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秀山祭九月大歌舞伎 夜の部 [舞台]

歌舞伎座
1709歌舞伎座b.jpg
一、ひらかな盛衰記(ひらがなせいすいき)
逆櫓
船頭松右衛門実は樋口次郎兼光  吉右衛門
漁師権四郎     歌六
お筆      雀右衛門
船頭明神丸富蔵   又五郎
同 灘吉九郎作   錦之助
同 日吉丸又六   松江
松右衛門女房およし   東蔵
畠山重忠    左團次

9年ぶりの吉右衛門の樋口。もうどこをとっても素晴らしいの一言。
前半、松右衛門としての台詞は世話物らしいくだけた調子で梶原に呼び出された件を物語る。明るく屈託のない様子。眼目は二度目の出で、樋口と顕すところから。戸口から外をうかがいながら「権四郎、頭が高い」の圧倒的な威圧感。それがまた権四郎に頭を下げての「親父様……」でまた少し世話に戻って許しを請う語り口に真摯な情がこもり、侍の樋口と、婿の松右衛門が行ったり来たりしながら心情を表していく、その表現の的確さと深さ、人間のあたたかさ大きさ、ただ聞き惚れる。
後半の立ち回りは、さすがに体の衰えも垣間見えるが、堂々たる威丈夫ぶり。捉えられた無念、畠山の武士の情けに感じ入る広やかさ、そして若君を助ける権四郎の情への感謝。そこにいるだけで、ただただ大きくて立派でかっこいい。

歌六の権四郎がまた素晴らしい。一徹で孫への愛情が深く、故にお筆が許せず怒りにまかせて若君を討とうとする…その怒りと悲しみの深さ激しさが胸を刺す。それが松右衛門が樋口とわかっての納得と、それでも諦めきれない悲しみが、笈摺の始末のくだりにあふれ出す。

雀右衛門のお筆、ひたすら若君大事の忠義心にあふれる。忍の一字のつらい役どころ。槌松を死なせてしまった申し訳なさと、なんとかして若君を取り返したい気持ちのせめぎ合いに苦悩する様子がひしひしと伝わる。しとやかな中に心の強さを見せる武家女らしいキリッとした雰囲気もあって素敵。

東蔵のおよしも人の良さそうな、女房で母で、また父の世話をする娘で、かいがいしい様子に子供が死んだと知った嘆きの哀れさが大げさでなく伝わる。

とにかくこの四人のアンサンブルが素晴らしく、チーム播磨屋の面目躍如。
いつも同じ顔ぶれってつまらない、とも思うけれど、やはりおなじみだから生まれる空気感もあって、今回のような舞台はこの顔ぶれだからこそとも思えた。

昼の幡随院と言い、夜のこれと言い、今この舞台を見られたことに感謝。

あと、船頭に逆櫓を教える場面では遠見の子役を使った。この子役さん達が達者だったことも記憶しておきたい。

二、再桜遇清水(さいかいざくらみそめのきよみず)
桜にまよふ破戒清玄
新清水花見の場
雪の下桂庵宿の場
六浦庵室の場
清水法師清玄/奴浪平  染五郎
桜姫    雀右衛門
奴磯平   歌昇
奴灘平   種之助
妙寿    米吉
妙喜    児太郎
大藤内成景   吉之丞
石塚団兵衛   橘三郎
按摩多門    宗之助
荏柄平太胤長   桂三
千葉之助清玄   錦之助
山路    魁春

吉右衛門が松貫四の筆名で書いた清玄桜姫ものの狂言。初演再演では自分が演じた役を染五郎に譲った。新作とは言えオーソドックスな歌舞伎で、知らずに見たら古典と思うかもしれない。あくまで歌舞伎は江戸の空気を伝えなくては、と言う吉右衛門らしい作品ではある。

染五郎が奴と破戒前後の清玄という実質三役を生き生きと言うよりノリノリでやっていて、なんだかとても楽しそう。吉右衛門の実演は見ていないのだが、染五郎への当て書きじゃないのかと思うくらい。特に最後の破戒した清玄の鬼気迫る様子は見もの。

雀右衛門の桜姫と錦之助の清玄が似合いのカップル。しかしまあ、お姫様の無邪気な恋は災いを呼ぶのは常としても、さすがにこの僧清玄からの祟られ方は、身から出たサビとは言え可哀想。

