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杉本文楽 女殺油地獄 [舞台]

8月11日(金) 世田谷パブリックシアター

数年前に「曽根崎心中」を取り上げた杉本博司による文楽。第二弾として「女殺油地獄」を上演した。
と言っても、野崎参りの段も河内屋の段もなく、豊島屋の段だけ。それがわかった時点で既に期待薄だったのだが。

冒頭に近松門左衛門の人形を出し、そこまでのあらすじなどを語らせる。と言ってもナレーターは太夫ではなく杉本本人だったらしい。まずそこでのこの話の解釈に疑問がある。与兵衛がお吉を殺すのは、自分を好いてくれていると思っていたのに裏切られたから、みたいなことを言っていて、呆れた。そんなの聞いたことないわ。まあ杉本がそう思うのは勝手だけど。近松を出すのも三谷文楽のパクりみたい。

その後、まず「序曲」として三味線の清治による独奏。清治が作曲したという新曲は現代音楽のようなモダン・ジャズのようなフラメンコ・ギターのような気さえする、ちょっと不思議な不協和音を感じさせる曲。その後の展開を予感させる。

次に「豊島屋内」の前半、お吉と与平衛の両親のくだりは素浄瑠璃。期待した千歳太夫と藤蔵だったが、残念なことに千歳が不調で声が出ていない。字幕もないので、初めてこの演目を見る人にはわけがわからなかったのでは。
後半、与兵衛が訪ねてくるところからやっと人形が登場。前回同様、手摺りがないので特に足遣いは大変。普通の公演と違い照明がスポットライト的に当たるので、人形の顔に影ができて凄絶さは感じられる。だが手摺りがないせいか、舞台が狭いせいか、殺しの場面での立ち回りが小さく見える。油でつーーーっと滑っていく感じも今ひとつ迫力がない。チラシではこの場面の「殺しにこだわった」とのことだが、どこが?と思ってしまった。普段の公演の方がよっぽど恐ろしくて凄惨だと思う。観る前は、ひょっとして歌舞伎みたいに油まみれにしたりするのかしら、なんて思ったがもちろんそれもなし。

床は、与兵衛を呂勢と清治、お吉を靖と清志郎で分け、曲はここも清治の新曲。序曲同様不思議な響きだが、さすがに聞かせる。でも太夫は語りにくそうな気がしたがどうだろう。
熱演の呂勢と安定の靖、三味線の二人はもちろん熱のこもった演奏で、特に清治は自作とあってあくまで表情はいつものようにクールだがしびれる演奏。

だが、前回の曽根崎心中では、映像を使ったり、本物の仏像を出したり、と杉本の演出がわかりやすかったが、今回は冒頭に近松を出したのと清治の新曲以外目につくものがなかった。後で聞けば、序曲を弾く清治の後ろにあった金屏風や、豊島屋のセットにあった樽が本物の骨董品らしいが、それが見せたかったのだろうか。
これで正味80分の公演でチケット代が9000円。
まあ結局この杉本文楽って、前もそう思ったけど、杉本のアートに関心がある人が見に来るもので、文楽ファンが聞きに来るものじゃないんだね。

人形も床も技芸員のみなさんは真摯に一生懸命やっておられただけに、なんだかいろいろ残念な気持ちだけが残った。

しかし清治さんがこんなイベントに手を貸しておられるのを見ると、普段の公演で切場を弾けないので欲求不満がたまってるんではないかと勘ぐってしまう。本公演でももっと良い場面で弾かせてほしい。

