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壽 初春大歌舞伎 昼の部 [舞台]

歌舞伎座

高麗屋三代襲名披露公演の最初の月。
いよいよこの時が来たか、と言う気持ち。特に高麗屋の贔屓ではないけれど、三代揃ってと言うこともあって毎年のようにある襲名でも特別感がある。

一、箱根霊験誓仇討(はこねれいげんちかいのあだうち) 箱根山中施行の場
同   白滝の場
飯沼勝五郎    勘九郎
滝口上野/奴筆助  愛之助
女房初花    七之助
刎川久馬    吉之丞
母早蕨    秀太郎

最初の演目は襲名とは全く関係なし。正月の朝一から幽霊が出てくる仇討ちものって、何だかなあ。しかも仇を討ってめでたしめでたしで終わるならまだしも、これから仇討ちに行くぞー!て幕ってのも欲求不満。
足の悪い夫を車に乗せて妻が引きながら敵を探す。だが敵と出会っても夫が腰が立たないため勝負にならず、それどころか夫と母を守るため妻は連れ去られてしまう。妻は死んで霊魂となって夫らの元へ戻り、その霊験で夫は足が治る。
夫勝五郎の勘九郎が主役と思いきや足が治って立つシーンくらいしか見せ場がない。そこも「立った、立った」ではクララじゃあるまいしと客席で笑いが漏れる。
見せ場が多いのは七之助の妻初花の方で、夫に尽くす優しさと夫と母の命を質に取られての苦悩が見え、幽霊となって(でも夫らは生きてると思ってる)滝壺へ身を投げるまでの所作も見せる。
愛之助が敵と忠僕の二役。敵ではふてぶてしい様子を見せるが、ニンとしては奴の方が合っている。誠実で朴訥とした様子が出てなかなか。
秀太郎が中村屋兄弟と共演とは珍しいが、それほどの見せ場なく、無駄遣い感が。

昔はそれなりに上演された作品らしいが、正直言って、他の演目なかったのかな~。

二、七福神(しちふくじん)
恵比寿  又五郎
弁財天  扇雀
寿老人  彌十郎
福禄寿  門之助
布袋   高麗蔵
毘沙門  芝翫
大黒天  鴈治郎

七人(神)が順番に踊るだけの演目だが、なんとはなしにめでたく楽しい。こっちの方が幕開きによかったのでは。それぞれ拵えがよく似合ってほのぼのだが、なんと言っても大黒天の鴈治郞。福々しいとはこのことかと言うヴィジュアルはもちろん、他の人が踊っているとき後ろで手酌でひたすら飲んでいる様子が、ほんとにお酒入ってるんじゃない?と言う疑惑がもたげるほど。あのフィギュアあったら絶対売れると思う。
     
三、菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)
車引
1801歌舞伎座kurumabiki_1225.jpg
松王丸  染五郎改め幸四郎
梅王丸  勘九郎
桜丸   七之助
杉王丸   廣太郎
金棒引藤内  亀鶴
藤原時平  彌十郎

昼の新幸四郎披露狂言。
車引きは三つ子の若さが出た舞台。悪く言えば勢いでやっている。その分、義太夫狂言の面白さは薄め。とはいえ勘梅王のほとばしる熱量、端正さに悲しみをにじませる七桜、二人をなんとかとどめようとする幸四郎松王のぶつかり合いはワクワクする。彌十郎時平には今ひとつ古怪さがほしい。
幸四郎には悪いが、この場の見ものは勘九郎の梅王丸。久々に見た古典の荒事。力強い六法、三本刀を差してぐっと腰を落とした姿の美しさ。これだこれだ、勘九郎で見たかったのはこれだ、と思って胸が熱くなる。
幸四郎の松王丸も、ここではヒールでふてぶてしさと大きさを見せる。ずっと線が細いと言われ続け、三つ子なら桜丸だってできそうなこの人が、しっかりと松王丸として立っていることに感無量。

寺子屋
1801歌舞伎座terakoya_1225.jpg
松王丸   幸四郎改め白鸚
武部源蔵  梅玉
千代   魁春
戸浪   雀右衛門
涎くり与太郎   猿之助
百姓  良作   由次郎
同 田右衛門   桂三
同   鍬助   寿猿
同   米八   橘三郎
同   麦六   松之助
同  仙兵衛   寿治郎
同  八百吉   吉之丞
百姓  吾作   東蔵
春藤玄蕃     左團次
園生の前     藤十郎 

花形世代の車引に対し、新白鸚を中心とした寺子屋はまさに大御所が顔を揃えた。
白鸚松王丸は通常運転。この人らしい台詞回しとリアルさ。もうこれはこれでこの人のスタイルとして確立されているのだろう。
魁春の千代が良い。特に戻ってきての源蔵と二人の場面に、まだ吐露できない我が子への思いが滲んで絶品。今時代物の女房をやらせたらこの人がいちばんと改めて思う。
松王と千代の絆が感じられ、「笑うたとよ」「その叔父御に小太郎が」などのやりとりに泣かされた。

梅玉源蔵はやや淡泊な感じもあるが、苦悩と誠実さが見える丁寧な出来。とはいえもう少し心の変化が見えてほしい気も。
雀右衛門戸浪も控えめながら夫を支える。
二人とも新白鸚を立てようとしてるのか、あまり前に出てこない。でも若手じゃあるまいし、ぶつかってこそ大きくなる舞台もあるだろう。

10月の骨折から復帰した猿之助が涎くり与太郎に出て笑いを誘う。
藤十郎が御台所に出るごちそうが襲名ならでは。


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国立劇場12月歌舞伎公演 [舞台]