魁春が桜姫に仕える腰元で、ある意味この人の策略がすべての元凶と言えなくもないのだが、しれっとやっちゃう感じが魁春さんらしいと言うかなんというか。この人って意外に巧まざる可笑しさがあるんだよね。

歌昇・種之助がそれぞれ奴で活躍。
児太郎と米吉は僧清玄に仕える小姓で、破戒した後も世話をする健気さ。でもあまりのお師匠様の破戒ぶりに行く末を儚んで身を投げちゃうと言う、哀れな二人。でも可愛かったな。

最後の「ええ、ここで終わるのか!」な点を始め、突っ込みどころはいろいろあるが、染ちゃんにはぜひ持ち役にして納涼ででも再演してもらいたい。


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秀山祭九月大歌舞伎 昼の部 [舞台]

歌舞伎座

1709歌舞伎座a.jpg
10回目を迎えた秀山祭。播磨屋らしい演目が並んだ。

一、彦山権現誓助剱(ひこさんごんげんちかいのすけだち)
毛谷村
毛谷村六助   染五郎
お園       菊之助
杣斧右衛門   吉之丞
お幸       吉弥
微塵弾正実は京極内匠   又五郎

発端の杉坂墓所の場はなく、いきなり六助と弾正の立ち会いから始まる形。
弾正は又五郎で、ふてぶてしい様子がうまい。

染五郎の六助は播磨屋に習った様子がよく見えるが、播磨屋よりさらに一段明るい。
もうちょっともっさりした感じもあってもいい気がするが、まさに気は優しくて腕は立つ、と言う六助の美徳がくっきり見えて気持ちいい。子供をあやす優しさが微笑ましい。態度が一変するお園に振り回される様子が可愛い。師の娘で許嫁とわかってからのいちいち照れた様子とか、ほんとに気のいい男なんだな、という感じ。弾正に騙されたとわかっての怒りに、一転して武人らしい凜々しさがあふれてお園でなくても惚れ惚れ。

菊之助のお園は女武芸者のキリリとした様子から、六助が親の決めた許嫁と知っての豹変ぶりがなんとも可愛くいじらしい。でも何故か姉さん女房っぽく見えちゃったのはどうしてだろうね。

吉弥のお幸が品のある後室で、登場の時のちょっと不思議なおばあさんの雰囲気も良く(切り餅の投げ合いがちゃんとあったのはうれしい)、上々の出来。まだ老け役にはもったいないが、今後増えるかもしれない。
子役も達者で、後味の良い舞台。

仮名手本忠臣蔵
二、道行旅路の嫁入(みちゆきたびじのよめいり)
戸無瀬   藤十郎
小浪    壱太郎
奴可内   隼人

藤十郎は、去年顔見世の時より体が動いてなくて少し心配。存在感はさすがにたっぷりだけれど。
壱太郎の小浪は可憐。
この二人で九段目をと思っていたが、もう無理かもしれないなあ。でも八段目だけでもやれて良かった。
隼人の奴は月初は腰が高くて踊れてなかったが、楽にはだいぶ良くなってキビキビした動きも良かった。まあ、手足が長くて奴向きの体型ではないけれど。

河竹黙阿弥 作
三、極付 幡随長兵衛(きわめつき ばんずいちょうべえ)
「公平法問諍」
幡随院長兵衛    吉右衛門
水野十郎左衛門   染五郎
近藤登之助     錦之助
子分極楽十三    松江
同 雷重五郎    亀鶴
同 神田弥吉    歌昇
同 小仏小平    種之助
御台柏の前     米吉
伊予守頼義     児太郎
坂田金左衛門    吉之丞
慢容上人      橘三郎
渡辺綱九郎     錦吾
坂田公平/出尻清兵衛   又五郎
唐犬権兵衛    歌六
長兵衛女房お時   魁春

吉右衛門の長兵衛は何度見てもかっこいい。貫禄十分で、村山座で水野の子分をやっつける姿の颯爽とした様子に惚れ惚れ。だが何より素晴らしいのは台詞の調子。村山座や水野邸での啖呵はもとより、水野の屋敷に行くと決めた後の述懐や女房子供に聞かせる遺言の言葉の一つ一つが際立って胸に響き深く心に届いて震える。声色、調子、間、どこにも隙がなく聞き惚れるとはこのことか。今までも素晴らしかったが、今回は特に名調子に深みが増し、磨きがかかり、酔いしれた。ひたすら男として人間として大きく、だが家庭人としての悲しみもしっかり見せて、存在のすべてに圧倒された。