【口上】
◎人形役割
(近松門左衛門)吉田玉佳

【序曲】
◎三味線
鶴澤清治、鶴澤清志郎、鶴澤清馗

【下之巻・豊島屋】
≪前≫
◎太夫・三味線
竹本千歳太夫・鶴澤藤蔵

≪奥≫
◎太夫・三味線
(河内屋与兵衛)豊竹呂勢太夫・鶴澤清治
(女房お吉)豊竹靖太夫・鶴澤清志郎

◎人形役割
(河内屋与兵衛)吉田幸助
(女房お吉) 吉田一輔

◎囃子:望月太明藏社中

◎人形部:※以下、五十音順
桐竹紋臣 吉田玉翔 吉田玉勢 吉田玉延
吉田玉彦 吉田玉路 吉田玉誉 吉田簑悠


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八月納涼歌舞伎第二部 [舞台]

歌舞伎座

一、修禅寺物語(しゅぜんじものがたり)
夜叉王   彌十郎
姉娘桂   猿之助
源頼家   勘九郎
春彦    巳之助
妹娘楓   新悟
下田五郎   萬太郎
金窪兵衛   片岡亀蔵
修禅寺の僧   秀調

彌十郎の父と兄の追善狂言。
苦手な新歌舞伎の中でも特に嫌いな作品。誰がやっても面白いと思えないんだよな。
彌十郎の夜叉王は仕事に誠実な人と言う様子で、もっと気難しさや芸一筋の一徹さが見えると良いなあ、と思う。
猿之助の姉娘、気位が高く上昇志向の可愛げのなさがぴったり。
勘九郎の頼家に孤独な将軍の哀愁と気品がある。「頼朝の死」の頼家をやったらどうだろう、とふと思った。

新悟の妹娘が気立ての良い、姉と対照的な優しげな様子。
巳之助の春彦も真面目で実直な青年。似合いの夫婦。
萬太郎の五郎が武士らしい颯爽とした様子。

しかしこの演目、ずっと舞台が暗いし話も重いしで、睡魔と激闘。


東海道中膝栗毛
二、歌舞伎座捕物帖(こびきちょうなぞときばなし)
弥次郎兵衛 宙乗り相勤め申し候
喜 多 八   

弥次郎兵衛   染五郎
大道具伊兵衛   勘九郎
女医羽笠     七之助
座元釜桐座衛門    中車
天照大神又は町娘お笑   笑也
瀬之川伊之助   巳之助
中山新五郎    新悟
玩具の左七   廣太郎
芳沢綾人   隼人
女房お蝶   児太郎
舞台番虎吉   虎之介
伊之助妹お園   千之助
伊月梵太郎    金太郎
五代政之助    團子
瀬之川亀松    鶴松
芳沢小歌     弘太郎
瀬之川如燕    寿猿
芳沢菖之助     宗之助
芳沢琴五衛門    錦吾
若竹緑左衛門      笑三郎
同心古原仁三郎    猿弥
同心戸板雅楽之助   片岡亀蔵
鷲鼻少掾     門之助
関為三郎   竹三郎
喜多八   猿之助 

去年に続いての染猿の弥次喜多もの。でも今回は舞台は歌舞伎座。大道具として働く二人が歌舞伎座で起きた殺人事件の謎解きに一役買う、いわばバックステージもの。
と言うわけで去年のように旅もしないし、ましてやラスベガスの外人も出てこないので、破壊力は去年ほどではない。言い換えれば、歌舞伎味は濃かった。
幕開きに、去年の舞台をダイジェスト映像で見せるので、去年見ていない人にも入りやすい。と言っても、見てなくてもどうってことないけど。
ストーリーを言っても仕方ないので省くが、劇中劇で四の切が上演される。そこで忠信を演じるのが巳之助。これがキビキビしてなかなか良かった。近いうちに本公演でも、と期待。

びっくりが静を竹三郎が。劇中でも50年ぶりとかいじられていたが、なんのなんのお綺麗なこと。いや、驚いた。
寿猿との長老コンビが笑わせる達者ぶり。

金太郎と團子が今年も大人びた子供のコンビで場をさらう。
門之助と笑三郎が竹本のコンビに扮し、口パクかと思ったらちゃんと演奏していたのでこれもびっくり。役者って偉い。
猿弥の”古原仁三郎”がいかにもパロディで笑わせる。
中車の座元もキンキラの衣装で、今やすっかり有名になった昆虫博士の面を披露する場も。ここでは顔芸もたっぷり。
出色が児太郎のお蝶。わがまま女房の身勝手さ可笑しさをオーバー気味に。わ~お父さんの血だわ~!