12月の国立劇場は播磨屋を中心とした公演。

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一・今様三番三(いまようさんばそう)
晒し三番叟の外題で昨年壱太郎が巡業で出していたが、その前は40年くらい間が空くという珍しい舞踊。
雀右衛門は如月姫を務め、引き抜きあり、晒しを振っての踊り、ちょっとした立ち回り風味もあり、と楽しませる。
歌昇と種之助が姫を怪しんで捕らえようとする侍。白塗りの歌昇に赤っ面の種之助、それぞれが個性を見せる。特に幕切れの種之助の力強い様子が頼もしい。
雀右衛門と三人でせり上がってきたところは一幅の絵。フィギュアにしたいくらい。

二・隅田春妓女容性(スダノハルゲイシャカタギ) ~御存梅の由兵衛
初代吉右衛門の当たり役で、こちらも白鸚が演じて以来やはり40年ぶりくらいの上演。「御存」とつくくらいだから昔は人気作品だったのだろうが、何故か途絶えていた。筋は、御所五郎蔵的な、古主の縁に繋がる人を助けるために奔走する由兵衛が金策に困って過ちから人を殺め、、、と言った話だが、御所五郎蔵の他に、法界坊やら帯屋やら十六夜清心やらから取ってきたような場面が挿入され、さらには小さん金五郎、長吉長五郎、と言うような名前も他の作品を思い起こさせる。並木五瓶作だがパロディか?と思うような作りで、それでも場面ごとにぶつ切りにはならずになんとか繋がっているし、娯楽作品とは言えないがそれほど肩が凝らずに楽しめる。

吉右衛門の由兵衛は侠客と言っても幡随院のような恰幅の良さはなく、あまり大物感はない。それだけにむしろ吉右衛門にはやりにくかったのではないかな、と感じる節もある。主要場面の長吉殺しも、悪人をバッサリやるのとは違い、金を借りようともみ合ううちに思わず、と言った様子で(ここは夏祭浪花鑑の長町裏のよう)むしろ長吉に同情が集まる。由兵衛の見せ場はむしろその後の、家に戻った由兵衛の苦悩、源兵衛との立て引き、女房小梅との切ない情の交わし合い、の丁寧な心理描写にある。明確な台詞回し、揺れる表情で由兵衛の心の内を描き出して見せてさすがに唸らせる。
最後は敵の源平衛を一騎打ちでやっつけてやっと溜飲を下げて、「本日はこれ切り」での幕。

菊之助は小梅と弟直吉の二役。途中では早替わりも見せる。小梅では元芸者の粋な女っぷりの良さと、夫への深い情を見せ、直吉では姉のために金の工面に苦労する誠実な様子と、二役ともニンに合って良い出来。菊之助もすっかりチーム播磨屋に馴染んで溶け込んでいるのもうれしい。

歌六の源兵衛が敵役ながら渋くて格好いい。ニヒルな悪人といったところか。吉右衛門の由兵衛と伍して格負けしない押し出しの良さ。(幕切れ、播磨屋より強そう、とつい思っちゃった)

雀右衛門が売れっ子芸者のしっとりとした美しさ。
錦之助は定番の優男だが、今回は元武士のキリッとしたところもちょっと見せて、お、今回は強いんだ、と思ったら後は案の定詰めの甘いいつものクズ。似合いすぎ。
又五郎が悪人に加担する乞食で軽薄さと可笑しさを見せてさすがに上手い。

東蔵が珍しく裁き役的な武士で貫禄を見せる。
歌昇が三枚目敵風で、コミカルさを見せて新しい引き出しを持った。
米吉が可愛らしくいじらしい。こういう役はもう安心して見ていられる。
桂三も安定のダメ男の敵役。
種之助は出番は短いが芸者役でなかなか良い感じ。これから女形増えるかな。

ともかくチーム播磨屋の鉄板のアンサンブルを堪能できた。
今年も一年播磨屋さんがお元気で、素晴らしい舞台を見られて幸せ。

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十二月大歌舞伎 第二部 [舞台]

歌舞伎座

一、らくだ
紙屑屋久六    中車
やたけたの熊五郎  愛之助
家主幸兵衛    橘太郎
家主女房おさい  松之助
らくだの宇之助  片岡亀蔵

中車と愛之助によるらくだは今年の正月に松竹座で見ている。上方版での上演。
中車はさらに自由度を増して前半のおどおどとした様子でのくねくねした体の動きも可笑しく、酔って人格が変わるのが上手い。でもいちばん笑えるのは、らくだの死体を背負って大家の玄関先でらくだと格闘する場面。亀蔵のらくだも死んでるはずなのに、いや死んでるからこそ久六の思うようにならなくて倒れたり久六にのしかかったり、台詞もない二人が可笑しくて可笑しくて。

愛之助の熊五郎は、台詞ががなっている感じで聞きづらい。強い台詞と怒鳴るのとは違う。
亀蔵のらくだは先述の通りほんとに可笑しい。これを当たり役というのも失礼なのかもしれないが、当代一なのは間違いない。
橘太郎の家主と松之助の女房も、散々な目に遭わされる姿が爆笑。特に橘太郎は柱に登る軽業も見せてさすが。

倭仮名在原系図
二、蘭平物狂(らんぺいものぐるい)
奴蘭平実は伴義雄    松緑
壬生与茂作実は大江音人   坂東亀蔵
水無瀬御前      児太郎
一子繁蔵       左近
女房おりく実は音人妻明石  新悟
在原行平      愛之助