女房お時は魁春、このコンビはちょっと久しぶりかも。好きな組み合わせなのでうれしかった。控えめながらしっかりと情を伝える世話女房。着替えを手伝いながら、口に出さずとも交わす夫婦の情愛の深さに涙。

水野は染五郎だが、いかんともしがたい貫禄不足。まあ卑怯卑劣な旗本としてはあれくらいで良いのかもしれないけど、やはり水野は長兵衛と同格くらいの役者がやってくれないと、見ていて気分が悪い。こんな奴に殺されるのかよ!とかなっちゃう(苦笑)。
錦之助も最近増えてきた悪役だが、幕切れ、なんとなく播磨屋を見る目が「兄さん、かっこいいなああ」と言ってるように見えた(笑)。

又五郎が「公平問答」の公平から出尻へ早替わりで二役。全然違う役だし、何より公平の赤っつらから出尻へよく間に合うな~、と感心。そしてどちらも味があってうまい。
歌六の唐犬が渋い。

劇中劇の児太郎が何年か前のリベンジを果たした。ほんっとに下手だったんだよあの頃。よくここまで成長したなあ、と妙に感動してしまった。

吉之丞が持ち役だった舞台番から水野の家来に昇格していた。
その舞台番は吉兵衛に受け継がれ。
児太郎の件共々時の流れを感じる。


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8月その他 [舞台]

もう9月に入ってしまって、書き切れなかった8月の観劇記録。

1708音の会.jpg
8月11日(金)
音の会
国立劇場の歌舞伎音楽既成者研修発表会だが、目当ては最後の吉野山。梅乃さんの静と蔦之助さんの忠信。竹本だけの伴奏で、振りも見慣れたものと少し違ったような。

8月21日(月)
歌舞伎座納涼歌舞伎第三部
野田秀樹 作・演出
  野田版 桜の森の満開の下(さくらのもりのまんかいのした)

感想がまとまらず、書けなかった。
所々にぶっ込まれてる歌舞伎要素(勘九郎の毛振り(毛ないけど)とか、耳男と夜長姫が花道を走って入る時、二人の位置がくるっと変わって夜長姫が先に立つとこは曽根崎心中のパロだよなとか)がツボで、普通の歌舞伎公演で二人のこれらが見たいなあ。

勘九郎と猿弥の文字通り体を張った演技が凄い。特にほとんど出ずっぱりの兄。流され振り回され自分を見失う中での最後の覚醒。そして七之助は無邪気な童女のような笑みから鬼女の凄味まで、表情も声色も幅広く見せて圧倒的。二人に圧されてやや影の薄い染五郎は損したかも。

普段野田の芝居を見ないのでこれがどういう位置づけの演目なのかわからない。これを歌舞伎でやる意義も正直言ってわからない。題材的には歌舞伎向きなのかもしれないけど、それならもっと歌舞伎らしい演出というのもあっても良いのでは、と言う気もしないではない。でもそうしないのが野田流なんだろう。

1708研の會.jpg
8月28日(月)
研の會

一、神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)

娘お舟:尾上右近
新田義峯:尾上松也
傾城うてな:市川蔦之助
下男六蔵:澤村國矢
渡し守頓兵衛:片岡市蔵

二、上 羽根の禿(はねのかむろ) 
        禿梅野:尾上右近
  下 供奴(ともやっこ)
        奴菊平:尾上右近

尾上右近の自主公演、三回目。
カテコで「悔しさ一杯」と言うとおり、三回目にしていちばん壁に当たってる感じはした。というか意外に難しい役であり踊りだったな、と見えた。特に踊り。技術は素晴らしい。でも大真面目にやられると見る方は楽しくない。とはいえ、真摯に取り組む姿は清々しい。来年も楽しみだ。

1708巡業西.jpg
8月31日(木)
松竹大歌舞伎 巡業西コース

猩々は梅花の酒売りが品があって綺麗。巡業とは言えこういう役で梅花さんを見られるのが嬉しい。猩々は松緑と橋之助。ゆったりとした動きが美しい松緑とキビキビした橋之助の対比が楽しい。