他もいちいち上げてたらきりがない。多くの役者にそれぞれ役と台詞を割り振った作者の努力には頭が下がるが言い換えればそれで終わってるという気もする。

劇中、四の切の仕掛けを解剖して見せる下りがあって、へええ、こんな風になってるのかあ、と感心しきり。いや、でもこんなのお客に見せて良いの、と思っちゃったけど。

結末部分が二通りあり、お客の拍手でどちらか選ぶという趣向。私が見た日はAだった。両方覚える役者は大変。

染五郎と猿之助は狂言回し的な役回りでちょっと損してたような。でも幕開きと幕切れ二回の宙乗りの大サービス。ご苦労様。


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八月納涼歌舞伎第一部 [舞台]

歌舞伎座

8月は恒例の三部制。まず第一、二部を見てきた。

一、刺青奇偶(いれずみちょうはん)
半太郎    中車
お仲    七之助
赤っぱの猪太郎   亀鶴
従弟太郎吉    萬太郎
半太郎母おさく    梅花
半太郎父喜兵衛   錦吾
荒木田の熊介    猿弥
鮫の政五郎    染五郎

配役を見た時は、え、中車と七之助?勘九郎と七じゃなくて?と意外だった.今まで組んだこともなかったと思うし。
だが蓋を開けてみれば想像以上にしっくりきて良いコンビ。
まず中車が良い。博打好きだが根は真っ直ぐな男の影のある様子と、お仲への一途な思いがストレートに伝わる。少なくともこうした新歌舞伎ではもう立派な歌舞伎役者と言って良いと思う。大詰めの政五郎へのお仲を思う台詞が胸に響いてぼろ泣き。

七之助は玉三郎写しが濃すぎて、いや良い芝居なんだけど、玉様の影がつきまとう感じがなんだかなあ。後半にはもっと七の個性が出るだろうか。でも前半のやけっぱちな女が半太郎に救われて、生まれ変わったようになり、ひたすら半太郎を思う女のいじらしさと優しさ哀れさが胸を打つ。

染五郎は残念ながら大親分と言うには貫禄不足。
猿弥の熊介が三枚目敵のような味でコミカルさもあって笑わせる。

前に観たときは記憶に残らなかった半太郎の両親とのすれ違いが悲しい。でもきっと半太郎が最後の勝負に勝てたのは、両親が祈ったお地蔵さんの盃のおかげでは、と思えてまた泣けた。


二、 上 玉兎(たまうさぎ)
    下 団子売(だんごうり)
〈玉兎〉
玉兎    勘太郎
〈団子売〉
お福    猿之助
杵造    勘九郎

小1になったばかりの勘太郎が一人で踊る。それだけでも驚きだが、ちゃんと体を使って音楽に乗って踊ってみせる。ただ可愛いだけでなくしっかり踊れていることに感動。おばちゃん、泣けるわ。

団子売りは踊りの名手二人が揃って悪かろうはずがない。粋な勘九郎、あだで可愛い猿之助。二人が軽妙に息もぴったりに踊る楽しさときたら。はあ、眼福。短すぎて不満。もっともっと二人の踊りが見たい。

しかし玉兎から団子売への流れって、勘太郎ちゃんがついたお餅を勘猿が売ってるのね~wwとなった。


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第三回双蝶会 [舞台]