松緑自身は、蘭平は前回で終わりのつもりだったらしいが、会社側からの要請でまたやることになったと。前回で初舞台を踏んだ左近も大きくなって、二人でやれるのは本当に最後だろう。
前半の物狂いは軽快な踊り。丁寧な手先、安定した足裁きと、この人の踊りはしっかりして気持ちよい。芝居では奴らしいキビキビした様子と、息子を案じる様子の両方をきっちり。
だが眼目はやはり後半の立ち回りで、梯子を使ったり屋根に登ったり息もつかせない。少しでも気を抜くと大事故にもなりかねない危険な殺陣で、捕り手の三階さん達にも緊張感がみなぎる。立ち回りの場の前、幕の内側から松緑君の「よろしくお願いします」の声がしてお弟子さん達の「押忍!」というような気合いが聞こえた。ただ格好いい立ち回りというのでなく、松緑君と三階さん達の信頼が築きあげた命がけの舞台。胸が一杯になって泣きそうになってしまった。

今回の松緑君は前回以上に息子繁蔵を思う気持ちが強く見えた。前半もそうだが立ち回りの最後の繁蔵を呼ぶ声、「ととは、ととはここにおるぞよ~」に情がこもっていてうるうる。やはりこれは実の親子でやると余計に胸に迫る物がある。

繁蔵は今回も息子の左近。声変わり中かやや台詞が辛そうなところもあるが、のびのびとやっている。最後の蘭平の腕に抱きつく場面は、もう大きくて無理なんじゃないかと心配したが、前よりむしろ足の使い方が(長くなったので)上手くできて安定して見えたくらい。将来が楽しみ。

新悟のおりくが気立ての良さそうな、おっとりとした風情。
亀蔵の与茂作実は大江音人が颯爽としている。
愛之助の行平が品のある殿様の様子で似合い。
児太郎の御台も位取りがちゃんとできていて上々。


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十二月大歌舞伎 第一部 [舞台]

歌舞伎座

12月は恒例の三部制。一二部は愛之助と松緑、三部は中車と玉三郎の布陣。正直言うと、玉三郎と松緑も見たかったのだが。

源平布引滝
一、実盛物語(さねもりものがたり)
斎藤別当実盛  愛之助
女房小よし   吉弥
葵御前     笑三郎
郎党      宗之助
同       竹松
同       廣太郎
同       廣松
百姓九郎助   松之助
瀬尾十郎    片岡亀蔵
小万      門之助

月初に見たときは、愛之助の口跡が悪いというよりなんだかテレビ俳優の舞台みたいで、歌舞伎味が薄くて、大丈夫なのか愛之助?と心配になったほどまずかった。テレビだのミュージカルだの外部の仕事ばっかりやってるからじゃないの、とため息が出たが、楽近くに見たらかなり改善されていてほっとした。やはり芝居勘というか歌舞伎勘というかそういうものって毎日大舞台に出てないと身につかないんだろう。ニンとしては愛之助に合った役で、爽やかで颯爽とした裁き役の様子があって良い。子役に見せる優しさや、ユーモラスさもあり、持ち役にしてほしい。

笑三郎の葵が品と憂いがあって良い御台所。
亀蔵の瀬尾は初めて見たが前半の憎々しげな様子から、後半一転して孫への情愛を見せての壮絶な最期までしっかり見せた。兵馬返りもやって機敏さを見せた。
松之助と吉弥が達者。

河竹黙阿弥 作
二、新古演劇十種の内 土蜘(つちぐも)
叡山の僧智籌実は土蜘の精  松緑
源頼光           彦三郎
侍女胡蝶          梅枝
坂田公時          萬太郎
巫子榊           新悟
太刀持音若         左近
石神実は小姓四郎吾     亀三郎
碓井貞光          橘太郎
渡辺綱           松江
番卒藤内          坂東亀蔵
番卒次郎          片岡亀蔵
番卒太郎          権十郎
平井保昌          團蔵

松緑の土蜘は再演だそうだが、初演は見ていない。花道を音もなく出てくるところからぞわぞわさせる。舞台中央に来ての台詞も底知れない雰囲気がある。ひんやりとした物の怪の冷たさを感じる。その一方で不思議な清潔感のようなものがあり、それは後シテで隈を取っても変わらない。蜘は蜘でも、泥臭さがないとでも言おうか。そこが逆にそら恐ろしい感じもして、面白い土蜘だった。もちろん、踊りはキレがあって上手いし、前シテの最後に低い姿勢のまま花道を入っていくスピード感も素晴らしい。本役としてこれからも演じてほしい。

彦三郎の頼光、貴公子然とした姿が清々しく、御大将としての格と貫禄もあって良い。
團蔵の保昌が眼光鋭く、いかにも一人武者の存在感たっぷり。
梅枝の胡蝶も品良く美しい。
左近の太刀持ち音若が凜々しく、きびきび。

間狂言はW亀蔵の共演。
小亀ちゃんこと亀三郎ちゃんも愛嬌たっぷりに達者なところを見せた。権十郎がまたも保父さん(笑)。
新悟の巫女榊がたおやか。

若手から中堅世代中心で古典をちゃんと見せられたのが収穫。
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吉例顔見世大歌舞伎・夜の部 [舞台]

歌舞伎座

一、仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)
五段目  山崎街道鉄砲渡しの場
 同   二つ玉の場
六段目 与市兵衛内勘平腹切の場

早野勘平   仁左衛門
女房おかる  孝太郎
斧定九郎   染五郎
千崎弥五郎  彦三郎
判人源六   松之助
母おかや   吉弥
不破数右衛門  彌十郎
一文字屋お才  秀太郎