芝翫型の熊谷も回を重ねてすっかり自分のものにした様子。単に珍しい型だからやるではなく、自分に合った型になったのだろう。相変わらずの熱演型なのはおいといて。梅玉の義経がさすがに気品と貫禄で魅せた。
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杉本文楽 女殺油地獄 [舞台]

8月11日(金) 世田谷パブリックシアター

数年前に「曽根崎心中」を取り上げた杉本博司による文楽。第二弾として「女殺油地獄」を上演した。
と言っても、野崎参りの段も河内屋の段もなく、豊島屋の段だけ。それがわかった時点で既に期待薄だったのだが。

冒頭に近松門左衛門の人形を出し、そこまでのあらすじなどを語らせる。と言ってもナレーターは太夫ではなく杉本本人だったらしい。まずそこでのこの話の解釈に疑問がある。与兵衛がお吉を殺すのは、自分を好いてくれていると思っていたのに裏切られたから、みたいなことを言っていて、呆れた。そんなの聞いたことないわ。まあ杉本がそう思うのは勝手だけど。近松を出すのも三谷文楽のパクりみたい。

その後、まず「序曲」として三味線の清治による独奏。清治が作曲したという新曲は現代音楽のようなモダン・ジャズのようなフラメンコ・ギターのような気さえする、ちょっと不思議な不協和音を感じさせる曲。その後の展開を予感させる。

次に「豊島屋内」の前半、お吉と与平衛の両親のくだりは素浄瑠璃。期待した千歳太夫と藤蔵だったが、残念なことに千歳が不調で声が出ていない。字幕もないので、初めてこの演目を見る人にはわけがわからなかったのでは。
後半、与兵衛が訪ねてくるところからやっと人形が登場。前回同様、手摺りがないので特に足遣いは大変。普通の公演と違い照明がスポットライト的に当たるので、人形の顔に影ができて凄絶さは感じられる。だが手摺りがないせいか、舞台が狭いせいか、殺しの場面での立ち回りが小さく見える。油でつーーーっと滑っていく感じも今ひとつ迫力がない。チラシではこの場面の「殺しにこだわった」とのことだが、どこが?と思ってしまった。普段の公演の方がよっぽど恐ろしくて凄惨だと思う。観る前は、ひょっとして歌舞伎みたいに油まみれにしたりするのかしら、なんて思ったがもちろんそれもなし。

床は、与兵衛を呂勢と清治、お吉を靖と清志郎で分け、曲はここも清治の新曲。序曲同様不思議な響きだが、さすがに聞かせる。でも太夫は語りにくそうな気がしたがどうだろう。
熱演の呂勢と安定の靖、三味線の二人はもちろん熱のこもった演奏で、特に清治は自作とあってあくまで表情はいつものようにクールだがしびれる演奏。

だが、前回の曽根崎心中では、映像を使ったり、本物の仏像を出したり、と杉本の演出がわかりやすかったが、今回は冒頭に近松を出したのと清治の新曲以外目につくものがなかった。後で聞けば、序曲を弾く清治の後ろにあった金屏風や、豊島屋のセットにあった樽が本物の骨董品らしいが、それが見せたかったのだろうか。
これで正味80分の公演でチケット代が9000円。
まあ結局この杉本文楽って、前もそう思ったけど、杉本のアートに関心がある人が見に来るもので、文楽ファンが聞きに来るものじゃないんだね。

人形も床も技芸員のみなさんは真摯に一生懸命やっておられただけに、なんだかいろいろ残念な気持ちだけが残った。

しかし清治さんがこんなイベントに手を貸しておられるのを見ると、普段の公演で切場を弾けないので欲求不満がたまってるんではないかと勘ぐってしまう。本公演でももっと良い場面で弾かせてほしい。

【口上】
◎人形役割
(近松門左衛門)吉田玉佳

【序曲】
◎三味線
鶴澤清治、鶴澤清志郎、鶴澤清馗

【下之巻・豊島屋】
≪前≫
◎太夫・三味線
竹本千歳太夫・鶴澤藤蔵

≪奥≫
◎太夫・三味線
(河内屋与兵衛)豊竹呂勢太夫・鶴澤清治
(女房お吉)豊竹靖太夫・鶴澤清志郎

◎人形役割
(河内屋与兵衛)吉田幸助
(女房お吉) 吉田一輔

◎囃子:望月太明藏社中

◎人形部:※以下、五十音順
桐竹紋臣 吉田玉翔 吉田玉勢 吉田玉延
吉田玉彦 吉田玉路 吉田玉誉 吉田簑悠


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八月納涼歌舞伎第二部 [舞台]