8月6日(日) 国立劇場小劇場

中村歌昇と種之助兄弟による勉強会も3回目となった。尊敬する播磨屋に指導を仰ぎ、播磨屋の芸を受け継ごうとする二人の成長に目を細める機会となった。

第3回双蝶会b.jpg
一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)
 奥殿

一條大蔵長成:中村種之助
吉岡鬼次郎:中村歌昇
お京:中村米吉
八剱勘解由:中村蝶十郎
鳴瀬:中村蝶紫
常盤御前:中村壱太郎

まずは種之助が大蔵卿に挑んだ。種ちゃんの大蔵卿は、世を偽って生きてきた人の悲しみが見えるようで、とにかく可愛い作り阿呆とのギャップを巧く見せていた。檜垣も見たい。

歌昇の鬼次郎はニンに合っていつか本公演でもやれそう。種ちゃんを見る目が時々お兄ちゃんになっちゃうのが、らしいと言えばらしい。

壱太郎の常盤は品良く位取りも良い。いかんせん幼く見えて子供が三人いるようには見えないが。
米吉のお京は眉なしのメークがしっくりきたのが収穫。ちょっと前まではああいうのは浮いてたと思う。声が凜として武家女房の雰囲気が出てた。
蝶十郎の勘解由が憎々しく、蝶紫の鳴瀬もしっかりとした武家勤めの女の風情があって、脇を固めた。


第3回双蝶会a.jpg
傾城反魂香(けいせいはんごんこう)
 土佐将監閑居の場

浮世又平後に土佐又平光起:中村歌昇
女房おとく:中村種之助
土佐将監:中村又之助
将監北の方:中村梅乃
狩野雅楽之助:中村蝶三郎
土佐修理之助:中村米吉

又平は、愚直なまでの必死さが歌昇君自身の必死さと重なって胸を打つ。最後の名字をもらってからがやや顔芸気味になったのが惜しい。

種之助のおとくはほんとに情があって旦那思いの気立ての良い奥さん。経験の浅い女形でこれほどやれるとは期待を遙かに上回った。これからももっと女形もやってほしい。

師匠夫婦がいなくなって、又平夫婦二人きりになって、死を決意して絵を描いて奇跡が起こって、の部分が客席も静まりかえって二人を見守っていたのが印象的だった。それほど二人に引き込まれていたんだと思う。良い夫婦だったなあ。

米吉の修理之助はすっきりとしたお行儀良い好青年。花道引っ込むとき刀を腰に差すのに手間取ったのがツボった。

又之助のお師匠さんも威厳と情があって素敵だった。
梅乃の北の方は綺麗で、後妻ですか、って思うくらいだけど、お優しくて、着替えを持ってきておとくに声かけるのがほっこり。
蝶三郎の雅楽之助が颯爽として凜々しかった。

大蔵卿では愛大夫が、吃又には葵大夫が竹本を務めて下さる贅沢もありがたい。

第一回では染五郎や松緑、芝雀などゲストに頼る部分もあったが、今回は同年配の米吉、壱太郎の他はお弟子さん達で作り上げた舞台。
でも去年までの熱気で持って行った芝居から、一段上がって、たとえ二人を応援していない人にもちゃんと見せられる内容の充実した舞台になっていた。おばちゃん、よくここまでとしみじみしてしまって、思い返しても泣けてくる。

もちろんまだまだ播磨屋さんからお褒めにあずかるレベルではないかもだけど、でもこうして二人が真摯に播磨屋の芸を受け継ごうとしてくれることは播磨屋さんにとっても贔屓にとっても本当にうれしいこと。染ちゃんが頑張ってくれるとしても一人では難しい。その隙間を埋めてくれればと思う。
来年の開催も決まっている。何をやるのか、本当に楽しみ。


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松竹大歌舞伎 中央コース [舞台]

7月30日 厚木市文化会館
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去年始まった雀右衛門襲名披露の最後となる公演。この日は千穐楽でまさに最後。

一、妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)
三笠山御殿
杉酒屋娘お三輪    芝雀改め中村 雀右衛門
烏帽子折求女実は藤原淡海   中村 歌昇
入鹿妹橘姫     中村 米吉
豆腐買おむら    大谷 友右衛門
漁師鱶七実は金輪五郎今国     中村 吉右衛門