仁左衛門の勘平は一挙手一投足隅々まで磨き上げられた超絶技巧の細工の芸術品のよう。どの目線にも、どの動作にも意味があり、どの場面を切り取っても絵になって美しい。非の打ち所のないと言って良いくらい完璧。でもそこが、息苦しくもある。最初から最後まで「いちいち」決めてこられると、目を離すこともできず、他の役者をちゃんと見ることもできず(苦笑)、かえって芝居に入り込めずに終わってしまった。う~ん、何なんだろう。新聞等の批評も含めて世の中大絶賛なので、私だけですね。私にはにざ様の勘平はちょっとしんどい。もちろん、勘平の心の動き一つ一つが手に取るようにわかって、後悔、絶望、悔しさなどなどに苛まれる勘平の苦しさ辛さにこちらまで身を切られるよう。その生々しさも見ていて辛い一因かも。腹を切って、その後で疑いが晴れての苦しい息の中での儚い笑顔、連判状に名を連ねたうれしさと、仇討ちに加わることなく先立つ悔しさがない交ぜになった泣き笑い、あれは卑怯だ。反則だ。あんな笑顔見せて死んでいくなんて。

孝太郎のお軽がしっとりとして儚げな良い女房ぶり。
秀太郎のお才が花街の女将らしいさばけた中にも、しっかりとした一種の冷徹さも見せてさすがに上手い。
彦三郎の弥五郎が、熱血漢らしく、また勘平との日頃の友情を感じさせる。
染五郎の定九郎は残忍さが薄くニンではないが、造形が美しい。


恋飛脚大和往来
二、新口村(にのくちむら)
亀屋忠兵衛  藤十郎
傾城梅川   扇雀
孫右衛門   歌六

息子役の藤十郎の方が父親役の歌六よりずっと年上という逆転。まあ、歌舞伎では珍しくもないが。
藤十郎は足下は衰えが見えて弱々しいところもあるが、それを上回る二枚目の色気と情の濃さで見せる。台詞よりも、格子の向こうから梅川と孫右衛門のやりとりを見守る表情に父への愛情、自分の行状への悔いなどが表れる。
扇雀が、普段のこの人のきつさがあまりなく、細やかな情を見せて、しっとりと美しい。
歌六の老け役はすっかり堂に入ったもので、老父の切なさ哀れさがたっぷり。でもこの人は同じ老け役でも、「岡崎」の幸兵衛とか「すし屋」の弥兵衛のような気骨のある老人の方が本領のような気もする。

元禄忠臣蔵
三、大石最後の一日(おおいしさいごのいちにち)
大石内蔵助   幸四郎
磯貝十郎左衛門   染五郎
おみの  児太郎
細川内記   金太郎
堀内伝右衛門   彌十郎
荒木十左衛門   仁左衛門


高麗屋三代が顔を揃え、現名での最後の舞台を務めた。
幸四郎の内蔵助は理知的で懐深い様子。独特の台詞回しも新歌舞伎だとそう気にならない。部下の隅々に気を配り、最期まで見届ける大きさと強さ。花道を歩む晴れ晴れとした表情に「幸四郎」との別れが重なり、見ているこちらも感無量。
金太郎の内記が行儀良く、内蔵助との対面も堂々として爽やか。「名残が惜しいのう」などの台詞が、現名での祖父との最後の芝居という現実とオーバーラップする。
染五郎の十郎左衛門が二枚目で誠実な優男。
彌十郎の伝右衛門は篤実な武士の様子だが、やや情感過多な気もした。

だがこの芝居でいちばん良かったのは児太郎のおみの。幸四郎、染五郎相手のおみのなら今月だと雀右衛門あたりが出ても良いくらいの大役、抜擢と言っても良いだろう。
おみのって難しい役だと思う。一つ間違うと可愛げない娘に見えるし。おそらく今まで見た中で最年少の児太郎は、恐れや不安を押しのけても意志を貫こうとする強さと健気さが、大役に取り組む本人の必死さと重なって、期待以上に胸打たれた。武家の娘の気概と女心の葛藤が哀れで儚い。
まさかこんなに泣かされるとは思わなかった、と言うくらい泣けた。

仁左衛門が荒木十左衛門で付き合うごちそうで華を添える。(でも本当いうと、吉右衛門に付き合ってほしかったね。兄一家の襲名前最後の舞台なんだからさ。)

千穐楽の日には、なんとカーテンコール付き。染五郎と金太郎も呼び出され、客席も一緒に三本締め。
まあ、良いんだけどね。劇の幕切れで内蔵助が粛々と花道を歩むのを見送って「幸四郎さんさようなら」と別れを告げたしみじみとした気持ちをどうしてくれる、と言う思いも正直なところ半分以上ありましたわ。


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吉例顔見世大歌舞伎・昼の部 [舞台]

歌舞伎座

今年の歌舞伎座顔見世は、大御所が顔を揃え、当たり役を披露する、顔見世にふさわしい興行だった。さらに、来年1月の襲名を控えた高麗屋三代にとっては現名での最後の舞台となった。

湧昇水鯉滝
一、鯉つかみ(こいつかみ)
市川染五郎本水にて立廻り相勤め申し候
滝窓志賀之助実は鯉の精/滝窓志賀之助  染五郎
小桜姫   児太郎
奴浮平   廣太郎
堅田刑部  吉之丞
篠村妻呉竹  高麗蔵
篠村次郎公光   友右衛門

なんだかここ数年よくかかるようになった演目。中身があるわけでなく、早替わり、本水の中での立ち回り、宙乗りといった外連が売り。
染五郎は前髪の若衆姿は美しく、立ち回りは颯爽と。一粒で二度美味しい的な頑張り。染五郎最後の主演作にこれを持ってきたのは、幸四郎になっても傾いて見せます、の宣言か。
ヒロイン小桜姫の児太郎が赤姫の衣装が似合っておっとりと美しく、染五郎との踊りも綺麗。