歌舞伎座

一、修禅寺物語(しゅぜんじものがたり)
夜叉王   彌十郎
姉娘桂   猿之助
源頼家   勘九郎
春彦    巳之助
妹娘楓   新悟
下田五郎   萬太郎
金窪兵衛   片岡亀蔵
修禅寺の僧   秀調

彌十郎の父と兄の追善狂言。
苦手な新歌舞伎の中でも特に嫌いな作品。誰がやっても面白いと思えないんだよな。
彌十郎の夜叉王は仕事に誠実な人と言う様子で、もっと気難しさや芸一筋の一徹さが見えると良いなあ、と思う。
猿之助の姉娘、気位が高く上昇志向の可愛げのなさがぴったり。
勘九郎の頼家に孤独な将軍の哀愁と気品がある。「頼朝の死」の頼家をやったらどうだろう、とふと思った。

新悟の妹娘が気立ての良い、姉と対照的な優しげな様子。
巳之助の春彦も真面目で実直な青年。似合いの夫婦。
萬太郎の五郎が武士らしい颯爽とした様子。

しかしこの演目、ずっと舞台が暗いし話も重いしで、睡魔と激闘。


東海道中膝栗毛
二、歌舞伎座捕物帖(こびきちょうなぞときばなし)
弥次郎兵衛 宙乗り相勤め申し候
喜 多 八   

弥次郎兵衛   染五郎
大道具伊兵衛   勘九郎
女医羽笠     七之助
座元釜桐座衛門    中車
天照大神又は町娘お笑   笑也
瀬之川伊之助   巳之助
中山新五郎    新悟
玩具の左七   廣太郎
芳沢綾人   隼人
女房お蝶   児太郎
舞台番虎吉   虎之介
伊之助妹お園   千之助
伊月梵太郎    金太郎
五代政之助    團子
瀬之川亀松    鶴松
芳沢小歌     弘太郎
瀬之川如燕    寿猿
芳沢菖之助     宗之助
芳沢琴五衛門    錦吾
若竹緑左衛門      笑三郎
同心古原仁三郎    猿弥
同心戸板雅楽之助   片岡亀蔵
鷲鼻少掾     門之助
関為三郎   竹三郎
喜多八   猿之助 

去年に続いての染猿の弥次喜多もの。でも今回は舞台は歌舞伎座。大道具として働く二人が歌舞伎座で起きた殺人事件の謎解きに一役買う、いわばバックステージもの。
と言うわけで去年のように旅もしないし、ましてやラスベガスの外人も出てこないので、破壊力は去年ほどではない。言い換えれば、歌舞伎味は濃かった。
幕開きに、去年の舞台をダイジェスト映像で見せるので、去年見ていない人にも入りやすい。と言っても、見てなくてもどうってことないけど。
ストーリーを言っても仕方ないので省くが、劇中劇で四の切が上演される。そこで忠信を演じるのが巳之助。これがキビキビしてなかなか良かった。近いうちに本公演でも、と期待。

びっくりが静を竹三郎が。劇中でも50年ぶりとかいじられていたが、なんのなんのお綺麗なこと。いや、驚いた。
寿猿との長老コンビが笑わせる達者ぶり。

金太郎と團子が今年も大人びた子供のコンビで場をさらう。
門之助と笑三郎が竹本のコンビに扮し、口パクかと思ったらちゃんと演奏していたのでこれもびっくり。役者って偉い。
猿弥の”古原仁三郎”がいかにもパロディで笑わせる。
中車の座元もキンキラの衣装で、今やすっかり有名になった昆虫博士の面を披露する場も。ここでは顔芸もたっぷり。
出色が児太郎のお蝶。わがまま女房の身勝手さ可笑しさをオーバー気味に。わ~お父さんの血だわ~!

