几帳面さで描き込まれている。でもこのうさぎのもふもふ感といったら!

大きな屏風絵から、色紙大の小さな絵まで、どれも見応えがあって、さすが応挙と唸るものばかり。必見。
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通し狂言 仮名手本忠臣蔵 第二部 [舞台]

国立劇場大劇場

3ヶ月連続の通し上演、真ん中の第二部。

【道行旅路の花聟】
 早野勘平      中 村 錦之助
 鷺坂伴内      坂 東 亀三郎
 腰元おかる     尾 上 菊之助

普通は板付きで始まるが、花道をおかる勘平が駆けてくる登場から。
錦之助の勘平は、色男というのがぴったりで、二枚目のおっとりした風情と、しくじりを犯した武士としての悔しさがないまぜになり、いっそうの色気を醸し出す。いかにも金と力はなさそうだが、後半判内が登場してからは颯爽とした様子。
菊之助のおかるも美しく、ひたすら勘平が好きで、落人の罪の意識よりも、二人で旅することができる嬉しさが勝っている。旅もおかるが主導。
二人が美しくて目の保養。最後の花道でのいちゃいちゃも微笑ましい。

判内は亀三郎。もっとドタバタでもいいけど、程よく行儀良いおかしみを見せて上々。

【五段目】
山崎街道鉄砲渡しの場
   同   二つ玉の場
 早野勘平      尾 上  菊五郎
 千崎弥五郎     河原崎 権十郎
 斧定九郎      尾 上  松 緑

【六段目】
与市兵衛内勘平腹切の場
 早野勘平       尾 上 菊五郎
 原郷右衛門        中 村 歌 六
 勘平女房おかる    尾 上 菊之助
 千崎弥五郎       河原崎 権十郎
 判人源六         市 川 團 蔵
 与市兵衛女房おかや  中 村 東 蔵
 一文字屋お才      中 村 魁 春

五段目の幕が開いて、勘平が笠を取った瞬間客席にじわが来た。菊五郎の顔がそれは若々しく美しかったから。いや、格好いい人なのは前からわかっていたけれど、なんだろうこの全く実年齢を感じさせない華やかな二枚目振りは。いささか驚きである。もちろん見た目だけでなく、芝居の方も素晴らしい。刻々と変わる心理の変化が鮮やかで引き込まれる。不運の連鎖に落ちていく男の哀れさ悲痛さが、色男ゆえに影が濃くくっきりと。それでいて、いかにも演技しているいやらしさが全くなく、どこまでもさらさらと自然に流れるよう。凄いものを見せていると感じさせずに凄いことをやっている。まさに当代一の勘平。

東蔵のおかやは、情があるゆえに転じて勘平を責める老母の悲しさを見せた。
菊之助のおかるは、道行よりこの場の方が神妙で、勘平を思うが故に売られていく哀れさ、最後の別れの切なさをしっとりと。

魁春のお才が如才ない花街の女将の様子。
秀逸なのが團蔵の源六で、軽妙さの中にしたたかさが見え、魁春共々色街の風情が立ち上る。團蔵は先月は加古川本蔵と、全く違う役で幅の広さと演技の確かさを印象づけた。

歌六の郷右衛門が初役とは意外。懐の深い、落ち着きある様子が立派。この頃歌六さんは、左團次さんの持ち役をやることが多くなってきた。いずれ師直もやったりするだろうか。

五段目では松緑の定九郎が、陰影のある非道な悪人ぶりで凄味を見せた。美脚堪能。

【七段目】
祇園一力茶屋の場
 大星由良之助    中 村 吉右衛門
 寺岡平右衛門    中 村 又 五 郎
 赤垣源蔵       坂 東 亀 三 郎
 矢間重太郎      坂 東 亀  寿
 竹森喜多八      中 村 隼  人
 鷺坂伴内       中 村 吉 之 丞
 斧九太夫       嵐   橘 三 郎
 大星力弥       中 村 種 之 助
 遊女おかる      中 村 雀右衛門

吉右衛門の由良之助も当たり役、そして当代随一。もう何も言うことはない、大きくて色気があって。隅々まで神経が行き届き、融通無碍で深く厳しく温かい。ひたすら大きな由良さん。暖簾から姿を見せるだけで客席が吸い込まれるよう。酔態の柔らかさから、力弥への厳しい表情への変化の鮮やかさ。その後もハラを隠しながら時折のぞく真意の見せ方が巧みで一瞬たりと目が離せない。おかるを身請けしようと言って、おかるが喜ぶのを見て扇で顔を隠すところでは、うっすらと涙が浮かんでいた。そして最後の九大夫へ怒りをぶつける場面で、客席も溜飲が下がるカタルシス。存在感に圧倒され台詞の息に飲み込まれて、心捕らわれ揺さぶられた。

又五郎の平右衛門、月初はやや力が入りすぎのように思えたが、だんだん良くなって楽日にはとても良い出来。小身者の悲しさと一生懸命さ、妹を思う情があって優しい兄さん。
雀右衛門のおかるもおっとりとした綺麗さで、身請けされると知った喜びに浮き足立つ様子がいじらしい。
二人の息が良くあって、ほんとうに仲のいい兄妹みたいで可愛かった。

おかるが勘平の死を聞いて「わしゃどうしょう」と言うところで、それはもちろんこれからどうして生きていこうという意味なのだろうけど、勘平の死の原因は自分にあるという罪の意識の重さを凄く感じた。これは通しだからなのか、雀右衛門さんの儚さ故なのかはわからない。でも凄く良かった 。

種之助の力弥、行儀良くすっきり。少年の雰囲気がよく似合う。可愛かった~。
橘三郎の九太夫はすっかり手に入った様子で、欲深い佞奸の様子。
吉之丞の判内は、この役にはちょっと真面目であまりニンではなさそうだが、誠実に勤めていたのがこの人らしい。
今回の上演では、幕開きに九太夫と判内が花道から入ってくる場面が付いた珍しい型。文楽の本行に沿ったやり方。

亀三郎、亀寿、隼人が三人侍。血気にはやった若者の苛立ちを見せた。亀三郎は道行の判内とは全く違った役で、今月大奮闘。

一力の仲居陣が、京妙、京紫、菊三呂らで鉄壁。平右衛門に呼ばれて布団を持ってくるのは京蔵。こういう役にちゃんとはまる脇役さんが揃うと舞台が安定する。

勘平の菊五郎、由良之助の吉右衛門、共にこれからの手本となるべき名演。今これを観られて本当に良かった。ありがたい。
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