二、奥州安達原(おうしゅうあだちがはら)
環宮明御殿の場
安倍貞任   吉右衛門
袖萩    雀右衛門
安倍宗任   又五郎
八幡太郎義家  錦之助
平傔仗直方  歌六
浜夕   東蔵

昔国立劇場でやったときは吉右衛門が袖萩と貞任の早替わりを務めた。今回は袖萩は雀右衛門。
前半は雀右衛門の袖萩と歌六東蔵のやりとりが泣かせる。隔てを越えられない親の情、隔てがあっても変わらぬ親の愛。雀右衛門がひたすら耐える姿が哀れで切ない。子役も好演。雪が降る中抱き合う母と子。葵大夫の「親なればこそ子なればこそ」の絶唱に涙腺崩壊。

後半どころか3分の2くらい過ぎてやっと現れる吉右衛門。初めはすました顔の中納言。傔仗の懐から書状を抜き取る時にチラリと見せる本性。立ち去ろうとする時聞こえる陣鐘に不審顔で公家と貞任の顔が交錯するのが巧み。義家に見破られてからはぶっ返ってひたすら大きい。
豪傑が妻子との別れに見せる涙がほろ苦く、しかし娘を押しやって戦いへと向かう。赤旗をさああっと投げて肩に掛けて決まった姿の豪快さ立派さ。これぞ古典歌舞伎の英雄!ただただ格好いい~!

歌六の傔仗が謹厳で気難しくも、心の底では娘を思う老人の一徹さと悲しさを体現。
東蔵の浜夕は情がたっぷりだが夫に背くこともできない母の切なさ。
又五郎の宗任が荒々しさがあって立派。
錦之助の義家が颯爽とした貴公子ぶり。

しかしこの演目、歌舞伎だとこの段しかやらないが、せめて朱雀堤の段からやらないとわけわからないよなあ。この段でも始めの袖萩の妹で義家の妻となっている敷妙がやってくるところなどカットしてるし。


河竹黙阿弥 作
三、雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)
直侍
浄瑠璃「忍逢春雪解」
片岡直次郎   菊五郎
三千歳    時蔵
亭主仁八   家橘
女房おかよ  齊入
寮番喜兵衛   秀調
暗闇の丑松   團蔵
按摩丈賀   東蔵

直侍の菊五郎、体にしみこんだ江戸のいい男の魅力が溢れる。さらっとして嫌みがなく、粋でスマートで。もう型とか手順とか、そういう物から解き放たれたような自然さで、江戸の世界を眼前に描き出してくれる。ほんとにしびれる格好良さ。江戸の世話物の面白さはこの人で終わってしまうのではないかと言う恐怖心さえ抱かせる。

時蔵の三千歳はただただ直さんが好き、で生きている。苦界に生きるよすがとしての直さんの存在が自らの存在のすべてで、直さんがいなければ生きていけない。でもそれは決して弱々しいというのでもない。一途という言葉を現したらこうなる、と言う女。ただ儚く美しい。

蕎麦屋の夫婦が家橘と斉入。幹部がやるのは珍しいんじゃないか。記憶がないんだけど。二人ともわざとらしさがなく、淡々とした様子で、だが誠実な振る舞いが好ましい。
丈賀の東蔵も人の良い様子で、すっかり本役。
丑松の團蔵が、凄味があり、後ろ暗い風情が滲む。

いかにも劇団らしい、江戸の世話物の面白さが凝縮されたような舞台。堪能した。


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国立劇場11月歌舞伎公演 [舞台]

国立劇場大劇場
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11月の国立劇場は新歌舞伎の二本立て。それもどちらも何十年ぶりとかの珍しい作品。

山本有三生誕百三十年
山本有三=作
二世尾上松緑=演出
坂崎出羽守(さかざきでわのかみ) 
坂崎出羽守成政:尾上 松 緑
金地院崇伝:市川 左團次
本多平八郎忠利:坂東 亀 蔵
家康の孫娘 千姫:中村 梅 枝
松川源次郎:中村 歌 昇
坂崎の小姓:市村 竹 松
坂崎の小姓:中村 玉太郎
松平の使者:市川 男 寅
三宅惣兵衛:市村 橘太郎
本多佐渡守正信:嵐 橘三郎
南部左門 :中村 松 江
本多上野介正純:河原崎 権十郎
刑部卿の局:市村 萬次郎
徳川家康:中村 梅 玉

焼け落ちる大阪城から千姫を救い出したら褒美に輿入れさせるという家康の言葉を受けて、顔にやけどを負いながら千姫を助け出した出羽守。しかし千姫は出羽守への輿入れを拒み、家康の命を受けた金地院から姫は落髪すると聞かされて出羽守は諦めるが、実は姫は本多平八郎に嫁ぐ。それを知った出羽守は輿入れ行列に切り込み、切腹する。
山本有三作の新歌舞伎。六代目菊五郎が初演、二代目松緑、初代辰之助に受け継がれて、当代の初演。

姫の歓心を買おうとしてもうまくいかず、どんどん負のスパイラルに落ちていく松緑君、無骨一辺倒な男の不器用さが可哀想で見ているのが辛いほど。
集中力がすさまじいのは最後の館の場面。ピリピリした空気に舞台上の家臣だけでなく客席まで飲み込まれていく。家臣の気遣いさえも出羽守には慰めどころか屈辱だったろう。こらえにこらえたものが最後に爆発して行列に切り込むのが、あらすじ読んでわかっていても「止めて、止めて」と思ってしまう。。

もし出羽守がやけどしなかったら?もしあの船に本多平八郎が乗らなかったら?千姫は黙って出羽守に輿入れしただろうか。なんて考えてしまう。様々な不運が出羽を襲う。家臣のことも思って耐えに耐えた気持ちが最後に切れる切なさに胸が塞ぐ。死を前に歌昇君源六への温かい言葉がかえって辛い。