他もいちいち上げてたらきりがない。多くの役者にそれぞれ役と台詞を割り振った作者の努力には頭が下がるが言い換えればそれで終わってるという気もする。

劇中、四の切の仕掛けを解剖して見せる下りがあって、へええ、こんな風になってるのかあ、と感心しきり。いや、でもこんなのお客に見せて良いの、と思っちゃったけど。

結末部分が二通りあり、お客の拍手でどちらか選ぶという趣向。私が見た日はAだった。両方覚える役者は大変。

染五郎と猿之助は狂言回し的な役回りでちょっと損してたような。でも幕開きと幕切れ二回の宙乗りの大サービス。ご苦労様。


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八月納涼歌舞伎第一部 [舞台]

歌舞伎座

8月は恒例の三部制。まず第一、二部を見てきた。

一、刺青奇偶(いれずみちょうはん)
半太郎    中車
お仲    七之助
赤っぱの猪太郎   亀鶴
従弟太郎吉    萬太郎
半太郎母おさく    梅花
半太郎父喜兵衛   錦吾
荒木田の熊介    猿弥
鮫の政五郎    染五郎

配役を見た時は、え、中車と七之助?勘九郎と七じゃなくて?と意外だった.今まで組んだこともなかったと思うし。
だが蓋を開けてみれば想像以上にしっくりきて良いコンビ。
まず中車が良い。博打好きだが根は真っ直ぐな男の影のある様子と、お仲への一途な思いがストレートに伝わる。少なくともこうした新歌舞伎ではもう立派な歌舞伎役者と言って良いと思う。大詰めの政五郎へのお仲を思う台詞が胸に響いてぼろ泣き。

七之助は玉三郎写しが濃すぎて、いや良い芝居なんだけど、玉様の影がつきまとう感じがなんだかなあ。後半にはもっと七の個性が出るだろうか。でも前半のやけっぱちな女が半太郎に救われて、生まれ変わったようになり、ひたすら半太郎を思う女のいじらしさと優しさ哀れさが胸を打つ。

染五郎は残念ながら大親分と言うには貫禄不足。
猿弥の熊介が三枚目敵のような味でコミカルさもあって笑わせる。

前に観たときは記憶に残らなかった半太郎の両親とのすれ違いが悲しい。でもきっと半太郎が最後の勝負に勝てたのは、両親が祈ったお地蔵さんの盃のおかげでは、と思えてまた泣けた。


二、 上 玉兎(たまうさぎ)
    下 団子売(だんごうり)
〈玉兎〉
玉兎    勘太郎
〈団子売〉
お福    猿之助
杵造    勘九郎

小1になったばかりの勘太郎が一人で踊る。それだけでも驚きだが、ちゃんと体を使って音楽に乗って踊ってみせる。ただ可愛いだけでなくしっかり踊れていることに感動。おばちゃん、泣けるわ。

団子売りは踊りの名手二人が揃って悪かろうはずがない。粋な勘九郎、あだで可愛い猿之助。二人が軽妙に息もぴったりに踊る楽しさときたら。はあ、眼福。短すぎて不満。もっともっと二人の踊りが見たい。

しかし玉兎から団子売への流れって、勘太郎ちゃんがついたお餅を勘猿が売ってるのね~wwとなった。


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第三回双蝶会 [舞台]

8月6日(日) 国立劇場小劇場

中村歌昇と種之助兄弟による勉強会も3回目となった。尊敬する播磨屋に指導を仰ぎ、播磨屋の芸を受け継ごうとする二人の成長に目を細める機会となった。

第3回双蝶会b.jpg
一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)
 奥殿

一條大蔵長成:中村種之助
吉岡鬼次郎:中村歌昇
お京:中村米吉
八剱勘解由:中村蝶十郎
鳴瀬:中村蝶紫
常盤御前:中村壱太郎

まずは種之助が大蔵卿に挑んだ。種ちゃんの大蔵卿は、世を偽って生きてきた人の悲しみが見えるようで、とにかく可愛い作り阿呆とのギャップを巧く見せていた。檜垣も見たい。

歌昇の鬼次郎はニンに合っていつか本公演でもやれそう。種ちゃんを見る目が時々お兄ちゃんになっちゃうのが、らしいと言えばらしい。

壱太郎の常盤は品良く位取りも良い。いかんせん幼く見えて子供が三人いるようには見えないが。
米吉のお京は眉なしのメークがしっくりきたのが収穫。ちょっと前まではああいうのは浮いてたと思う。声が凜として武家女房の雰囲気が出てた。
蝶十郎の勘解由が憎々しく、蝶紫の鳴瀬もしっかりとした武家勤めの女の風情があって、脇を固めた。