雀右衛門のお三輪は田舎娘の朴訥さと求女に恋する娘の一途さがあって可憐。場違いな御殿に紛れ込んでしまった恐れに戸惑いながらも、官女らにいじめられてもひたすら求女の姿を追い求める様子がいじらしくも哀れ。諦めて帰ろうとして、祝言の声に耐えきれず、「あれを聞いては帰られぬ」と一転裏切られた怒りと恨みに「疑着の相」を見せる変化がくっきりとして鮮やか。この人が怒りなどの激しい表情を見せるのって、考えてみると珍しいかもしれない。でもやっぱり最後は求女に会いたいと焦がれながら死んでいく様子が涙を誘う。

吉右衛門の金輪五郎はひたすら堂々として大きい。一種不気味なまでの古怪さがあって、朗々とした台詞回し共々義太夫狂言の面白さを堪能させてくれる。

求馬と橘姫は歌昇と米吉の初々しいカップル。こういう二枚目の色男に不慣れな歌昇君はやや堅さがあり、もっと開き直ってやってもという感じ。米吉もこの人にしては求女恋しさが薄く(まあ、行儀が良いと言えなくもない)、二人ともちょっと物足りなかった。

二、五代目中村雀右衛門襲名披露 口上(こうじょう)
千穐楽、襲名口上もこれが最後。去年4月の襲名から1年半足らずですっかり名前もなじんで、一回りも二回りも存在感が大きくなった雀右衛門さん。福助の不在、玉三郎も歌舞伎の舞台から遠ざかりがちな今、ますます立女形としての活躍が期待される。

三、太刀盗人(たちぬすびと)
すっぱの九郎兵衛    中村 又五郎
目代丁字左衛門     中村 吉之丞
田舎者万兵衛      中村 種之助

又五郎の九郎兵衛は持ち役で、ギロギロと獲物を探す目つきの悪さからして笑いを誘う。何事も万兵衛の後を真似して言う台詞も踊りもわざと下手に見せる匠の技。
種之助の万兵衛は田舎者らしいおっとりした様子で、踊りは行儀よくすっきり。何より困った顔のかわいさがプライスレス。
吉之丞の目代は老人の拵えで、よぼよぼした様子がほんのりおかしい。

播磨屋さんが出て下さったことで、座組は小さいながら巡業とは言え充実した舞台で、襲名興行を締めくくることができて京屋さんもお幸せだと思う。


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7月その他 [舞台]

まだ書いてない記事もあるけど、とりあえず。

歌舞伎鑑賞教室「鬼一法眼三略巻 一條大蔵譚」
菊之助が岳父の当たり役大蔵卿に挑んだ。
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夏休み文楽特別公演
今年は第二、三部のみ拝見。
三部の「夏祭浪花鑑」が見ものだった。簔助のお辰、勘十郎の団七。
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松竹座七月大歌舞伎昼の部 [舞台]

一、夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)
序 幕  住吉鳥居前の場
二幕目  難波三婦内の場
大 詰  長町裏の場

団七九郎兵衛   染五郎
女房お梶     孝太郎
一寸徳兵衛   松也
玉島磯之丞   萬太郎
傾城琴浦    壱太郎
下剃三吉    廣太郎
役人堤藤内   寿治郎
大鳥佐賀右衛門   松之助
三河屋義平次   橘三郎
三婦女房おつぎ   竹三郎
釣舟三婦     鴈治郎
徳兵衛女房お辰   時蔵



染五郎の団七は初役だったっけ?浪速のチンピラの泥臭さは望むべくもないが、徳兵衛との立て引きや義平次殺しの見得の姿の美しさなどは良いけど、なんとなく育ちの良い坊っちゃんぽさが抜けなくて、駆け出しのチンピラというよりは、親に反抗してぐれた若者感が否めないのが辛いところ。