松緑はそういう出羽守の昏い内にこもった情念を描き出してはまり役。見るのが辛い、でもまたやってほしい、と矛盾した感想を持ってしまう。新しい当たり役が加わったと思う。

出羽守可哀想だけど、千姫の気持ちもわかるわ~ってところがあって、結局家康があんなこと言うから悪いんじゃん、ってなる。でも尼になるから諦めろって言われたのに輿入れするとなったら、そりゃ切れるよな。

源六は出羽守の鏡だ。出羽が大名として武将として口に出せないことを源六は軽々しく口にする。それが出羽の心をえぐる。腹も立てる。でもきっとだれよりも愛していた家臣。。。その最期をもたらしたのは千姫か、自分か。源六がああいう行為に出なかったら出羽も輿入れ行列に切り込まなかったのでは。そんな純粋に出羽守を家臣として慕う源六を歌昇が熱演。熱血漢で一直線な若侍が似合い。

千姫の梅枝君がまたぴったりでね。ツンとして気位高く、とは言っても底意地が悪いわけじゃない。嫌なことは嫌という正直さとおじいさまに甘える塩梅が絶妙。現実に近くにいたら友達になりたくないけど。

橘太郎が思慮深く、忠義に篤い家老。お家のため、出羽守のため、必死に、しかし冷静に務める。源六とは違うがこれも忠義。

左團次の金地院が老獪さを見せ、梅玉が孫には甘い家康の狸親父ぶりを飄々と見せる。
亀蔵の平八郎が爽やかな二枚目ぶりで、出羽守との違いを際立たせる。いや~、平八郎が悪いわけじゃないんだけど。でもこの人がいなければ、とは思ってしまうよな。


長谷川伸=作
大和田文雄=演出
沓掛時次郎(くつかけときじろう) 三幕

沓掛時次郎:中村 梅 玉
三蔵女房おきぬ:中村 魁 春
大野木の百助:中村 松 江
苫屋の半太郎:坂東 亀 蔵
三蔵倅太郎吉:尾上 左 近
安宿の亭主安兵衛:市村 橘太郎
安兵衛女房おろく:中村 歌女之丞
六ッ田の三蔵:尾上 松 緑
八丁徳:坂東 楽 善

梅玉さんの股旅物って、どうよ?当代随一の殿様役者だよ?と思ったがこれが意外なほどよかった。
渡世人といっても根っからの悪人ではなく、どこか厭世的なムードを漂わせた時次郎が、渡世の義理から殺した三蔵に頼まれて残された妻子の世話をするうち、女房に淡い慕情を抱くも口には出せず。。。という時次郎の、冷めた心に宿るほのかな思い、熱さを前面に出さない感じがいかにも梅玉さん。心根が優しく清潔な時次郎に新しい梅玉さんの魅力発見。

魁春の薄幸で手を差し伸べたくなるおきぬもぴったり。
左近ちゃんが達者で、でもこまっしゃくれた感じはない嫌みのない子役ぶり。
橘太郎と歌女之丞の宿屋夫婦が人情のある様子でもり立てる。
最期に出てくる楽善がどっしりとした親分の落ち着きを見せる。
松江と亀蔵が弱っちいヤクザで、これはこれで梅玉を引き立てて良い味を出す。
そして序幕でさっさと殺されちゃうけど松緑もヤクザにしてはまっとうな人間で、良い父で夫であることを印象づける。ここ大事。

とても叙情的な作品で、決してハッピーエンドじゃないし悲しいけど、後味は爽やかでさえある。
ただ場面転換が多く間が空くのが煩わしい。もうちょっと工夫できないかとは思う。

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極付印度伝   マハーバーラタ戦記(まはーばーらたせんき) [舞台]

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インド歌舞伎?マハーバーラタ?なんじゃそりゃあ。と聞いた時はぶったまげた。菊ちゃん、「十二夜」もやったし、意外と新作好き?正直恐る恐る見に行った。


極付印度伝
マハーバーラタ戦記(まはーばーらたせんき)
迦楼奈(かるな)・シヴァ神(しん) = 尾上菊之助(5代目)
汲手姫(くんてぃひめ) = 中村時蔵(5代目)
帝釈天(たいしゃくてん) = 中村鴈治郎(4代目)
鶴妖朶王女(づるようだおうじょ) = 中村七之助(2代目)
百合守良王子(ゆりしゅらおうじ)・多聞天(たもんてん) = 坂東彦三郎(9代目)
風韋摩王子(びーまおうじ) = 坂東亀蔵(3代目)
阿龍樹雷王子(あるじゅらおうじ)・梵天(ぼんてん) = 尾上松也(2代目)
汲手姫(くんてぃひめ)・森鬼飛(しきんび) = 中村梅枝(4代目)
納倉王子(なくらおうじ)・我斗風鬼写(がとうきちゃ) = 中村萬太郎(初代)
沙羽出葉王子(さはでばおうじ) = 中村種之助(初代)
弗機美姫(どるはたびひめ) = 中村児太郎(6代目)
森鬼獏(しきんば) = 尾上菊市郎(初代)
拉南(らーな) = 市村橘太郎
道不奢早無王子(どうふしゃさなおうじ) = 片岡亀蔵(4代目)
修験者破流可判(はるかばん) = 河原崎権十郎(4代目)
亜照楽多(あでぃらた) = 坂東秀調(5代目)
羅陀(らーだー) = 市村萬次郎(2代目)
弗機王(どるはたおう)・行者 = 市川團蔵(9代目)
大黒天(だいこくてん) = 坂東楽善(初代)
太陽神(たいようしん) = 市川左團次(4代目)
那羅延天(ならえんてん)・仙人久理修那(くりしゅな) = 尾上菊五郎(7代目)