第3回双蝶会a.jpg
傾城反魂香(けいせいはんごんこう)
 土佐将監閑居の場

浮世又平後に土佐又平光起:中村歌昇
女房おとく:中村種之助
土佐将監:中村又之助
将監北の方:中村梅乃
狩野雅楽之助:中村蝶三郎
土佐修理之助:中村米吉

又平は、愚直なまでの必死さが歌昇君自身の必死さと重なって胸を打つ。最後の名字をもらってからがやや顔芸気味になったのが惜しい。

種之助のおとくはほんとに情があって旦那思いの気立ての良い奥さん。経験の浅い女形でこれほどやれるとは期待を遙かに上回った。これからももっと女形もやってほしい。

師匠夫婦がいなくなって、又平夫婦二人きりになって、死を決意して絵を描いて奇跡が起こって、の部分が客席も静まりかえって二人を見守っていたのが印象的だった。それほど二人に引き込まれていたんだと思う。良い夫婦だったなあ。

米吉の修理之助はすっきりとしたお行儀良い好青年。花道引っ込むとき刀を腰に差すのに手間取ったのがツボった。

又之助のお師匠さんも威厳と情があって素敵だった。
梅乃の北の方は綺麗で、後妻ですか、って思うくらいだけど、お優しくて、着替えを持ってきておとくに声かけるのがほっこり。
蝶三郎の雅楽之助が颯爽として凜々しかった。

大蔵卿では愛大夫が、吃又には葵大夫が竹本を務めて下さる贅沢もありがたい。

第一回では染五郎や松緑、芝雀などゲストに頼る部分もあったが、今回は同年配の米吉、壱太郎の他はお弟子さん達で作り上げた舞台。
でも去年までの熱気で持って行った芝居から、一段上がって、たとえ二人を応援していない人にもちゃんと見せられる内容の充実した舞台になっていた。おばちゃん、よくここまでとしみじみしてしまって、思い返しても泣けてくる。

もちろんまだまだ播磨屋さんからお褒めにあずかるレベルではないかもだけど、でもこうして二人が真摯に播磨屋の芸を受け継ごうとしてくれることは播磨屋さんにとっても贔屓にとっても本当にうれしいこと。染ちゃんが頑張ってくれるとしても一人では難しい。その隙間を埋めてくれればと思う。
来年の開催も決まっている。何をやるのか、本当に楽しみ。


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松竹大歌舞伎 中央コース [舞台]

7月30日 厚木市文化会館
1707巡業中央.jpg

去年始まった雀右衛門襲名披露の最後となる公演。この日は千穐楽でまさに最後。

一、妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)
三笠山御殿
杉酒屋娘お三輪    芝雀改め中村 雀右衛門
烏帽子折求女実は藤原淡海   中村 歌昇
入鹿妹橘姫     中村 米吉
豆腐買おむら    大谷 友右衛門
漁師鱶七実は金輪五郎今国     中村 吉右衛門

雀右衛門のお三輪は田舎娘の朴訥さと求女に恋する娘の一途さがあって可憐。場違いな御殿に紛れ込んでしまった恐れに戸惑いながらも、官女らにいじめられてもひたすら求女の姿を追い求める様子がいじらしくも哀れ。諦めて帰ろうとして、祝言の声に耐えきれず、「あれを聞いては帰られぬ」と一転裏切られた怒りと恨みに「疑着の相」を見せる変化がくっきりとして鮮やか。この人が怒りなどの激しい表情を見せるのって、考えてみると珍しいかもしれない。でもやっぱり最後は求女に会いたいと焦がれながら死んでいく様子が涙を誘う。

吉右衛門の金輪五郎はひたすら堂々として大きい。一種不気味なまでの古怪さがあって、朗々とした台詞回し共々義太夫狂言の面白さを堪能させてくれる。

求馬と橘姫は歌昇と米吉の初々しいカップル。こういう二枚目の色男に不慣れな歌昇君はやや堅さがあり、もっと開き直ってやってもという感じ。米吉もこの人にしては求女恋しさが薄く(まあ、行儀が良いと言えなくもない)、二人ともちょっと物足りなかった。

二、五代目中村雀右衛門襲名披露 口上(こうじょう)
千穐楽、襲名口上もこれが最後。去年4月の襲名から1年半足らずですっかり名前もなじんで、一回りも二回りも存在感が大きくなった雀右衛門さん。福助の不在、玉三郎も歌舞伎の舞台から遠ざかりがちな今、ますます立女形としての活躍が期待される。