時蔵さんお辰は女伊達の風情で格好いい!この人はからりとした色気と粋さがあって素敵。三婦に磯之丞は預けられないと言われて、三婦に反発するところも、手強い感じではなくさらりとした中に芯の強さを出す。
松也は昼夜とも大健闘。徳兵衛もいきった若者の精一杯肩で風切ってる感じが似合ってた。後の段の団七内でお梶に偽りの言い寄りするのも観たかった。

鴈治郎はんの三婦は、この人がもうこれをやるのかという気もしたが、年は取ってもまだまだ若いもんには負けへんで、な気骨ある老侠客の勢いと、面倒見の良い人柄が見えてまずまず。
竹三郎のおつぎがさすがに上手く、浪速の侠客の女房らしい腹の据わったおかみさんぶり。

孝太郎さんのお梶はいいね。もう何回目か、すっかり自分のものにしている安心感。団七の良い女房で、良いおっかさんで。後の団七内が見たいな。やったことあったっけ。

萬太郎の磯之丞は収穫。もちろんまだまだなところもあるけど、ふにゃふにゃした二枚目の柔らかさとほのかなおかしみが感じられた。
壱太郎の琴浦もちょっと頭の軽そうな女の色気が出てくるようになってきて、二人の痴話喧嘩もなんとか様になった。
橘三郎の義平次が汚らしくて強欲で憎たらしさいっぱい。

二、二人道成寺(ににんどうじょうじ)
白拍子花子   時蔵
白拍子桜子   孝太郎

時蔵さんと孝太郎さん、ふうん、全然感じが違うんだねえ。と面白かった。玉様と菊ちゃんだと違うなりに菊ちゃんが必死に玉様に合わせてるシンクロ感があったけど、今月の二人はもっとフリーダムというか。
クールビューティとでも言おうか、清冽な美しさを見せる時蔵と、はんなりながら時折おきゃんな表情も見える孝太郎。鐘へ執着が強そうなのは孝太郎の方か。
どっちがどうとか上手く言えないけど、違うことが楽しかった。
二人がいつか単独で道成寺を踊る機会はあるだろうか。ぜひ見たいものだが。

松竹座七月大歌舞伎夜の部 [舞台]

松竹座
1707松竹座a.jpg

例年七月の松竹座はにざ様中心の公演だが、今年は夜の部だけの出演。

再春菘種蒔
一、舌出三番叟(しただしさんばそう)
三番叟   鴈治郎
千歳    壱太郎

見るからに福々しい(笑)鴈治郎の三番叟は、踊りはきっちりと行儀良く。もっと派手でも良いくらいだがほどよく収めていた。
壱太郎の千歳もたおやかで美しい。

通し狂言
二、盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)

薩摩源五兵衛    仁左衛門
笹野屋三五郎    染五郎
若党六七八右衛門   松也
芸者菊野     壱太郎
ごろつき勘九郎   橘三郎
仲居頭お弓   吉弥
富森助右衛門   錦吾
芸者小万    時蔵
家主くり廻しの弥助/出石宅兵衛   鴈治郎
同心了心    松之助

見終わって、言葉もない。というのが正直な感想。それくらい仁左衛門が凄かった。
幕開きの鷹揚なお侍さんの様子が可愛らしくさえあるだけに、後半の殺しの場の冷たさが胸を刺す。

心の闇と言葉で言うのは簡単だが、それをまざまざと見せてくれるニザ様。小万夫婦を訪ねて花道に出てくる横顔が逆光に浮かび上がったときのゾクッとする冷たさに、この人の心はもう死んでいると震える心地。光の消えた瞳が一瞬燃えるのは、小万の「あの人を助けて」の言葉を聞いたとき。修羅。

その鬼には誰がした、と憎しみをぶつける一方で、首をそれはそれは愛おしそうに抱きかかえて頬ずりする男は本当に鬼なのか。これを冷血鬼と呼べるのか。究極の、歪んでいたとしても愛の深さに息をのむしかない。