幕開き、天上の神々が集う場面は忠臣蔵の大序の趣。だんだんと神々が目を覚ます。この神様の衣装がみんな金色の輝くようなもので度肝を抜かれた。しかも膨らんだスカートみたいなデザインだし。ええ~、全編こんな感じなのかな。と思ったら、次の場面から、地上の人間世界の人々は古典歌舞伎風の着物の衣装で区別をつける。

とにかくストーリーが全く知識がないため、1回目に見た時は筋に追われる部分も多々ありだったが、展開が面白く飽きさせない。また何度かある立ち回りも大がかりでスピーディ。特に終幕の馬車を使った菊之助と松也の対決は手に汗握る。
舞台装置そのものは意外にシンプルで、大きな屏風絵風の背景画が見事で簡潔ながら場面の雰囲気を出す。
さらに音楽が、純歌舞伎の黒御簾音楽や竹本に加えて、シロフォンや太鼓などの西洋楽器を使った音楽が使われて、それが不思議によくなじんで美しかった。

菊之助扮するカルナは悩める青年の趣。戦を止める使命を持って生まれたのに、いつの間にか一方の側に加担し、安易に誓った友情に縛られる。根が真っ直ぐで清潔そのもの故にジレンマに陥っていく貴公子がぴったり。力強い六法に立ち回りもあって、すっかり立役。女形の菊ちゃん好きな私はちょっと複雑(苦笑)。

対決するのは松也のアルジュラ王子。物語では「力で物事を解決しようとする」人物となっているけど、見ている限りもっと知性もあり、しっかりした人物に見えたけど。カルナと宿命のライバルで、でも実は異父兄弟で、と言う役回りで、菊ちゃんと対峙してしっかり引けを取らなかったのは立派。このところ外部出演も多かったけど、歌舞伎役者としても成長を感じられてうれしい。

七之助が松也ら五王子と対立するヅルヨウダ。従兄弟である五王子に憎しみを抱き、冷酷に卑劣な手段を使っても追い落とそうとする強い王女。七之助はこう言う強さを持った女がうまい。そしてその強さの一方で、決戦を前に本心を吐露する姿が孤独の影をまとい悲しい。キレッキレの立ち回りに壮絶な最期まで見せて場をさらう。

その他いちいち上げてたらきりがないが、他の人も適材適所でそれぞれ見せ場があり充実。
中でも坂東亀蔵は梅枝との所作事もあれば、七之助との立ち回りもあり大いに活躍。

中心は菊之助以下の若い役者だが、菊五郎他ベテランが要所要所を締めて存在感を見せる。この若手とベテランのバランスが良くて、新作にありがちな上滑り感が少なく、古典歌舞伎のような味わいもあり、新作苦手な私のような者も十分楽しめた。
是非再演してほしい。
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「通し狂言 霊験亀山鉾」 [舞台]

国立劇場大劇場
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久々の仁左衛門の国立出演は悪役二役。

藤田水右衛門・古手屋八郎兵衛実は隠亡の八郎兵衛 = 片岡仁左衛門(15代目)
大岸頼母 = 中村歌六(5代目)
石井兵介・石井下部袖介 = 中村又五郎(3代目)
石井源之丞 = 中村錦之助(2代目)
源之丞女房お松 = 片岡孝太郎(初代)
若党轟金六 = 中村歌昇(4代目)
大岸主税 = 中村橋之助(4代目)
石井家乳母おなみ = 中村梅花(4代目)
僧了善・縮商人才兵衛 = 片岡松之助(4代目)
丹波屋おりき = 上村吉弥(6代目)
掛塚官兵衛・仏作介 = 坂東彌十郎(初代)
芸者おつま = 中村雀右衛門(5代目)
石井後室貞林尼 = 片岡秀太郎(2代目)

何年か前、松竹座で見ている演目だが断片的にしか覚えてなくて、気分はほとんど初見(苦笑)。
仁左衛門の水右衛門は極悪人。血も涙もないとはこのこと。卑怯卑劣な手段で情け容赦なく善人側の人々を次々に手に掛ける。7月の「盟三五大切」の源五右衛門のような情状酌量の余地も全くない、真っ黒黒の悪人。それをにざ様は実に楽しげにやっていて、そのニヒルなほくそ笑みが惚れ惚れするほど格好いい。もう一役の八郎兵衛の方はちょっとコミカルな面もあるが悪人に変わりなく、芸者おつまに惚れてチャリめいたところも見せるが(この軽みがまた絶妙)、水右衛門に加担して悪事を働く。正直言うと、二役両方悪人より、一役は善人だったりした方が見る方は面白いのだが、今回はにざ様の悪の魅力たっぷりと言うことでまあ良いか。それにしてもにざ様、悪役好きなんだなあ、ほんとに楽しそうだったわ。

錦之助が絵に描いたようなクズ男。金なし力なし。でも女にはもてる。妻がいるのに仇討ちの旅に出たはずが芸者といい仲。あっさりにざ様に返り討ち。端から見るとどうしようもないクズなんだけど、許されちゃう優男。こういうのやらせたら今右に出る者がいないんじゃないかという錦之助さん。

孝太郎がその妻で、身分が低く源之丞の家から認められない悲しさと、それでも気丈に振る舞い、最後は夫に代わって敵を討つ心の強さを見せる。
雀右衛門が芸者おつま。こちらも源之丞につくし、敵捜しに協力して、結局殺されてしまうかわいそうな女。本水の中での仁左衛門との立ち回りも見せ活躍。