三、太刀盗人(たちぬすびと)
すっぱの九郎兵衛    中村 又五郎
目代丁字左衛門     中村 吉之丞
田舎者万兵衛      中村 種之助

又五郎の九郎兵衛は持ち役で、ギロギロと獲物を探す目つきの悪さからして笑いを誘う。何事も万兵衛の後を真似して言う台詞も踊りもわざと下手に見せる匠の技。
種之助の万兵衛は田舎者らしいおっとりした様子で、踊りは行儀よくすっきり。何より困った顔のかわいさがプライスレス。
吉之丞の目代は老人の拵えで、よぼよぼした様子がほんのりおかしい。

播磨屋さんが出て下さったことで、座組は小さいながら巡業とは言え充実した舞台で、襲名興行を締めくくることができて京屋さんもお幸せだと思う。


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7月その他 [舞台]

まだ書いてない記事もあるけど、とりあえず。

歌舞伎鑑賞教室「鬼一法眼三略巻 一條大蔵譚」
菊之助が岳父の当たり役大蔵卿に挑んだ。
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夏休み文楽特別公演
今年は第二、三部のみ拝見。
三部の「夏祭浪花鑑」が見ものだった。簔助のお辰、勘十郎の団七。
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松竹座七月大歌舞伎昼の部 [舞台]

一、夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)
序 幕  住吉鳥居前の場
二幕目  難波三婦内の場
大 詰  長町裏の場

団七九郎兵衛   染五郎
女房お梶     孝太郎
一寸徳兵衛   松也
玉島磯之丞   萬太郎
傾城琴浦    壱太郎
下剃三吉    廣太郎
役人堤藤内   寿治郎
大鳥佐賀右衛門   松之助
三河屋義平次   橘三郎
三婦女房おつぎ   竹三郎
釣舟三婦     鴈治郎
徳兵衛女房お辰   時蔵



染五郎の団七は初役だったっけ?浪速のチンピラの泥臭さは望むべくもないが、徳兵衛との立て引きや義平次殺しの見得の姿の美しさなどは良いけど、なんとなく育ちの良い坊っちゃんぽさが抜けなくて、駆け出しのチンピラというよりは、親に反抗してぐれた若者感が否めないのが辛いところ。

時蔵さんお辰は女伊達の風情で格好いい!この人はからりとした色気と粋さがあって素敵。三婦に磯之丞は預けられないと言われて、三婦に反発するところも、手強い感じではなくさらりとした中に芯の強さを出す。
松也は昼夜とも大健闘。徳兵衛もいきった若者の精一杯肩で風切ってる感じが似合ってた。後の段の団七内でお梶に偽りの言い寄りするのも観たかった。

鴈治郎はんの三婦は、この人がもうこれをやるのかという気もしたが、年は取ってもまだまだ若いもんには負けへんで、な気骨ある老侠客の勢いと、面倒見の良い人柄が見えてまずまず。
竹三郎のおつぎがさすがに上手く、浪速の侠客の女房らしい腹の据わったおかみさんぶり。

孝太郎さんのお梶はいいね。もう何回目か、すっかり自分のものにしている安心感。団七の良い女房で、良いおっかさんで。後の団七内が見たいな。やったことあったっけ。

萬太郎の磯之丞は収穫。もちろんまだまだなところもあるけど、ふにゃふにゃした二枚目の柔らかさとほのかなおかしみが感じられた。
壱太郎の琴浦もちょっと頭の軽そうな女の色気が出てくるようになってきて、二人の痴話喧嘩もなんとか様になった。
橘三郎の義平次が汚らしくて強欲で憎たらしさいっぱい。

二、二人道成寺(ににんどうじょうじ)
白拍子花子   時蔵
白拍子桜子   孝太郎

時蔵さんと孝太郎さん、ふうん、全然感じが違うんだねえ。と面白かった。玉様と菊ちゃんだと違うなりに菊ちゃんが必死に玉様に合わせてるシンクロ感があったけど、今月の二人はもっとフリーダムというか。
クールビューティとでも言おうか、清冽な美しさを見せる時蔵と、はんなりながら時折おきゃんな表情も見える孝太郎。鐘へ執着が強そうなのは孝太郎の方か。
どっちがどうとか上手く言えないけど、違うことが楽しかった。
二人がいつか単独で道成寺を踊る機会はあるだろうか。ぜひ見たいものだが。
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