時蔵の小万あだっぽくて小粋な芸者の色気と、本来の人の良さがない交ぜに見えるのが良い。ほんとは源五兵衛のことだって騙したくはなかった。すべては夫のため。だから瀕死でも夫をかばう切なさが哀れ。

染五郎の三五郎も良いんだけど、個人的にはあの役にはもう少し陰がほしい。ちょっと真っ直ぐすぎる感じ。勘当受けた身の悲しさ悔しさがあるからこそ、人を騙しても金がほしいという鬱屈のようなものが感じられたらなお良かった。

松也の八右衛門、誠実で主思いの真っ直ぐさがよく見えて良い。ニザ様相手に大健闘。とても良い経験になると思う。今後に生かしてほしい。
しかしまあ、今日いちばん萌えたのは、ニザ様がマッティにほおかむりさせてやって抱きしめたとこだよなあ~。多分客全員がマッティに嫉妬したはず。

鴈治郎が強突く張りな大家をコミカルに。この陰惨な芝居の息抜き。

まあとにかくにざ様が凄かったとしか言い様がなく、細かいことは思い出せないレベル。こんなの見られて大阪の人は幸せでっせ。
この日の席は生協で安く取ってもらった、花外左のしかもいちばん後ろと言う、自分ではまず取らない席だったけど、おかげで花道を出入りするニザ様を堪能した。逆光でみえないとこもあったけど、反対に逆光に浮かび上がるお姿の陰影の神々しさに息するのを忘れそうだった。
ひょっとするとにざ様の源五兵衛はこれが最後になるかもしれない。そう思わせる渾身の舞台だった。ありがたい。

七月大歌舞伎昼の部 [舞台]

歌舞伎座

一、歌舞伎十八番の内 矢の根(やのね)
曽我五郎    右團次
大薩摩文太夫   九團次
馬士畑右衛門   弘太郎
曽我十郎    笑也

右團次は以前は台詞回しが粘っこくて聞き取りづらくて嫌いだった。この1,2年急速に改善されてだいぶ良くなった。五郎は力強く勇壮だが、荒事の稚気がやや乏しい。案外理知的に見えてしまう。計算してる荒事、って感じかな。ちょっともったいない。

河竹黙阿弥 作
盲長屋梅加賀鳶
二、加賀鳶(かがとび)
本郷木戸前勢揃いより
赤門捕物まで
二代目 市川齋入襲名披露

天神町梅吉/竹垣道玄  海老蔵
日蔭町松蔵     中車
お朝      児太郎
道玄女房おせつ   笑三郎
女按摩お兼   右之助改め齊入

海老蔵の道玄は、ギラギラしていて愛嬌もなく、極悪人みたいで見ていて疲れる。この役は、悪人だけどどこか愛嬌があって憎めない奴のはずなんだけど。まだ若い海老蔵には無理なんだろう。

拾いものは右之助改め斉入のおせつ。普段は物堅いおかみさんなどのイメージだけど、崩れた色気のある女を見せていた。今後役の幅が広がるのを期待。

中車の松蔵が良い。時代物はともかくこういう演目ではすっかり歌舞伎の舞台になじんで周りからも浮かなくなった。木戸前での気っ風の良い様子も様になり、伊勢屋でのきっちりとした頭らしい分別のある物言いが道玄を追い詰める様子が説得力がある。

児太郎のお朝が可憐。
笑三郎におせつはもったいないなあ。

河竹黙阿弥 作
三、連獅子(れんじし)
狂言師右近後に親獅子の精   海老蔵
狂言師左近後に仔獅子の精   巳之助
僧蓮念    男女蔵
僧遍念    市蔵

なんでこの演目を選んだのかわからないな。親より子の方が上手いなんてね。
巳之助は前に三津五郎と連獅子を踊っている。あれから何年だろう、すっかり成長して清潔で柔らかな身のこなしが美しく、後シテの毛振りも颯爽として綺麗。ああ、もう一度お父さんと踊らせてあげたかった。
海老蔵も思ったよりはちゃんと踊っていたけど、やや腰高なのが気になる。獅子は勇壮で目力も効いて迫力たっぷりだが。
ともあれ昼夜三演目に出演の大車輪ぶりは感服するが、若いとはいえ体は大事にしてほしい。子供達のためにも、と思わずにいられない。
     