秀太郎が源之丞の母で、武家の後室らしい凜とした様子に自分を犠牲にして孫の病気を治す慈悲深さを見せてさすがに締める。
彌十郎が悪人と善人二役で幅の広さを見せた。
吉弥が水右衛門に加担する女将。色気もあり、小狡さもある様子がうまい。
又五郎が誠実な下僕でニン。
最後は歌六が裁き役で締める。

今回、雀右衛門に歌六、又五郎と播磨屋組が脇を固めたことで、仁左衛門に余裕が生まれたように見え、周りに花を持たせる部分もありながらなおかつ仁左衛門ががっつり美味しいところは持って行くという舞台だったように思う。
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秀山祭九月大歌舞伎 夜の部 [舞台]

歌舞伎座
1709歌舞伎座b.jpg
一、ひらかな盛衰記(ひらがなせいすいき)
逆櫓
船頭松右衛門実は樋口次郎兼光  吉右衛門
漁師権四郎     歌六
お筆      雀右衛門
船頭明神丸富蔵   又五郎
同 灘吉九郎作   錦之助
同 日吉丸又六   松江
松右衛門女房およし   東蔵
畠山重忠    左團次

9年ぶりの吉右衛門の樋口。もうどこをとっても素晴らしいの一言。
前半、松右衛門としての台詞は世話物らしいくだけた調子で梶原に呼び出された件を物語る。明るく屈託のない様子。眼目は二度目の出で、樋口と顕すところから。戸口から外をうかがいながら「権四郎、頭が高い」の圧倒的な威圧感。それがまた権四郎に頭を下げての「親父様……」でまた少し世話に戻って許しを請う語り口に真摯な情がこもり、侍の樋口と、婿の松右衛門が行ったり来たりしながら心情を表していく、その表現の的確さと深さ、人間のあたたかさ大きさ、ただ聞き惚れる。
後半の立ち回りは、さすがに体の衰えも垣間見えるが、堂々たる威丈夫ぶり。捉えられた無念、畠山の武士の情けに感じ入る広やかさ、そして若君を助ける権四郎の情への感謝。そこにいるだけで、ただただ大きくて立派でかっこいい。

歌六の権四郎がまた素晴らしい。一徹で孫への愛情が深く、故にお筆が許せず怒りにまかせて若君を討とうとする…その怒りと悲しみの深さ激しさが胸を刺す。それが松右衛門が樋口とわかっての納得と、それでも諦めきれない悲しみが、笈摺の始末のくだりにあふれ出す。

雀右衛門のお筆、ひたすら若君大事の忠義心にあふれる。忍の一字のつらい役どころ。槌松を死なせてしまった申し訳なさと、なんとかして若君を取り返したい気持ちのせめぎ合いに苦悩する様子がひしひしと伝わる。しとやかな中に心の強さを見せる武家女らしいキリッとした雰囲気もあって素敵。

東蔵のおよしも人の良さそうな、女房で母で、また父の世話をする娘で、かいがいしい様子に子供が死んだと知った嘆きの哀れさが大げさでなく伝わる。

とにかくこの四人のアンサンブルが素晴らしく、チーム播磨屋の面目躍如。
いつも同じ顔ぶれってつまらない、とも思うけれど、やはりおなじみだから生まれる空気感もあって、今回のような舞台はこの顔ぶれだからこそとも思えた。

昼の幡随院と言い、夜のこれと言い、今この舞台を見られたことに感謝。

あと、船頭に逆櫓を教える場面では遠見の子役を使った。この子役さん達が達者だったことも記憶しておきたい。

二、再桜遇清水(さいかいざくらみそめのきよみず)
桜にまよふ破戒清玄
新清水花見の場
雪の下桂庵宿の場
六浦庵室の場
清水法師清玄/奴浪平  染五郎
桜姫    雀右衛門
奴磯平   歌昇
奴灘平   種之助
妙寿    米吉
妙喜    児太郎
大藤内成景   吉之丞
石塚団兵衛   橘三郎
按摩多門    宗之助
荏柄平太胤長   桂三
千葉之助清玄   錦之助
山路    魁春

吉右衛門が松貫四の筆名で書いた清玄桜姫ものの狂言。初演再演では自分が演じた役を染五郎に譲った。新作とは言えオーソドックスな歌舞伎で、知らずに見たら古典と思うかもしれない。あくまで歌舞伎は江戸の空気を伝えなくては、と言う吉右衛門らしい作品ではある。

染五郎が奴と破戒前後の清玄という実質三役を生き生きと言うよりノリノリでやっていて、なんだかとても楽しそう。吉右衛門の実演は見ていないのだが、染五郎への当て書きじゃないのかと思うくらい。特に最後の破戒した清玄の鬼気迫る様子は見もの。

雀右衛門の桜姫と錦之助の清玄が似合いのカップル。しかしまあ、お姫様の無邪気な恋は災いを呼ぶのは常としても、さすがにこの僧清玄からの祟られ方は、身から出たサビとは言え可哀想。

魁春が桜姫に仕える腰元で、ある意味この人の策略がすべての元凶と言えなくもないのだが、しれっとやっちゃう感じが魁春さんらしいと言うかなんというか。この人って意外に巧まざる可笑しさがあるんだよね。

歌昇・種之助がそれぞれ奴で活躍。
児太郎と米吉は僧清玄に仕える小姓で、破戒した後も世話をする健気さ。でもあまりのお師匠様の破戒ぶりに行く末を儚んで身を投げちゃうと言う、哀れな二人。でも可愛かったな。

最後の「ええ、ここで終わるのか!」な点を始め、突っ込みどころはいろいろあるが、染ちゃんにはぜひ持ち役にして納涼ででも再演してもらいたい。


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