七月大歌舞伎夜の部 [舞台]

歌舞伎座

先月夫人が亡くなった海老蔵が座頭、その上長男の勸玄君も出るとあってチケットは早々に売り切れ。
夜の部は復活と言うより事実上の新作の通し。

通し狂言 駄右衛門花御所異聞(だえもんはなのごしょいぶん)

日本駄右衛門・玉島幸兵衛・秋葉大権現 = 市川海老蔵(11代目)
月本円秋 = 市川右團次(3代目)
月本祐明 = 市川男女蔵(6代目)
奴浪平 = 中村亀鶴(2代目)
月本始之助 = 坂東巳之助(2代目)
傾城花月 = 坂東新悟(初代)
寺小姓采女 = 大谷廣松(2代目)
奴のお才・三津姫 = 中村児太郎(6代目)
白狐 = 堀越勸玄
駄右衛門子分早飛 = 市川弘太郎(初代)
長六 = 市川九團次(4代目)
逸当妻松ヶ枝 = 市川笑三郎(3代目)
馬淵十太夫 = 片岡市蔵(6代目)
東山義政 = 市川齊入(2代目)
玉島逸当・細川勝元 = 市川中車(9代目)

白浪五人男にも出てくる大盗賊の日本駄右衛門とお家騒動を絡めた話。駄右衛門が主人公と言うから、義賊なのかと思っていたらそうではなくてほんとの悪人だったのが意外といえば意外。
正月の国立の復活狂言をパワーとスピードをアップして、一段品は落としたといった感じ。サービス精神はたっぷりで、忠臣蔵四段目や落人、伊勢音頭などの場面のパロディらしきものが次々に出てきてまずまず楽しめる。でも普段歌舞伎見てない人はどうかね。

海老蔵は早替わりも含め三役(事実上四役)の大車輪。いつもながら悪人ではふてぶてしさとドスのきいた様子で存在感たっぷりだが、善人側の幸兵衛では例によって所在なげというか影が薄くなるのはどうしてなんだろうね。
途中では勸玄君を抱いての宙乗り。カンカン、怖がるどころか両手振り振りまでして余裕の大物ぶりで客席はこの時がいちばん沸いていた。

児太郎が抜擢とも言える重要な役をしっかりこなす。駄右衛門の一味で、でも元は幸兵衛の女で、幸兵衛のために金を稼ごうとしていたという複雑な役を、側室に化けたり、茶屋の女将かつ傾城の姿だったり、様子を変えながら最後は幸兵衛に尽くして死んでいく純粋さが良い。悪婆っぽいところなどお父さんを思い起こさせてなかなかのもの。いやあ、よく頑張ってる。

ただ、お才の死に際の場面での海老蔵の台詞には、プライベートとかぶって、聞いてる方もつらい気持ちになってしまった。もちろん本は奥さんが亡くなる前にできあがっていたんだろうけど。。。

右團次が貫禄あるお殿様で、忠臣蔵四段目の判官のもどきも見せる。
中車が忠臣逸当と勝元で裁き役。テレビでの顔芸は封印してすっかり地に足がついた歌舞伎役者ぶり。もっとも後半の逸当のゾンビ(!)ではさすがの怪演。ただ、青隈がのらないんだなあ。
巳之助と新悟が若殿と恋人で初々しいカップルぶり。落人もどきで一場面踊るのもうれしい。
他の役者もちょっとずつ見せ場をもらって、その辺が新作、作者の苦心もうかがえる。
もうちょっと整理した方がとは思うがまあ娯楽作品としては悪い出来ではない。もちろん突っ込みどころも満載だが。
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